「因果」の名を冠するもの Ⅱ

「結局また先走られて戦闘に突入なされたのですね」

「いや、それはだな」

「言い訳は結構。そこで反省を噛み締めておいてください」

「む、ぅ」


宿に帰ってきた己は、戦闘の余波で煤けたローブをフィーに見咎められ、正座という人体にもっとも負荷を与えられるという罰を受けていた。


「それで、書庫には記録が残っていたか?」

「はい、該当しそうな人物が二十人ほど」

「二十人か...

その中から女の魔法使いに限定すると?」

「はい。その場合ですと七人でございます。」


それでも七人か...

特徴、、なにか気になることはあっただろうか...


「さらに白く濁った目を持っているここでは?」

「はい。さらに四人減り、三人まで絞られました。」


「それではそのなかで...」




月が東み傾き出した頃。

己とフィー、シャファリアは夕方にいた貧民街からさらに奥まった、街の境界線付近にやってきていた。

ここまでくる間に見ていたのは瓦礫の町、といった雰囲気だったが、街の境界線にほど近い現在地まで歩いてくると、すっかり苔や蔦に覆われた、さらに歴史のありそうな町並みに変化していた。


「ここがコマの家だ。それにしてもエラい美人を連れてるようだが、その嬢ちゃんも魔術師か」

「どうも初めましてシャファリア様。クレイル様の専属使用人、フィー・メモリアルと申します」


シャファリアとフィーが互いに自己紹介をしているのを尻目に、眼前のひと目では家だと判別つかない廃屋を見る。

コマ、と呼ばれていた少女の家はすっかり屋根が潰れ、一方の壁がもう一方に寄りかかって三角形を作っていた。


「あ、アニキ!と、今朝であった兄ちゃん。一体こんなに時間にどうしたんですかい?」

「ああ、こっちのクレイルがお前にイイトコに連れて行かれたあと、話す約束をしてたって言うからよ。連れてきたんだ」


目の前には今朝見たようなゴミ袋のような服を見に纏った少女が首を傾げて己達を不思議そうに見ていた。

灰色がかった髪、少し力を入れるだけで折れてしまいそうな手足、己よりも一回り小さな背丈と服以外何も身につけていない外観。


「...コマ、といったか。

約束通り引導を果たしに来た」

「??えっと...インドーって。あ、あのアニキ、この兄ちゃんおかしくなっちまいやした」


己が何を言っているのか、心底わかっていなそうな彼女に懐から手紙を取り出す。


「本名:ウィンビィ・フィーメ

幼少期、西大陸のとある国に奴隷として連れ去られた戦争孤児。一時期魔術師の傭兵として働いていた記録がみつかった。

いい加減その皮を脱いだらどうだ」


コマがバッ、と威嚇した猫のように体を翻し、崩れている壁の上に身を竦める。


「どこでそれを知った!いや、それよりいつから私に気がついていた」

「君のその幼い体躯で、己を無理矢理脇道に連れ込むなんて不可能だ。とはいえその程度で確信を持ったわけではない。

本当は己達は反則技を使ったようなものだ。なので気にしなくていい」


フィーの無言の抗議の視線を無視して、コマを睨み続ける。

すると幼い少女の顔がひび割れて、しわがれた老婆のものに変わりだした。


「クソ、知られた以上は殺さねば。何者も私の過去を知るんじゃない!!!」


皮を脱ぎ捨てるようにコマの残骸から抜け出すと同時に、身体中から吹き出した煙がウィンビィを包み込み出す。


「クソガキ、さっきは食事前だったから容赦してやったがな。今の私を捕縛できるってんならやってみろや!」


先のような空間を作り出すような煙の広げ方ではなく、四肢に、体に、頭に鎧のように煙をまとったウィンビィ。


「フィー、シャファリアを連れて下がっていろ。想定よりもずっと攻撃性能が高そうで、そして想像よりも何とかなりそうだ」

「本当にひとをイラつかせるガキだねぇ!」


いつの間に作ったのか、煙の鎧を身にまとった彼女は、その両手に刃の分厚い短剣を握り肉薄してくる。


戦場を駆け抜けた傭兵というのは伊達ではいのだろう、的確に心臓や喉、脳などの生命活動に必要な部分をひたすらに攻めたててくる。



横薙、勢いを利用した反対の手での刺突、振り下ろし、左から回し蹴り、蹴り上げ、飛びかかり...

