いつもツンツンしてる毒舌後輩女子に、惚れ薬を飲ませてみたら……?

間咲正樹

いつもツンツンしてる毒舌後輩女子に、惚れ薬を飲ませてみたら……?

富田とみた、聞いてくれ、俺は遂に世紀の大発明をしてしまったぞ」

「はぁ? 冗談は顔だけにしてくれませんか部長? どーせまた子どもすら騙せないレベルの子ども騙しなんでしょ? この前なんてカチューシャに竹とんぼを付けただけのものを、タケコプターだってドヤ顔で言ってましたよね? 高校生にもなって恥ずかしくないんですか? それとも地球を温暖化から救うために、場の空気を冷やす研究でもしてるんですか?」


 いつもながらの部員が俺と富田の二人しかいない、科学部の部室。

 そこにこれまたいつもながらの富田の毒舌が響き渡る。

 まったく、こいつも黙っていれば可愛い顔してるんだがな。

 まあ、だがそんな態度を取ってられるのも今のうちだけだぞ、富田。


「今回こそは正真正銘、マジモンの大発明だ!」

「――? 何ですか、これ?」


 俺は富田の目の前に、小瓶に入った透明な液体を置いた。


「ふふふ、これはな――惚れ薬さ!」

「は、はあああ!?」


 富田はただでさえ大きいくりっとした目を更に見開き、口をあんぐりと開けた。


「これを飲んだ人間は、最初に目にした人間のことを好きになってしまうのさ!」

「いやいやいや、いくら何でもラノベの読みすぎじゃないですか部長? そんなのIQピテカントロプス並みの部長に作れるわけないじゃないですか? イタい妄想は部長の黒歴史ノートの中だけにとどめておいてくれませんかね?」

「おやおや? さてはお前、これを飲むのが怖いんだな?」

「なっ!?」


 瞬間、富田の額にドデカい怒りマークが浮かぶ。


「心の底ではこれが本物かもしれないと思ってるんだろ? これを飲んで俺に惚れちゃうのが怖いんだ。だからそうやって何とか飲まない方向に話を持ってこうとしている。違うか?」

「ぜ、全ッッ然違いますよッ!? だーれが部長のヘッポコ発明品なんかを怖がるもんですかッ! ――いいですよ、飲めばいいんでしょ飲めば! これをインチキだって証明して、二度と立ち直れないくらい罵声を浴びせてやりますからねッ!」

「ふふふ、楽しみにしているよ」


 いや、罵声を浴びせることをじゃないよ?


「富田、いっきまーす!」


 富田は瓶を開けて、液体を一気に飲み干した。

 今のは「行きます」と「一気飲み」を掛けた高度なボケか?


「ふぅー。……ほら、全然何ともないじゃないですか! やっぱり部長の…………あれ?」


 俺と目が合った途端、富田の顔が急速に赤くなった。


「あれ? あれれれ? おかしいな?? 何で部長の顔が、こんなにカッコよく……」

「ふふふ、早速効果が出始めたようだな」

「ひゃうっ!?」


 俺は富田との距離を、ぐいと詰める。


「そ、そんなに近寄らないでください!? い、今はダメですッ! 部長の顔、まともに見れないッ!」

「そんなこと言わずに、しっかりと見てくれよ、俺の顔をさ」

「っ! はううぅ……!」


 俺は富田に顎クイし、俺と目を合わせる。

 富田の顔は見る見るうちに、熱したフライパンに乗せたバターみたいにとろけていった。


「……しゅ、しゅきぃ。私、ぶちょぉのことがしゅきでしゅうぅ」

「うんうん、そうかそうか」


 富田の目は完全にハートマークになっている。


「ずっと前から、ぶちょぉのことがしゅきだったんでしゅうぅ。ぶちょぉといつも一緒にいたいから、科学部の部員になったんでしゅうぅ」

「なるほどなるほど」

「私こんな性格だからぁ、いつもボッチでぇ、そんな私に気さくに話し掛けてくれるぶちょぉだけが、心の支えだったんでしゅうぅ」

「そうだったのか」

「はあぁーん! ぶちょぉしゅきしゅきぃ! ぶちょぉだいしゅきでしゅうぅ! いつも悪口ばっか言ってごめんなしゃぁぁい。ぶちょぉを目の前にすると、はじゅかしくてつい悪口ばっか言っちゃうんでしゅうぅ。私のこと嫌いにならないでくだしゃぁぁい」

「心配するな、俺が富田のことを嫌いになるわけないだろ?」


 俺は富田の頭を、よしよしと優しく撫でてやる。


「ホ、ホントでしゅか!?」

「ああホントだ。――俺も、富田のことが好きだからな」

「――!!!」


 途端、富田の綺麗な瞳が急速に潤む。


「ふにゃああああああん!!! ぶちょぉぉぉおおお!!! だいしゅきでしゅうううううぅぅ!!!」


 富田は俺に抱きつき、俺の胸に額をぐりぐりと押し付けてきた。

 ふふふ、可愛いやつめ。

 俺は富田の小さな背中を、そっと抱きしめる。


「はうぅぅ、ぶちょぉ、私今、しゅごくしあわせでしゅうぅ」

「ああ、俺もだよ。――だがな富田、俺はお前に、一つだけ謝らなきゃいけないことがある」

「ふえっ? な、何でしゅか、ぶちょぉ?」


 富田はきょとんとした顔で、頭にハテナマークを浮かべている。


「うん、さっきお前が飲んだアレ――実はただの水なんだ」

「――!?!?」


 瞬間、ただでさえ赤かった富田の顔が、インクをぶちまけたみたいに更に真っ赤に染まった。


「な、な、なななななな……」

「いやぁ、プラシーボ効果ってホントにあるものなんだな。これはこれで、いい科学実験のデータが取れたよ、うんうん」

「…………ふ」

「ん?」


 ふ?


「ふざけるなあああああああッッ!!!!」

「ぶべら!?」


 富田に思いきりビンタされた。


 ……解せぬ。


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いつもツンツンしてる毒舌後輩女子に、惚れ薬を飲ませてみたら……? 間咲正樹 @masaki69masaki

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