最終話
◇
「……大変だったな」
「そうだね」
色々と片付いて、そっと声を漏らした俺。そして相槌を打ってくる雛子。一番酷い目に遭ったのに、俺より気楽そうであった。
あれから色んなことがあったが、とりあえずは雛子について。ノアに頬を切られた雛子はすぐに病院へ搬送された。幸い、怪我は大したことがなく、傷跡も残らないとのこと。絆創膏が痛々しかったが、跡が残らなくて良かった。
それからノアについて。雛子を病院送りにした上にその場から逃亡、廊下での出来事なので目撃者も多数いたことから、かなり大事になった。というか警察がやって来たし、俺も事情聴取を受ける羽目になった。傷害の現行犯ということでそのまましょっ引かれ、学校も退学処分は免れないとのこと。
一度だけノアと面会したが、そこでも「自分は悪くない、あの女が悪い」と言い続け、反省皆無だった。俺は彼女に別れを告げて、関係を清算した。ノアは受け入れていなかったが、あの調子だとしばらくは出て来れないだろうから放っておこう。
それで今日は、雛子の傷が完治した日。ノアによる傷害事件はこれでひとまず決着となった。
「雛子」
「うん?」
病院からの帰り道。雛子に付き添っていた俺は、彼女に話を切り出した。
「やっぱ俺、お前のこと好きだわ」
「ゆーちゃん……それは」
ロマンもムードもへったくれもない告白。それでも、伝えない訳にはいかなかった。
「ノアとは縁が切れた。もう俺たちの邪魔をする奴はいない。だから―――」
「駄目だよ」
俺の言葉を雛子が遮る。
「言ったでしょ? ウチとゆーちゃんじゃあ、釣り合わないよ。ノアちゃんがいなくても、それは変わらない」
雛子は頑なだった。でも、その頑なさに至ったのは俺のせいでもある。過去の自分の過ちが、今の自分を、雛子を苦しめている。
「……釣り合ってるって、何なんだろうな」
「……え?」
その過ちを償うには、雛子のコンプレックスを払拭するしかない。出来る自信はないが、やるしかない。
「確かに、雛子は美人とは言い難いと思う。でも、逆に言えばそれだけだろ」
雛子がブスであることは今更否定できない。だからそこは否定しない。その上で、言うべきことがある。
「雛子は優しいだろ。雛子のことを散々馬鹿にしたのに、情けないところを見せまくったのに、そんな俺のことを慰めてくれるし。俺がノアに切られそうになった時も体張って庇ってくれただろ。そんなこと、なかなか出来るもんじゃない」
「で、でも、それは……」
俺が惹かれたのは雛子の内面だった。だから、その魅力を語った。
雛子は困惑しているけど、当然だろう。彼女からすれば、俺に対して優しくするのは、そこまで大それたことじゃない。そんな彼女の性根が、雛子の優しさを際立てているのだ。
「それだけじゃない。雛子の声は聞いてて癒されるし、包容力はあるし、料理は得意だし、勉強もできるし、それから―――」
「も、もう……! ゆーちゃん……!」
そこが一番ではあるけど、雛子の長所はそれだけじゃない。だから思いつく限りの彼女の良い所を挙げていったら、雛子がパンクした。自己評価が低い分、褒められるのに弱いのだろう。
「だからさ、そこまで卑屈にならなくていいんだ」
「で、でも……」
けれど、それを受け入れられるかは別の話だった。どれだけ雛子の魅力を伝えても、彼女の認識がすぐに変わることはない。
「別に、今すぐ付き合って欲しいとまでは言わない。雛子が受け入れてくれるまで待つつもりでいる。だから、少しでいいから考えて欲しい」
「ゆーちゃん……」
「俺が嫌いとか、無理とか、そういう理由なら大人しく引き下がるよ。でも、雛子が自分を過小評価してるからとか、そういう理由なら諦めない」
今まで雛子を傷つけた分、俺は彼女の心を解きほぐさないといけない。それにはかなりの時間を要するだろうけど、根気よく向き合っていくしかない。それが雛子に対する俺のけじめであり誠意だ。
「……そういうこと言うと、ウチ、真に受けちゃうよ?」
すると、雛子は俯きながらそう返してきた。顔は見えないけど、赤くなっているのは分かった。
「むしろ真に受けて欲しいんだけどな」
「も、もう……! 知らない……!」
「あ、雛子……!」
俺の返答が気に入らなかったのか、雛子は怒ったようにそう言って駆け出した。照れ隠しだろうか。だったらいいなと思いながら、俺は彼女を追いかけるのだった。
完
【完結】幼馴染は性格天使。ただしブス マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ) @maomtg
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