第3話 終わりの始まりの物語

 首相官邸の重々しい雰囲気の中、智朗が残した日記は、やがて彼の人生の最後の数カ月を物語る貴重な遺産となった。


 日記には、余命宣告を受けた男の虚無感と、ネコマタやナタリアとの出会いによって再び灯った人生への希望が綴られていた。


 特に、食事の時間が少し楽しくなったという素朴な記述からは、何気ない日常の中にこそ、幸せがあることを智朗自身が再発見した様子が伝わってきた。


 遠い異国の地で、智朗の親友から日記を渡されたナタリアは、一字一句を読み進めるうちに、嗚咽を漏らした。自分がどれほど愛され、大切にされていたかを知ったのだ。


 そして、最後のページに書かれた、「ナタリア、どうか強く生きてくれ」という力強いメッセージに、彼女は深く頷いた。


「うん、智朗おじいちゃん。ネコマタ……きっと、強く生きてみせる」


 ナタリアは、涙を拭うと、決意を新たにした。彼女の瞳には、愛と希望に満ちた、未来への光が宿っていた。


 警察の捜査は、やがて幕を閉じた。事件の真相は、誰にも知られることはない。首相官邸を襲ったテロリストたちは、猛獣に襲われたかのような傷跡を残して死んでいた。


 だが、その猛獣の正体が、智朗に寄り添って死んでいたただの飼い猫だとは、誰も想像できなかった。 


 そうして、首相官邸の庭には、二つの尻尾を持つ黒猫の姿が、時折、目撃されるようになったという。


 それは、首相を守り、愛した化け猫が、今もなお、智朗とナタリアと過ごした思い出の場を見守っているのかもしれない。


 これは、一国の首相と、一匹の化け猫が織りなした、切なくも温かい、最後の物語。そして、ひとりの少女が、その愛を胸に、新たな人生を歩み始める、終わりの始まりの物語だ。

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化け猫と首相の最後の夜 皇 司 @kamakurankou1192

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