大振りな攻撃が多いが、何かを狙っているのかひたすらに近接を仕掛けてくる。


「攫った子供はどうした。そもそもどうしてここの町で子供を攫い出した?」

「おしゃべりで時間を稼ごうってかい?その手には乗らないよ!」


さらに近距離で間合いを詰めてくる。

おかしい。

煙の量もあるだろうが、無手の己に超至近距離でラッシュを仕掛けるのにメリットなぞありはしないだろうに。


「フッ」

右から迫る短剣を払い落とし、肋に一撃、体重をかけた蹴りを見舞う。


「ッ」

「は、私に触ったなクソボケがァ。いてーだろ。この煙はよォ!」


煙と触れた足の甲がいつの間にか生えていたスパイクに靴ごと貫かれる。

――なるほど。だからあれほど明らかに煙の鎧を己と接触させたがっていたのか。


一度観察するために、後方に下がり距離を開ける。


「避けてばっかりじゃどうにもなんねーぞ!ほらほらほらほら!どうした、どうした!!」



狙うなら目。もしくは鎧を貫通するような鋭い一撃。

ただまあどちらにせよ、多少のリスクは飲まざるを得ない、か。


「さすがに女性一人だけを踊らせ続けるのも申し訳なくなってきた。足元失礼。」


蟷螂のように飛びかかってきた所を、避けるでなく、身をかがめながら敢えて二歩踏み込む。


「ンなッ!?」

「少しみせて貰うぞ。貴様の「因果」の、その根源を」


相手の動揺に合わせて指を噛み切り、手刀で鎧の一部を貫く。そして煙の内側、相手の肩に直接血文字を描いて相手と強制的に縁を結んだ。


手首から先が煙に貫かれる感覚と共に、己の意識は遠のいて行った。



■■■■■




「お腹すいたね!お母さん」

「そうね。もう少しでお父さんも帰ってくるからご飯にしましょうか」


羨ましいなぁ。あの子は毎日、明日への不安なんてなく生きているのだろう。


「何サボってやがんだウィンビィ。休む暇があったらさっさと運べ!お前ら見てえな奴隷じゃ、その家畜飼料の匂いを嗅ぐことすら贅沢なんだからな!」


毎日毎日、私は何をやっているのだろう。

最初はご飯を食べさせて貰えるから嬉しかったはずなのに。自分の食べていた物が家畜の食べ残しだと知ってから途端に惨めになった。

ご飯がなくても、それでも自由であったはずのこの身はいつしか両方を無くした。

この腱が切られた足じゃ、ここを出てもどうしようもない。もう目の前が真っ暗で、這って進むのすら億劫になった。


「あーあーあー。お前らはいいご身分だよなぁ。ええ!? こちとらお前らが仕事をサボるから給料減らされるってのに、タダ飯ぐらいですか。へーへーへー」


私を貧民街から連れ出した男は、私や他の皆を奴隷として近くで戦争をしている国に売ると話していた。それは遠い異国の地で、私たちのような学のない物は、誰も知らなかった。


休憩として各村や町に立ち寄る際には先程のような労働力としても働かさせられる。特によく晴れた日は多くの仕事をさせられた。

いつしか青空が嫌いになった。



劣悪な環境だから自然と奴隷の数は減っていき、そしてときどき何処かから連れてこられた。

そうして減って増えて、減って増えて、3回山を越したあたりで、×××王国に着いた。

もう最初にいた人達はみんな居なくなっちゃってけど、それでも私は生き残った。

段々とみんなが買われていく。私はまだみたいだ。

もう半分は買われた。私は今日も荷物を運ぶ。

私だけが残った。そしてついに私も買われた。


「お前は今日から火消皿だ。呼ばれるまではじっとしていろ」


私を買った男の人はなにか物を売る人のようで、多くの人がそれを買いに屋敷にやってきた。


「おい。皿」


私は少しと経たないうちにはお屋敷での呼び名が『皿』になった。『テーブル』や『椅子』、『肘掛』よりは楽だから助かったけど毎回口の中に突っ込まれる煙の塊は心底嫌だったけど。


