第12話 接近
バーのイメージは、カウンターがあり、壁際に色々なお酒がならんでいる。そんなイメージだったが、そのバーはアイランドカウンター。中央にはたくさんのお酒が山のように積まれていた。
『いらっしゃいませ』歓迎の一言だけで、無口なマスターだ『ここのマスターは一杯目、いつも私の雰囲気を見て、オススメを作ってくれるんです』
その夜の一杯目は桃を使った、薄ピンクのカクテル、その意味は私にはわからなかった。私は大好きなスモーキーモンキーをロックで。
本日4回目の乾杯のあと、薄ピンクのカクテルを口にしたあと、『美味しい、一口いかがですか』
自然に彼女のグラスに口をつけた。『美味しい』って嘘をついた。グラスシェアの間接キッスに舞い上がる私に取っては味なんてわからない。美味しいは間接キッスの味だった。
『私も一口いいですか』『もちろん』短い会話と、一瞬のやりとりに、最高の幸せを感じた。純子さんが私のロックグラスに唇をつける。『かなり、ヘビーなスモーキーですね』『つい最近、ウイスキーはスモーキーが好きになって、今はこのスモーキーさがNo.1なんです』
そして、お互いのグラスは元の位置に戻り、間接キッスは完成した。
再会から数時間経ち、既に日は変わっていだろうか。普通なら、宴は終わる時間。けど、まだ私は大切な気持ちを伝えられていない。
『好きだ』と言う短いが、発するにはそれなりの時間と覚悟、勇気が必要な言葉を。
もうしばらく、一緒にいたい。
神戸ではラインで『惚れた』って伝えた。純子さんはその気持ちをどう思ってるんだろうか。文字だけのラインじゃなく、しっかり言葉で伝えない限り、『ナンパして、いいですか』から神戸で始まった宴は終わりはしない。
『次は歌えるところへいきたいな』『一軒、知っているところあるのでそこに行きましょう』初九州の私は全てを彼女に預けた。
『ダーツで有名な店なんです』私は少しだけだが自分の歌声に自信があった。少しでも気持ちを伝えられたらと思い、扉を引く彼女に続いた。
『久しぶり~、痩せたんちゃう』と言って純子さんとの再会を懐かしがるママと思える女性はモップの柄を握っていた。『ゴメン、終わりなんよ』と告げるママに、『何処か、歌える店知ってますか』
純子さんは、何処までも私のワガママに応えようとしてくれる。
『隣のお店聞いてみるね。少し、濃いママやけど』
最後の恋 @Chara_G
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