それは、何処か遠くの昔話。

昔々あるトコロに

漁師の青年がいました。

青年がある日

小さな船で漁に出ると

突然の嵐に巻き込まれ

荒れ狂う海のなかへ…。

息も出来ず

消えゆく意識のなかで

誰かの声と

触れる温かさを感じながら

目を閉じました。

それからどれくらいの刻(とき)が

経ったのでしょう?

青年が再び目を開けたとき

自分を心配そうに覗き込む

深い瞳と視線が交わりました。

瞳の主は優しく

嵐が去った浜辺に倒れていた青年を

父と共に

自宅のベッドまで運び

青年が今目を覚ますまで

渾身的に世話をしてくれていたのでした。

青年は

海で溺れる前の記憶が曖昧でしたが

看病のおかげで

カラダの傷は次第に癒え

ゆっくりと穏やかに

同じ刻を過ごすうち

2人は互いを想うようになりました。

それはとてもとても幸せでしたが

何処か…故郷にいるはずの

父や母のことが

時折ぼんやりと頭に浮かび

青年のココロの揺れは

とうとう

自身で抑えられなくなりました。

そして

星も見えない暗い夜

想いを手紙に残し

彼女の元を去ったきり

青年は2度と

その地へ帰ることはありませんでした。

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何処かにいる、あなたへの物語。 玉置ぽえた。 @poeta

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