第4話
一日の業務が終って、颯爽と帰ろうしたエーリスはマルガレーテに案の定捕まった。
「昼はサボった分、残って今日の当番のリエンヌを手伝いなさい」
そう言われてもエーリスに出来たのは、やっぱり最敬礼からの「はい! 喜んで!」だけだった。
ギルドの営業は日中が主になるのだが、人が生活していれば昼夜関係なくトラブルは起きる物だし、まして緊急ともなれば……という事もあるので、一人なし二人が残って夜勤をするのが通例となっている。
言わば一日拘束コースであり、そのまま次の朝も業務があるのだら、ブラックなんて言葉で言い表せないレベルだったりする。
「はぁ~、やってられないですよね、先輩」
妙に甘ったるい声で、リエンヌが言う。
彼女は今、昼受けた依頼の処理に追われていた。手は世話なしなく動き、受理のサインや、逆に完了のサインなどして高く積まれた山を低くしていた。
「ふぇ? あぁ、うん。そうだね」
エーリスも一生懸命に船を漕いでいたのが、そのリエンヌに声に邪魔をされた。
「……もしかて、寝てました?」
当然の反応をするリエンヌに、エーリスは簡単に頷いた。
「うん。暇だったからね」
地方ならそれこそ昼夜関係ないかもしれないが、ここは王都であり、ましてギルドは中央本部を合わせて四つもあるのだ。まして緊急なら尚の事、中央本部に誰もが駆け込むって物だ。
そりゃ、やる事なんてそれこそ書類の整理くらいだろう。
「もう! なら手伝ってくださいよ〜、先輩」
あざとく小首を傾げでお願いしてくるサキュバスの後輩に、けれどエーリスは興味なくため息一つ吐く。
「ヤダよ。面倒くさいもん」
ハッキリキッパリ断られて、リエンヌは戸惑いをみせる。
「ちょ、なんですか。私の手伝いをしなさいってマルガレーテ先輩に言われてるんじゃないんですか? なら手伝ってくださいよ〜」
チラッとリエンヌを見れば、瞳を潤ませ上目遣いで、さらに両手を合わせて、お願いします、みたいな感じを出していた。
あざとい、確かに可愛く感じるし、助けて上げたくなる気がしなくもない。流石はサキュバス。とも思うけど、
「ヤダ」
プイっとエーリスは視線を逸らすと、自分の机にダラっと上半身を預けた。
(もう! なんなんですか! ワタシがこんなにも頼んでるの! なんで助けてくれなの! 他の人なら頼まなくとやってくれるのに!)
と、内心で叫ぶリエンヌ。
それでも変わらす笑顔でいられるのは流石ではあるが、そんな内心の事はエーリスにわらかないし、わかったとしても特段気にする事でもなかった。
「はぁー」
リエンヌは体中の力を抜くようなため息を吐くと、
「先輩って、私の魅了が全然効かないですよね。他のヴァンパイアでも、ちゃんと魅了出来るんですよ。流石に魅了で他の種に負けるわけにはいかないですから」
そこまで言って、またため息一つ。
少しだけど顔を起こしたエーリスは、なぜ泣きそうな顔をしている後輩と目があった。
「でも先輩には、全然効かない。なんか自信無くしそうなんですけど? それってフォーリングだからですか?」
その質問に、エーリスはどう答えた物かと思案する。
実際のところ、フォーリングであるか魅了が効かないで正解ではあるのだけど……でも、違うと言えば違ったりする。
エーリスがこの世界に来る前の世界で、ほぼ記憶が残ってないのだがブイチューバーなる物をやっていたのだ。
で、ある程度お金が貯まったから本格的はフルモデリングにしようと考えて、キャラメイクとか設定とか、もう厨二病全開で作って、いざとある業者にそれを頼んだところ、受け取りのサインをしたところで気づけば、そのブイモデルのした姿でこの世界に居たのだ。
だからエーリスの本体? というモノはこのキャラの中に居る感じであり、だからそ精神に影響を与える物は本体? まで届かないのだ。
とは言え、テキトーな事を言える雰囲気じゃないのも確かであり……。
こういう場合の対処法は一つしかない。
エーリスはおもむろに立ち上がると、リエンヌに近づき、その濡れた瞳を優しく拭う。
「お腹空いたよね。串焼きで言い? 美味しい店知ってるんだ。ちょっと買ってくるね」
ポヤっとする後輩に笑いかけて、エーリスはギルドを出入り口に向かって歩き出した。
そう、三十六計逃げるにしかずだ。
この後、エーリスが串焼きを両手にギルドに戻れば、そこにはトラブルの種が居たりするのだが、それはまた別の話。 終わり。
バ美肉して遊んでたブイチューバー、新たにモデリング転移したら何故か異世界転生してました。命のやり取りとかあり得ないので、ギルドの受付嬢をやってます 水無月/成瀬 @minazuki-naruse
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