荒涼とした都市を美しくするもの

紫野レイ

第1話 1-1

「ここはどこだ。」

気がつくと世界の終末のような荒涼とした街に佇んでいた。倒壊したビルにはツタが絡まりアスファルトの裂け目から小さな花が咲いている。こんな景色には不釣り合いなほど美しい花だった。風ですぐに吹き飛んでしまいそうなほど弱いのに、凛と咲いている。私はその花に導かれるように歩いていった。


しばらくすると広場のように開けた場所に出た。柔らかい日差しが辺りを包み、まるで「誰か」のために作られた舞台のようだ。その「誰か」は私の方にゆっくりと振り向き、微笑んだ。そよ風が白いワンピースを揺らした。君が私に手を伸ばす。

「こっちに来て」

と。私が思わず目を逸らしてしまったのは太陽のせいでも、君の大輪の笑みのせいでもない。私が君と一緒には居れないことを知っているから。それでも私は君に精いっぱい手を伸ばす。

「待って!」

私の体がだんだん透明になっていく。心臓から肩、腕、肘、そして指先が消えかかりそうになった時私は…


「ずっと大好きだったよ。」


君の悲しそうな笑顔とともに、その言葉だけがいつまでも余韻を残している。

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荒涼とした都市を美しくするもの 紫野レイ @v1olet-z3rogh0st

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