けれど不思議と以前ほど胸の中にあった黒い感情が静かになった気がした。


なぜって、このお屋敷は暖かくて、笑顔に溢れていて、藁を敷きつめて布をかぶせたベッドがあって。

それから、それから、美味しい食事とたまに出るお肉があったから。



そんな『皿』としてお屋敷で過ごすのも、いつしか終わりを迎えたのだった。



ある朝目覚めると、私は体から煙を出せるようになっていた。



最初は面白がっていたご主人様だけど、私の煙が便利なことに気がついたようで、【商品の材料】を調達するように駆り出された。


仕事内容は過酷で何度も死にかけたけど、それでもやっぱり死ぬことはなかった。

相手を殺してその死体を持ち帰る。

何度も何度もそうして過ごしているうちに、この煙とも仲良くなった。



そんな生活が当たり前になり。

余裕が生まれだした私は、時間を取り戻すように自由に生きてみたくなった。

聞いただけの化粧と、普通の身なりに整えた姿を鏡で確認する。

――そうして私は今度こそ完全に壊れてしまった。



■■■■■



「おい、マズイんじゃねえのか...?クレイルの腕が爛れてやがる。。。

…一瞬だけなら俺だって割り込んででもなんとしてでも、時間を稼いでやる。だから一度回収して休ませろ」

「シャファリア様のご提案、非常にありがたい申し出なのですが不要でございます。

ご安心なさってください。あの方はこれしきでは止まりませんよ」



グッと背中を捕まれた感覚とともに、意識が体に戻ってくる。


「貴様。もう一度聞くぞ。攫った子供をどうした」

「なんだ。まだそんなこと言ってるのか。アイツらは死んだよ!」


てらてらと黄色く光る歯を見せつけながらウィンビィが罵るように声を張り上げる。

先程見た過去の記憶と、此奴の子供に対する妙なこだわり。

ひとつの解が導き出される。


「言い方を変える。貴様、子供らをな?」

「なんだ。わかってるじゃねえか。ああ、喰ったよ」


たしかに同情する余地の過去であった。

もしかしたら違った方向に進むこともあったのかもしれない。

、コレはもう駄目だ。

生きているうちに償いきれる罪の深さでは内

ならばこれ以上悪逆を重ねる前に、やるのが己の務めだろう。


「ガキを食うとな、体が若返るんだ。今朝あった時はお前だって分からなかったろ?逆にガキ共を喰わねえとよぉ、こうして醜く腐っちまうんだ」

「そうか。お前は自分の意思で、子供を喰ったのだな。ならばもう言うこともあるまい」



ここに、「因果」と「原因」と「真名」が揃った。



『因果は廻り、ここに集約した。

これなるは因果応報の証、悪因悪果の具現。』



先程まで、何処か自慢げに語っていたウェンビィの目が見開かれる。


「はあ!?詠唱魔術だ!?それはオマエみたいなグズが使っていいもんじゃねえだろ!」


先ほどまでとは違った、薄皮どころかしっかりと血管まで届く斬撃が何発も命中する。

あまりにも乱雑で、しかし己の命を削り取るような攻撃の乱舞は体中を引き裂いてゆく。



「おいおいおいおい、フィー!クレイルのやつ、ついに攻撃をよけれなくなってるじゃねえか!クソ、もう限界だ。俺だって腸にえくりかえってるんだ。今度こそ止めたってきかねえからな!」

