一ノ瀬ナユタは探索者
儚現
一ノ瀬ナユタは動き出す 1
「おかーさーん!アタシ、アタシねー!だんじょんにいって、たんさくしゃさんになってねー、もんすたーさんたちをみーんなぶちころすのー!」
「おっけ、娘。とりあえずニッコニコでそれ言うのやめて。お義母さんに、どんな教育してるのって問い詰められちゃう」
齢にして5歳。
16年の私の人生の中で最も古い、ダンジョンに関する発言の記憶である。
この頃はちょうど、ダンジョンを探索するヒーローの特撮が大人気で、多大に影響を受けた私が先の問題発言をかますに至ったわけだ。
親からすれば、まだ小学生にもなっていない娘がいきなりテロリズムに目覚めたようなもの。
早めにその芽を摘み取るため、ダンジョンの恐ろしさを教えようと近所の低ランクダンジョンに連れて行かれたのが小学2年生の頃だった。
探索者ヒロイン(歌って踊って戦える脳筋美少女)になりきれると思った私は、はしゃぎまくった結果親とはぐれ、初のエンカウントを果たすことになる。
身長は1m強、緑の肌にヒョロヒョロの手足、腹だけ膨らんでおり、髪のない小さな頭にギョロッと飛び出た目玉が二つ…そう、ゴブリンだ。
ダンジョンによって容姿や装備、特性などが異なるが、うちの近くのは腰巻きと棍棒以外に身につけているものはなく身体能力も低レベルのクソ雑魚ゴブリンどもの巣窟であった。
一体一体の力は小学生高学年程度だ。
とは言ってもそれが数百匹、それも全員もれなく鈍器持ちなのだ。
ましてやこちとら小学校低学年の女子である。
万に一つも生き残る術のない詰みの状況、しかし当時の私はその絶望に歓喜していた。
「この前のシオリちゃん(お気に入りの探索者ヒロイン)もこんな感じだったよね?!ママー!私シオリちゃんになっちゃった!」
(原文ママ)
ゴブリンに囲まれる私を見つけて取り乱していた母は、この言葉ですんっと冷静になり、私たちの勝手な行動ではぐれてしまっていた
ゴブリンもゴブリンで、キャッキャと満面の笑みを浮かべながらシオリちゃんになりきる私に困惑して、襲いかかるのを躊躇する。
まぁ、軽いカオスだ。
しかしそんな膠着状態も長く続くはずはなく。
気持ちの整理はついていないが、とりあえず近づいてみようとする一体のゴブリンが私の背後に回ったその時。
シオリちゃんのステッキ(光るおもちゃ)を振り回していた私が突然ターンを決め、その細いプラスチックの棒でゴブリンの目を突き刺したのだ。
痛みに絶叫を上げるゴブリンと、ステッキがゴブリンの血で汚れたことで激昂する私。
無理矢理引き抜こうと私が上下左右に動かしまくったせいで眼球だったものがかき混ぜられ、その痛みに耐えかねてゴブリンは泡を吹いて気絶してしまった。
だがナユタちゃんは止まらない。
猛る怒りをその右足に集約し、足元のゴブリンを踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く。
少女の力など高が知れているが、そこはゴブリン、貧弱な身体では幾度にもわたる踏みつけに耐えきれず、13回目で絶命し粒子状になって空気中に溶けていった。
「「「「「………」」」」」
周りのゴブリンと遠くでハラハラしながら見守っていた母、絶句である。
ゴブリンたちは、同胞への一方的な蹂躙の衝撃で。
母は、買い替えの効くものを汚されただけで生物を殺傷する娘の残虐性への恐怖で。
それぞれが、異なれど同種の畏怖を持って
その後、引率の探索者と合流して無事私は助け出された。
獲物を囲んでいるというのに襲いかかる気配もないことを不審がっていたが、ステッキから血が取れないことに気づき泣き喚いている私がいたため疑問の追求よりも救助が優先され、そのまま特に深掘りされることもなく家に帰ることができた。
可哀想な話だが、探索者パーティは
まぁ、適当な人たちに見えたから、保護対象の存在の確認もせずに自分たちのペースで進んでしまったのも原因の一つだろう。
よくある事故だし、怪我人もいなかったんだから違約金だので臨時収入を手に入れたうちは、まあまあツイてたとも思う。
実際、無神経な父親は、ビビってついてこなかったくせにそう口にして母に半殺しにされていた。
ただ、時々考えてしまうのだ。
もしあの時のことさえなければ、私はただの女の子でいられたのではないか、と。
今更な話なので後悔などする気も起きないが、どうか覚えておいて欲しい。
『修羅』とかいう
ダンジョンへの幻想を高学年になるにつれて捨てていき、普通に青春して彼氏を作ってか弱い女の子として守られる日々があったかもしれないということを。
これは私、一ノ瀬那由多が普通の青春を捨てて、
ちなみにガチレズである。
理由は、私より男らしい男がいないから。
ちっちゃい女の子たちを守ってあげて、百合ハーレムを作りあげるのが私の夢の一つだ。
一ノ瀬ナユタは探索者 儚現 @hakanautsuutsu
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