第2話:欲望のガバナンス ― 生存を超えたゲームの設計者たち

本稿は、資本主義の「設計図」がどのように変質し、私たちの暮らしと時間がどのように再配分されたかを視覚と物語でたどる試みである。

まず最初に示すべきは、アダム・スミスが想定した資本主義の原像だ。

そこでは市場は道徳と共感に支えられ、分業は「誰もが時間的・経済的余裕を得るための仕組み」であった。

この出発点を共有することで、その後の「科学化」「新自由主義化」「グローバル化」「ガバナンス奪取」が何を壊し、何を奪ったのかが明瞭になる。

読者には批判でも処罰でもなく、再設計のための視点と問いを届けたい。

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I. 導入──改革という名の再設計



「改革」とは、常に誰かが新しいルールを書き換える瞬間である。

しかし今日、そのルール変更は、「公共のため」ではなく「利益のため」に行われている。

誰が得をしているのか。何のために変わったのか。

資本主義の変容とは、経済理論や政治手法の問題ではなく、人間の欲望の構造が制度を通じて拡張された結果にほかならない。


この論考では、政治・経済のガバナンス(統治構造)がいかにして人間の欲望の拡張装置となったのかを、心理的・社会的な観点から読み解く。

そして最後に、私たち自身が「このゲームのルールを書き換える」ための具体的な道筋を探る。



II. 生存のプログラム──欲望はどこから来たのか



富や権力を求める衝動は、単なる強欲ではない。

それは人類の進化に刻まれた「生存アルゴリズム」の副産物である。


富は生存資源の確保を、権力は集団内での安全を意味した。

脳はそれらを報酬と結びつけ、「所有」と「支配」を快楽に変換した。

やがてその神経的機構は、生存に十分な環境でも止まらず、

「より多くを求めること」自体が目的化していく。


現代人の欲望は、もはや飢えや恐怖からではなく、

「満たされない豊かさ」という空虚から生まれている。



III. 欲望の四段変容──資本主義の再ガバナンス化



欲望が暴走すると、社会そのものが新しい形に変質していく。

資本主義は、人間の余剰衝動を吸い上げる「欲望の制度」として進化した。


第一段階:自己目的化

富や権力が、手段から存在意義へと転化する。

「持たざる者」は劣等であり、「所有すること」がアイデンティティとなる。


第二段階:ゲーム化

社会は「勝ち負け」で測られる競技場に変わる。

政治家も企業も、人間を統計値として扱い、「効率」が倫理を駆逐する。


第三段階:空虚の埋め合わせ

富める者ほど、喪失への恐怖に支配される。

エーリッヒ・フロムの言う「持つことへの執着」、アーレントの言う「不死性への欲望」が再燃する。

飽和した豊かさが、さらなる収奪を呼ぶ。


第四段階:王朝化

欲望は個体を越え、構造として固定化される。

財閥・血統・政治的継承。

ここに、民主主義の仮面をかぶった「資本封建制」が完成する。



IV. 欲望の制度化──「改革」という名の支配構造



かつて政治の目的は「市民の生活を守ること」だった。

いまやそれは「企業の成長を支援する国家」へと変質した。


効率と収益率を中心命題とするガバナンスでは、

倫理・民主・人間性が制度の外部に追放される。


企業の社会的責任が「利益最大化」にすり替わるとき、

「改革」は本来の公共性を失い、欲望のための制度改造へと転落する。


改革とは、もはや「より良い社会」を作る行為ではなく、欲望を制度の形で再構築する権力技術になったのである。



V. 再設計への道──ゲームのルールを取り戻す



これは、「誰が悪いか」ではない。

問題は、「どんなルールで私たちは動かされているのか」である。


ミルトン・フリードマンの株主至上主義が象徴するように、現代資本主義は人間の幸福という目的という関数を忘れた。

効率を最適化するあまり、「人間」が変数の外に押し出されている。


ルールを変えるとは、プレイヤーの意識を変えることである。

私たちは、無意識のまま「欲望のゲーム」に参加している。

その参加の仕方を変えるだけで、ルールは変わり始める。


情報の透明性を取り戻す──誰が何を決めているかを見える化する

評価軸を更新する──「儲け」ではなく「貢献」で測る

公共を再設計する──「私」から「私たち」へ


これらは壮大な理想ではない。

それぞれ、個人の「一票」「一言」「一回の消費」から始められる。



VI. 結語──隣人と語ることから始まる革命



「欲望のガバナンス」とは、敵を倒す思想ではなく、

私たちの内部にある支配欲を可視化する思想である。


この文章が、あなたの内に眠る公共への感覚に灯をともしたなら、まずは、隣の人とこの話をしてみてほしい。


怒りや諦めではなく、「理解」と「共有」から始まる対話が、欲望のゲームを「共感の公共」へと書き換える第一歩になるだろう。

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ここまで読んでくれたあなたへ。

構造を知ることは無力感の理由を理解する第一歩だが、理解で止めてはいけない。

小さな実践、地域や職場での協力、透明性を求める声の結集がルールを変える力になる。

倫理と時間の価値を評価軸に戻すことは制度設計の選択肢であり、次の世代の公共を取り戻す出発点である。

あなたの違和感を行動に変えてほしい。


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「民主主義」から「資本主義」へ人類社会のガバナンス(統治)を改変した設計図 プラナ @0123_purana

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