次の休みはどこへ行く?
おーひょい
第1話
デンマークの夏は柔らかい光が差し込む季節。6月の土曜日。コペンハーゲンのアパートのリビングは、窓から入る風でカーテンが揺れ、どこか穏やかな空気が漂っている。テレビからは、二人で選んだ適当なロマコメ映画の音が小さく流れ、時折笑い声や甘いセリフが聞こえてくる。
ソファに座るニコライ・ヴィンターは、グレーのTシャツに短パンというラフな格好。眼鏡を外してサイドテーブルに置き、ダークブラウンの髪を少し手でかき上げている。彼の膝の上では、エリオット・モローが毛布を肩まで被って丸まっている。栗色の柔らかい髪が毛布から少しはみ出し、膝に寄りかかった頭が時折小さく動く。エリオットの手にはポップコーンのボウルを持ち、映画を見ながら時々つまんでいる。
「今年で卒業だな、エリオット。」
ニコライが静かに、でもどこか確かめるように言う。声は柔らかくて、彼らしい落ち着きがある。指先で無意識にエリオットの柔らかい髪を軽く撫でながら、テレビ画面に目をやるふりをしている。
エリオットはポップコーンを口に放り込んだまま、目を映画から離さず答える。
「ね…仕事どうしよう。考えたくないよ。」
声は少し眠そうで、甘えた響きが混じる。毛布をぎゅっと握って顔を半分隠し、膝に頬を押し付けるようにして小さくもぞもぞ動く。映画の中でカップルがキスするシーンが流れると、「うわ、恥ずかしいね」と笑いながらニコライの膝を軽く叩く。
ニコライは小さく笑って、エリオットの頭を軽く押さえる。
「恥ずかしいって、お前いつもこういう映画選ぶだろ。それより、仕事…本当に何も考えてないのか?」
少し心配そうな口調。でも、エリオットのペースに慣れっこだから、無理に詰めるつもりはない。ただ、気になって仕方がない様子が滲む。
エリオットは毛布の中で肩をすくめて、膝に顔を埋めるようにしてごにょごにょ言う。
「うーん…ニコライみたいにデザインとかできればいいけどさ。俺、文学しか知らないし。働きたくないなぁ。ずっとこうやってだらけてたい。」
映画の音に混じって、エリオットの小さな笑い声が響く。ポップコーンを一粒ニコライの口元に持っていって、「はい、あーん」とふざける。
ニコライは呆れたように笑いながらポップコーンを食べ、指先でエリオットの額を軽くつつく。
「ずっとだらけるって、お前なら本当にやりかねないから怖いよ。…でもさ、卒業したら何か祝いたいなって思ってて。」
言葉を切り、少し考え込むように目を細める。エリオットの髪を撫でる手が止まり、ソファの背もたれに腕を預けて少し姿勢を正す。
エリオットは膝から顔を上げて、毛布の中で上目遣いにニコライを見る。
「祝う?何?誕生日じゃないよ?」
興味津々な声。映画のことなんてすっかり忘れて、ポップコーンのボウルを膝に置いたまま身を起こす。毛布が肩からずり落ちて、くしゃっとしたTシャツが覗く。
ニコライはエリオットの視線にちょっと照れたように目を逸らしつつ、口元に小さく笑みを浮かべる。
「誕生日じゃないよ。卒業旅行とか、どうかなって。…ロンドンとかさ。お前、ビッグベン見たいって前から言ってたろ。」
言葉を慎重に選びながら、エリオットの反応を窺う。膝に置かれたエリオットの手に、自分の手をそっと重ねて軽く握る。
エリオットの目が一瞬でキラキラと輝き出す。
「え、ロンドン?!マジで!ビッグベン!あと、9と何番線とかの駅!行く行く行くー!」
毛布を跳ね除けて勢いよく起き上がり、ニコライの肩に抱きつく勢いで飛びつく。ポップコーンが少しこぼれてソファに散らばるけど、そんなの気にも留めない。
「ニコライ最高!いつ行く?夏休み?ねえ、パブでビール飲みたい!映画みたいに!」
興奮してまくしたてるエリオットに、ニコライは苦笑しながらも目を細めてその頭を抱き寄せる。
「落ち着けって。7月のホリデーでいいだろ。仕事始まる前に、ちょっと息抜きしよう。…お前が迷子にならないように、俺がちゃんと見ててやるから。」
ニコライの声には呆れと愛情が混じっていて、エリオットの髪をくしゃっと撫でる。エリオットは「迷子にならないもん!」と反論しつつ、ニコライの胸に顔を埋めて笑う。
映画はエンディングを迎え、画面に流れるクレジットを見ながら、二人はそのままソファでだらだらと旅行の話を続ける。ロンドンのどこに行くとか、パブで何を飲むかとか、エリオットの無邪気な笑顔にニコライが引っ張られて、つい予定を詰め込みすぎちゃうくらいに。
次の休みはどこへ行く? おーひょい @oooooooohyoi
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