裏市へ
「はあ・・・」
結局俺は悲しみを感じてしまっている。
街には幸せそうな家族がたくさん。
思い出してしまうな。家族との思い出を。
しばらく歩くと、街の入り口についた。
外には魔物がウジャウジャいるらしい。
しかし強さ自体はそこまででもなく、俺はその中でも一番弱いスライムの討伐。
「あれだな・・・」
外に出てすぐにスライム状の生き物を見つけた。
ウネウネしてる。気持ち悪い。
「ていうか、どうやって倒すんだよ?」
考えてみれば俺は敵と戦う方法なんて分からない。
武器も持ってねえし。
「ピギーッ!」
「き、きた・・・」
こちらに気づいたスライムが襲いかかってくる。
鋭い牙を持ち、このままじゃ噛みつかれちまう。
「ドオンッ!」
「え?」
気づけばスライムが遥か彼方に吹き飛んでいくのが見えた。
・・・俺がやったのか?
俺の体は勝手に動いて、こちらに飛び掛かるスライムをハイキックで吹き飛ばしていた。
なんていうかこう・・・体が戦い方を覚えているように感じた。
もちろん俺は格闘技なんかやったことはない。
蹴りなんか友達とサッカーで遊んだ時ぐらいでしか使ったこともないし。
そういえば、先ほど街で少年を追いかけた時も、自分では驚くほどのスピードで走っていた。
もしかして俺には本当に勇者の力があるのか?
「ふう・・・」
たった数分ほどで俺はスライムを10匹片づけ、再び酒場へ向かった。
やはり蹴りやパンチなどの基本的な攻撃は体が覚えているような感覚だった。
「あら・・・もう終わったのね」
予想以上に早い俺の帰還に、受付は驚いていた。
そして俺は腕の数字を見せ、彼女が先ほどの契約書にハンコを押すと、俺の手の数字は消えた。
「はいこれは報酬ね」
彼女に金をもらうと、何か仕事を終えたような満足感を得た。
「じゃあ、あなたならこのクエストも任せられそうね」
彼女はいくつかのクエストを俺に提示する。
今日はスライムだけの討伐で終えるつもりだったが、まだ時間もありそうだし、いくつかやってみるか。
俺は再び契約書にサインをして日が暮れるまでクエストに取り組んだ。
「はあ・・・」
流石に初日から飛ばしすぎたのか、俺はクタクタな状態で教会に帰った。
教会に着く頃には外も暗くなっており、親が仕事で帰ってくるような気持ちを少し味わえた気がする。
「ただいまあ・・・」
「お疲れ様です」
シスターが迎えてくれて、俺にお茶を淹れてくれた。
なんだかんだ優しい子なのかな?気もきくしね。
「どうじゃった?お金は稼げたかの?」
「こんぐらいです・・・」
俺は今日稼いだ金を二人に見せる。
「おお、さすがは勇者じゃな。こんなに稼いでくるとは」
「私の1ヶ月のお給料以上・・・」
意外と稼げるんだな。
しかし今日は使う気にもならない。
俺は彼らが貸してくれたベッドでその日は寝てしまった。
次の日、俺が起きたのは午前8時。
俺がベッドから出ると、二人は教会の掃除をしていた。
「おお、目覚めたか」
起きた俺を見るなり近づいてくる神父さん。
手には何かを本のようなものを持っている。
「それはなんですか?」
「これは勇者の書と呼ばれる物じゃ。自分の名前を書き込むことで、もしお主が死んでも、名前を書き込んだ時間からやり直せるという代物じゃよ」
なんじゃその便利すぎる代物は!?
まるでゲームのセーブ機能みたいだな。チートアイテムじゃねえかよ。
「しかし勇者しか使えないことに加え、魔物による死因以外は生き返れないとされておる」」
流石に制限はあるみたいだけど、それでも凄い。
もちろん使ってみないことには信じられないが、これが本物だったら俺はマジで魔王も倒せるんじゃないか?