「いえ、クレイル様もようやく決着をつけるつもりです。あの方はどこまでもお優しいですが一線を超えたものには瞬時に判断を下されます。


それに。


今行くと、巻き込まれますよ?」



言葉を紡ぐ度に手のひらの上に幾何学な模様が描かれ出す。

難解な言葉の羅列が溢れては収束し、膨張しては縮小するのを繰り返している。


『嫉妬の炎に身を焦がし、もはや残火ですらないのに、未だ潰えぬ嫉妬の情。

円環にて洗い流すより他はなし』


コレが生まれ落ちるのを阻止せんとさらに斬撃の嵐が強まり出す。


ザクッ


「っ...」


ついに一本の短剣が肩に深く刺さった。


しかしそれはもう時遅く。



「一応言っておくが、貴様は既に『廻った』ぞ。


 燻らせた過去、未来を妬む魔女ウィンビィ・フェーメ


廻った魂たちに対してなにか懺悔はあるか」


己の血すら吸い上げてカタチ得ようと胎動を始める。


「そのような若さでどうやってソレに至った!貴様のようなガキがそれほどの力を持つなんてありえない!、憎い、憎い、憎い、憎いぃぃぃ!!!!!!」


パキッ


何かのひび割れたような音を聞き、肩に刺さった短剣を放り出してウィンビィが後ろに飛び退く。

それと同時に腕の中に産まれた血文字の塊を向ける。


「因果返し」オレステス・エスト


外皮が剥がれるように血文字がパラパラと落ちていき、ひとつの煙管に変わった。


「はあ?煙管ゥ?私を馬鹿にするのもいい加減にしろよ。まあいい。そんなもんで私をどうこうできるわけもねえ。ここで皆まとめて死ね!」


疾走、跳躍。


フゥウウウ....


煙管を通して空気を一息吸い込み、そして薄く、長く吐き出す。


「煙の扱いで私に勝てると思ってんのかクソガキがァ!」

「そんなに煙が好きならコレらも大事にするといい。」


煙管から吹き出された煙が、刺突を行おうとしていたウィンビィにまとわりつく。


「はあ?ん、ぐ、がぁ」

(息が、息ができなぃぃいい)


「貴様が何を抱え、何を溜め込んでいるのか。

理解わかったなどとは言わん。

ただ、今までそうやって殺めた者共のように。己が因果を辿るといい」



■■■■■



煙が身体中に入ってくる!!

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!


『おい、皿』


ああ、そんな目で私を見るなぁあ...


『クスクスクスクス。見てよ!あの醜いひび割れた面。舞い上がっちゃって馬鹿みたい』


クスクスクス

クスクスクス


笑うなぁ...私を見て、幸せそうな顔をするなぁ...


『ねえ、大丈夫?おばあさん。水貰ってくるね!』


私を憐れむな。私は惨めじゃない。私は普通だ!お前たちの誰よりも幸せなんだ!!!

なのに、なのに、なのに!!

『煙よ。形をなせ』


ーーーーー


はは、ははは!

私をバカにするからだ。

...なんだ、こうして見ると案外美味そうじゃないか。

そうだ、こいつは私をバカにしやがったんだ。だったら魂ごと喰って私が再利用してやるのが一番いいじゃないか!



「「なんで僕を、僕たちを殺したの?」」


はあ?そんなの決まってるだろ。お前らを喰えば若さが、が取り戻せるからだろうが。


「「そっか。じゃあ、生きてた頃の僕たちを、私たちを返して。」」




■■■■■




「あ、熱いぃぃぃ。体の中が熱すぎる!!」

「ああ。喰った魂をすり潰して魔術に使っていたんだ。使われたものはさぞお怒りだろうよ」


放心していたウィンビイが、身悶えし、どんどん膨れ上がった風船のようになっていく。

このまま自分の罪を受け、魂の穢れを落としきれたなら...

きっと来世は幸せに生きれるだろうに。

生きれただろうに。




「嗚アアぁあああア。

どうして私が困っているのに普通に生きていられるの。

どうして若いくせに私より苦しんでいないの。

いつも悪者は私ばっかり。

どうして、どうして、どうして、どうして。

どうして私ばかり不幸になるのよ......

ズルい。ズルい、ズルい、ズルい。ズルいズルいズルい、ズルいィイイイイ!!!!!」


「おいおいおいおい、クレイル、フィー!ありゃぁどうなってんだ!ありゃぁもうどう見ても、魔術師ですらねえぞ!」


やはり、と。


先程まではかろうじて人の形を保っていた彼女だが、膨れ上がった体内の煙がその肉体を食い破り、中から出てきた大量の煙は天にまで届く竜巻ののごとく意志を持った災害と化した。

この状態でアガンクの街にたどり着けたなら、一分とかからず、煙に巻かれて消えてしまうだろう。


最後の仕事を果たすため、残っていた魔力を総動員する。



「あの様子ですと放っておいたら時期に消滅いたします。

それでも。

行かれるのですね?」

「今までだってそうだったろう。

ああ、これが終わったら少し遅いサパーにしよう。何、食前のかるい腹ごなしのようなものだ」


上着を掴み、その場にとどめようとするフィーの腕を力を込めずにゆっくりと振り払う。


「そうでございますか...

