Epilogue…EDEN

「——瀬尋君というヒトは……あなたと同じ系統の能力を持っていたのね」

「……うん。ナルナルはね、家系とかそういうモノを関係無しに、ある種の突然変異……みたいな感じであの力を持ってるんだ。僕が集めた人間は大体が皆そうだった、キョウちゃんもヨウとヨルも、そして滋兄も。——ナギ君やキミもね、クリス」

「それには、なんとなく勘付いていたけれど。あ……もう地面が近いわ。とにかくあなたは、瀬尋君という人に対して——どちらかといえば恩を感じているのではなくて? 少なからず、心を……救ってもらったから」

「そう……だね、うん。クリスには話してたよね、僕が教会で育ったって」

「ええ、あなた日本人なのにカトリックの信徒だから訊いたことあったものね。珍しくて」

「今の日本ではカトリックも珍しかないけど……。じゃあ、キリスト教の二大禁忌は?」

「あ……」

「そう、『近親相姦』と——『親殺し』。幼心にすごい大罪として刷込まれていたモノを犯してしまった僕はその罪から逃れようとして、精神を崩壊させようと思った。全部忘れてしまおうとも思った。けれどナルナルがああ言ったから、僕は自分を赦して——そして償いのために頑張ろうと思った。その所為で自分の中にどうしようもない弱さを残してしまったけれど、それでもイイと思える心のゆとりを生み出すことも出来たんだ。

 僕はカタンと呼ばれていた。全ての道を指し示すことを強制され、自分の意思の上を歩く事は不可能なのだとすら思わされていた。…そんな中で、僕にとってのカタンは——いつからかナルナルになっていたんだよね。彼のお陰で僕は道を見失わずにすんで、自然に笑えるようにもなったし、こうしてキミやナギ君に会うコトだって出来た。

 ……あの人達のことも、今はちゃんとお父さん、お母さんって呼ぶことが出来る。そういう意味でも、凄く感謝しているよ。……彼に」

「そうなの」

「僕が育った教会にいたシスターがね、言っていた。イヴの原罪っていうのはキリスト教が女性を蔑視するあまり生まれたものなんだ……って。どうしようもない罪ってやっぱり女性だけじゃなくヒト全員の心の中に埋もれて、芽吹く時を待ってる。けれど同じように、ちゃんとしたプラスの種だって芽生えを待ってるはずだから、あんまり早くヒトに対して絶望してはいけないんだってさ。『いつか』を待つ長い眼こそが、人生では一番大切なんだもの……僕も、今はそれをちゃんと解ることが出来るんだ」

「……いいシスターね」

「うん。僕も、そう思う。……どんなものから僕達が生まれ、どのように繁栄してきたのか、——お父さんの言葉じゃないけれど僕には関係ないかな。未来のことなんて知らないし、過去のことだって現在生きてる僕達には殆ど関係ない。だからね、考えるのはやめにした。考えてもしようがないから、そんな事に縛られるのは止めるの。……それで、やっと僕は僕のために生きられる」

「そうね。そうやって生きなくては世の中損だわ」

「そうそうっ!」






「あ、あの飛行機じゃないでィすか?」

「えー、違うよォ」

「じゃあどれにゃのさ? もー、日にちだけで時間教えてくれにゃーのだからァ……イルってばどっか抜けてるにゃーっ!」



 ……ああ、

 そうだね。過去なんてイラナイ。

 だって現在が心を占める割合ってこんなに嬉しくなるぐらい高いでしょ?



「なに? 誰か待ってるの?」

「うん、イルが帰ってくるから——え?」



 ほらね、ほらね?

 思うよ。忘れなくて良かったって。

 思うよ。絶望しなくて良かったって。

 色んな願い事をして、何度も何度も星に願いを掛けたけれど。

 それを叶えてくれたのは星じゃなかった。

 それを叶えてくれたのは、

 キミだった。



「きゃっはーいっ、ナルナルだナルナルだァ——っ♪」

「だっ……ヒトの首にぶら下がるなっ!」



 ……うん。

 君といると強くなれるから、君は仲間です。

 君といると優しくなれるから、家族でもイイですか?






 ねぇ、



『僕の帰る場所』は君じゃダメなんでしょうか?

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