親友の発するSOSは緊急事態を示すシグナルレッドだった

浅川 六区(ロク)

3分で読める1,000文字の物語

 「夏ちゃんあのね…。こっそりと夏ちゃんだけに伝えておきたいことがあるんだけど…今、話しても良き?」

 いつに無く真剣そうな菜々美ちゃんの瞳。

 そして、いつもの半笑い顔のアホヅラ表情も今はない。

 明らかに様子が変だ。菜々美ちゃんとはかれこれ六年間、ずっと親友だ。

 そんな私だけが感じ取ったこの不穏な前兆よかん

 気のせいや、まやかしなんかではない…。危険度を示すトリアージカラーで例えるなら、シグナルは最も軽い状態を示すグリーンあたりだろうか。

 

 私は、平静を装って菜々美ちゃんの耳元で囁く。

 もちろん誰にも気付かれないようにだ…。

「菜々美ちゃん、ここじゃあ話づらいでしょ。えっと…今夜、西麻布のワインバーでも予約しようか?」

「あ、いや…えっと…」


 歯切れの悪い菜々美ちゃんだ。

 もしかすると中度の危険度シグナル、イエローに該当する案件かもしれない。

「菜々美ちゃんOK。気持ちを察するわ。ワインバーはカウンター席じゃなくて、VIP用の個室を抑えるよ…。あの店のオーナがね、」


「いや…あの、夏ちゃん…その前にいろいろと訊きたいんだけどー、先ずは西麻布ってどこね?」

「どこねって?、もちろん東京だよ」


「そうだと思ったけど、そんな遠いところへ行けないよ。茨城から常磐線で上野まで行って、そこから乗り換えもするんでしょ?

 う…うちら小学生が、しかも女子二人でなんて行けないよ。お母さんにいっぱい怒られちゃうよ。それとワインバーって…もしかしてお酒?お酒の店なんて小学生が入れる訳ないじゃんか。いっぱいダメだよ」


「そっか…いっぱいダメか。だったら西麻布は無しだね。ほいじゃあーいつもの噴水のある公園にしよっか」

 そう言う私の言葉を聞いて、菜々美ちゃんの表情がパッと明るくなった。

「良かった。じゃあー、放課後、噴水の前で話を聞いてね」

 菜々美ちゃん了解だよ。私は親指を立てて「グッジョブ」と小さな声で言った。

  



 放課後ーーーーーーー

 私たちは小学校の校門を抜けるのを待って、すぐにグミを一つ口に入れた。

 学校であった一日の面白いエピソードを思い出し、私たちは談笑しながら公園に着いた。噴水の前には、四阿あずまや風の四角いベンチがある。私たちはここに座る。菜々美ちゃんはランドセルを下ろしながら、私に向かい発した。


 「夏ちゃんあのね…今朝、学校で言おうとした事なんだけど…」


 「うん。話してみて。ここなら誰も聞いていないし、私は菜々美ちゃんのことが大好きだから、何も心配しなくて良いよ。悩みだったら一緒に考えてあげるし、もしもそれが悲しみだとしても、私がシェアして…その悲しみを半分にしてあげるから」

 私は菜々美ちゃんの手を握りゆっくりと声を返した。


「あ、ありがとう。…夏ちゃんのね、今着ているそのシャツの…背中にね、

ガムテープが貼り付いてるの。取った方が良いかな?って思うんだけど…」


「ん?…それって、朝からずっと貼り付いてたの?」

「そう。だから急いで教えてあげようとしたんだけど…」


「もしかして、今も?」

「今も」



 私は菜々美ちゃんの方を見ずに無表情のまま言った。

 「…それ、緊急を要するシグナルレッドの案件だよ」


                                                                         Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

親友の発するSOSは緊急事態を示すシグナルレッドだった 浅川 六区(ロク) @tettow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