どうぞお気をつけください。マイロード」



すう、と息を吸い込み煙を吐き出すようにゆっくりと体内の空気を排出する。

天に左手を掲げ、歌い上げるように祈りを捧げる。


『因果は既に廻り、返すべきものはとうになく。円環の理から外れた其方に、もはや安寧は訪れまい。

償いきれない過ちを犯した其方を、さりとて我だけは哀れもう。

【死してなお、地に水零すことなかれ】エッラァレ・フーマニュム・エスト


暗く、分厚い煙に覆われた空から一振の光が差し込み、天に掲げた掌へと収束する。


意思もとうにになくなり、本能だけで街に進行しようとしていた煙の嵐が此方の光に吸い寄せられ、取り込まんとして腕を伸ばしてくる。


「安らかなれ」


光の柱を引き抜き、煙を振り払うように振り抜く。


「 (ああ、暖かい、火ぃ...) 」



ゴオォォォォン

ゴオォオオオン



大鐘楼グランド・ベルの音のような清廉な音色と共に、空間を引き裂いたような轟音が鳴り響く。


それだけで空を黒く覆うほど成長せていた煙の竜巻は振り払われ。

役割を終えた光の柱が夜空の星の元、キラキラと溶けていく。

目前には先程までの災害が嘘のように、星が輝く空と瓦礫の吹き飛ばされた平らな地面だけが静かに残っていた。



■■■■■



「改めてすまなかったなシャファリア。結局彼女を捕縛する事は叶わなかった。これでは依頼は不履行だな」

「いいや。あんたは十二分にやってくれたさ。俺らだけじゃやっぱりどうしようもなかったしな」

「いいえ、この大馬鹿者のはもっと激しい言葉を投げかけていただいてよろしかったのですよ?」


駅の待合室。

次の列車が来るまでの時間、律儀にもシャファリアは己とフィーの見送りに来ていた。


「良かったのか?此方に来て。

今はあの小屋から見つかった子供たちの葬儀中なのだろう?」

「いいさ、別に。あいつらだって殺させるほどでなかっったにしろ、貧民街で生きてきたんだ。多少の覚悟はあったろうよ」


あの後、魔力を使い果たして倒れてしまった己は又聞きの形になるが、ウィンビィのすごしていた小屋の中に入ったことを聞いた。


中には最低限の生活設備と化粧道具、子供たちの頭蓋骨しか残っていなかったそうだ。

煙に攫われた子達はやはり死んでいて、その事実を確認したものたちは嘆き悲しんだ。

しかし彼らもまた過酷な生活を送ってきたものとして発見から3日たった今日、盛大に篝火を焚いて葬儀をあげている。


最中のはずだったのだが。


「それより俺に一声もかけず、この街を出るなんざ。えらく冷たいじゃねえか」

「フッ。

別に己と貴殿とはそういう中ではあるまいだろうに。

まあそれでも声をかけるというのであれば、せいぜい魔術を悪用しないことだな。

次にこの街に来るのが貴殿の対処なぞ、己はごめんだぞ」

「フィーとしてはもっとここに滞在しても良かったと思うのですが。この走狗めはどうしても行きたい場所があるのだとかで、休む間もなく移動旅の再開です。全くもってありえません」


む、己にだって考えがあるのだ。とフィーに文句を言うと、そこから更に2倍になって帰ってくる。

そんな己達のやり取りを見たシャファリアは何が面白かったのか、クツクツと笑っている。


「ほら、お前ら。列車のご到着だぜ。さっさと乗り込みな!」

「フィー。続きの話はこの後だ」

「今回こそは本気でフィーも頭にきました!この際はっきり言わしてもらいます。覚悟しておいてください!」


降りた時と同じボーイがニコニコと己たちを案内に来た。


「フィー、手を」


煙と煤にまみれた街だったが、さっぱりとした気質のものが多く、過ごしていて心地よい街だったな。

車窓から流れていくアガンクの街を眺めているとこの身近な滞在を思い出し、笑みがこぼれる。

なんだかいい気分なので報告書の作成なんてものは机の上に放り出し、アツアツのヴァプールを口に含んだ。

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オレステス・エスト 「因果返し」の物語 四方山花風 @YOmo_yama_Kafu

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