5分もいらねぇ!

夏凪 碧

 

あなたはソファで目が覚めた。

ソファで横になり、そのまま眠ってしまったらしい。どうしてこんなところで眠っているのかは覚えていない。

体を起こすと突如玄関の方からガチャリと音がした。

入ってきた人は男性で、焦ったように言う。


「鈴木だ。時間がない。話はあとだ。」


矢継ぎ早に話し、部屋に入ってくる。

鈴木が入ってくると同時に、玄関扉がたたかれる。

ドンドンドンと一定調子で響く。


「いいか絶対に出るなよ。」


あなたが居るのは1K アパートの一室でソファやテレビ、ベッドなどの一般的な家具はそろっている。


「鈴木さんここはどこですか?」

「何を言っているんだ。お前の部屋に決まっているだろ。」


鈴木はそういうがあなたは、この部屋も鈴木にも見覚えが無い。


「私、この部屋も、あなたのことも知らないのですよね。

それなのにあなたはここを私の部屋だとうそぶきあたかも知り合いのようにふるまっている。」


「ちょっと待て。それはお前の記憶違いじゃないのか?そうだきっと混乱してんだよ。」


鈴木はそういうが目が泳いでいて、うっすらと汗を額に浮かべている。


「そうですか、ではあなたに触れさせもよろしいですか。」


そう言い、あなたは鈴木に触れようとしたが、あなたの手は鈴木を触れることなく透過していった。


「なるほど。やはりそうでしたか。」


あなたは玄関に向かう。

まだ扉はドンドンと叩かれていた。


「いきなり出るのは怖いんですよね。」


あなたはドアスコープを覗く。

そこから人影が見え、その人はあなたにとって大切な人であることがわかる。


「もう少し.....もう少しで死ねたのになぁ。」

「鈴木さんどうやらお別れのようですね。いずれ来ますのでその時はゆっくりと話をしましょう。」


うなだれている鈴木にそう言い残しあなたは扉を開ける。

途端に光があふれ目が覚める。

目の前に大切な人がおり、あなたの胸に両手を押し当てて心底安心した表情をした。

瞬時に心肺蘇生、それが頭をよぎった。

聞くと、あなたは海でおぼれ救助されたときには呼吸がなかったらしい。そのため心肺蘇生が行われていたそうだ。

人は呼吸困難になってから5分を経過すると死亡率が高まる。あなたは今際の際にいたのだ。

あの時、あの部屋で聞こえた音は心肺蘇生の音だったのかもしれない。

もしあの部屋を出ていなかったら、そう思うと背筋が冷えた。


5分もいらねぇ! 完

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5分もいらねぇ! 夏凪 碧 @natunagi_8603

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