雷雷軒のラーメンは、はやい、はやい、はやい!
さわみずのあん
やすくはない。うまくもない。はやいだけの、ラーメンお待ち?
トラックに轢かれた。
異世界転生ものの始まりではない。
事故だ。
事実だ。
現実だ。
けれど、全く痛くない。
左の視界が真っ赤に染まっている。
手で顔を拭うと、温い。ぬめぬめした赤が。
血だ。
頭を強く打っているのだろうが。
アドレナリンというやつか?
意識は不思議と、はっきりしている。
使命。
そうだ、俺には、使命がある。
決して破ってはいけない。
雷雷軒の掟。
出前のラーメンの。
麺を伸ばしてはいけない。
ナナハンハイパーカブはどこだ。
あった。
俺と同じく横転していたが。
その後部、タンデムには。
出前機が垂直に吊るされている。
無事か?
俺は、這うようにバイクに縋り付く。
岡持ちを開ける。
ラーメンは。
無事だ。
雷紋が大きく二つ描かれた器には。
ぴったりとラップが張っていて。
ラーメンの盛り付けも崩れていない。
良し。
まだいける。
俺はナナハンを起こす。
左足が折れているようだが。
関係ない。
俺は、アクセルを、フルスロットルに。
「お待たせいたしました。雷雷亭です」
「あらー、いつも早いわねえ」
「ありがとうございます。ご注文いただいたラーメンです」
「はいじゃあ、千円。お釣りはいらないわ」
九百八十円のラーメンを。
無事、麺が伸びる前に届けた。
二十円。
へへっ。
儲け儲け。
あれっ。
おかしいな。
ナナハンハイパーカブが。
二台?
いや。
これは。
二重に、物が、見え、
ぐわん。ぐわん。ぐわん。
世界が、意識が、落ち。
俺は、のびた。
雷雷軒のラーメンは、はやい、はやい、はやい! さわみずのあん @sawamizunoann
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます