第2話
入学式が終わって、クラスが決まった日。
貼り出された名簿に、同じ名前を見つけて思わず息をのむ。
「……同じクラス、なんだ」
そう呟いた瞬間、後ろから肩を叩かれた。
「やっぱり!糸成、いた!」
振り向くと、いつもの柔らかい笑顔。
どこにいても一瞬で見つけてくれる彼は、
昔から、そういう人だった。
「また隣同士、座ろうよ」
自然に言う智人の声が、少しだけ低く響く。
胸がドクンと鳴って、思わず目を逸らした。
——嬉しいのに、苦しい。
その距離に、触れたくてたまらないのに。
授業中、ふと横を向くと、智人がノートに落書きをしていた。
「先生、厳しすぎ」と小さく書かれた文字に思わず吹き出しそうになる。
その瞬間、智人と目が合った。
「なに笑ってんだよ」
「別に……」
互いに笑いをこらえる。
それだけのことなのに、心臓の音が止まらなかった。
昼休み。
智人が机を寄せてきて、お弁当を開けた。
「見て、今日卵焼きうまくいったんだよ!」
「……黄色、きれいだね」
「え、色の感想!?」
笑い合う時間が、昔みたいで嬉しかった。
でも、その「昔」と今は違う。
手の届く距離にいるのに、
もう、何もかもが“無邪気なまま”ではいられない。
放課後、窓の外を見ながら智人が言った。
「なんかさ、またこうして一緒にいられるの、ちょっと奇跡っぽいな」
「奇跡……?」
「だって、離れてたじゃん、中学のとき。
またこうして隣にいるのが、なんか嬉しい」
何でもないように言うその言葉が、
糸成の胸にゆっくり沁みていく。
——その“嬉しい”の中に、俺はいないのかもしれない。
でも、もうそれでいい。
彼が笑ってくれるなら、それだけで。
そう思いながらも、胸の奥がじんわり痛んだ。
夕陽が差し込む教室で、智人が少しだけ笑った。
「なあ、糸成。
これからも、ずっとこうしていられたらいいな」
それは、友達としての何気ない言葉のはずなのに、
糸成には、永遠の約束みたいに聞こえた。
「……うん、そうだね」
その返事に、本当の想いを隠しながら、
糸成は窓の外に散る桜を見つめていた。
——春の風が、また頬を撫でた。
あの日と同じように。
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ほんの少しの短い糸 エビの衣 @ebinokoromo
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