あの勇者の書は、この街出身の伝説の勇者が残したと言われる物らしい。
しかし新品のようにも見えるぐらいに綺麗だし、何か魔法でもかけられているのだろうな。
とりあえず俺はその本に自分の名前を書いた後、腹が減っていたので近くのレストランに向かった。
「美味いな・・・」
レストランの食事は俺らの世界とあまり変わらないので俺の口にも合う。
この世界に来て初めての食事だったので、少し感動してしまった。
「次これ頼みたい」
「うん・・・ってなんでテメエいるんだよ!?」
「ツッコミ遅えよ!」
いつの間にか、きのう俺にぶつかってきた少年が俺の向かいに座っている。
そして何食わぬ顔で大きなハンバーグを食べている。
「昨日は悪かったよ兄貴」
「誰が兄貴だよクソガキ」
昨日のことを思い出して俺はイライラしてしまう。
それにしても結局追ってから逃げ出せたのか。
「結構持ってるんだな」
いつの間にか俺の金を手に持ち、満足そうに笑顔を浮かべている。
「返しやがれよ・・・まったく・・・」
「少しぐらいくれよケチ!」
彼の服はボロボロで、髪は短いけどボサボサ。
きっとホームレスで、盗みで生計を立てているんだろうな。
しかしそんな彼も、目だけは宝石のように綺麗なのが印象に残る。
「ていうか兄貴は昨日この世界に来たとか言ったか?」
「ああ、別に信じなくていいけど」
過去のことはあまり思い出したくない。辛いから。
だから元々俺はこの世界の住人なんだと思うことにしたよ。
「お前はこの街出身か?」
「うん。スラム街で生まれて、ずっと一人で生きてきた。これを見てよ」
彼は俺に腕を見せてくる。
彼の腕には刺青のようなものが入っていて、かなり目立つ。
「なんだそれは?」
「これは罪人の証だ。俺は盗みを繰り返して何度も軍に捕まってるんだ」
・・・少し残酷だな。
金も稼げずに、盗みを繰り返すしか生きる方法はないんだ。
もちろん悪いことだけど、この世界を生き抜くのは大変なんだろうな。
「いつか金持ちになったら俺を買ってくれよな!」
純粋な笑顔でこちらに笑顔を向ける。
冗談を言っているようには見えない。
「・・・俺は勇者だから。お前に構っている暇はない」
この純粋な笑顔をもう見たくないと思ってしまい、突き放すようなことを言ってしまった。
彼の笑顔に裏には、この世界の闇をどうしても感じてしまう。
親も仲間もいない中で必死に生き抜いているはずなのに、こんな純粋な笑顔をできる彼を見るとなんだか切ない。
なんでか分からないけど切なすぎる。
それに妹もこんな顔して笑ったし思い出してしまうよ。
「へー・・・勇者ねえ・・・」
思ったより反応が薄い。
「まあ、お互い頑張ろうぜ!困った時はお互い様だよな!兄貴!」
そう言って、大きな口でハンバーグを全て食べ終える。
そして、もう一度俺に笑顔を向けてどこかへ行ってしまった。
「さあて・・・」
レストラン彼出た俺は、とりあえず伝説の武器?を探しにいくことにした。
とりあえずは情報探しということで、街の人に話しかけよう。
「あのー、すいません!」
「おー!昨日の兄ちゃんじゃねえか!」
俺が話しかけたのは昨日俺を起こしてくれた人獣の狼。
俺のことを覚えてたようで、笑顔を向けてくれる。
「実は俺、この街で伝説の武器を探しているんです」
「おー兄ちゃんもあれを探してんのか!」
どうやら彼や周りの仲間もその存在を知っているようで、俺に色々教えてくれる。
「この街はかつて魔王を倒した勇者の出身地ってことは知ってるよな?その勇者がいつか現れる新たな勇者に向けて伝説の何かを隠したって言われているんだ。だが、結局誰も隠し場所は分からずじまいってことだよ」
うーん・・・結局は有益な情報は得られそうにないな。
まあでも当たり前か。伝説だし、そんな簡単に見つからねえよな。
「と、言われてたんだけどよ。最近裏市って呼ばれてる所に、その伝説の武器が売ってる奴がいるらしいぞ。まあ皆んな嘘だと言って相手にはしてねえが」
「なるほど・・・一応そこに行ってみます!ありがとうございました!」
俺は急いで裏市と呼ばれる場所へと向った。
それは街のスラムにあり、この街には売ってなかったような食材などがたくさん売っていた。
しかもかなりの値段がする。法外なんだろうな。
そして、あたりには薬をやっている人や、生きているか分からないような人たちが地面に倒れている。
あの少年もここで育ったんだろう。かわいそうに。
「ここかな?」
俺は裏市で武器屋のような場所を見つけた。
中に入ると、なんだかカビやホコリ臭い。
しかも室内はボロボロで、今にも壊れてしまいそう。
「あのー・・・」
「おお!久しぶりの客だ!何か御用かな?」
受付にはなんだか胡散臭そうなオジさんがいる。
俺に気づくや否や、胡散臭い笑顔に変わる。
「ここに伝説の・・・」
「伝説の武器か?ちょっと待っといてくれよ!」
そう言って、いきなり奥の部屋へと行ってしまう。
マジであるのか?伝説の武器が?
「・・・え?」
彼を待っている間に俺は店の中を見渡すと、隅に檻のようなものがあった。
中を覗くと・・・人間がうずくまってた。
「・・・」
真っ黒な目で俺を見つめる。
そんな全てに絶望しているような目を見ると、俺は全身に鳥肌がたった。
「兄ちゃん持ってきたよ!」
彼が伝説の武器を持ってきたようで、俺はそちらに向かう。
「これが・・・」
「そうさ。これが伝説の勇者の武器さ!」
目の前には青白い光りを放つ美しい剣が置かれている。
マジで本物に見える。
「い、いくらですか?」
「1億ゴールド・・・と言いたいとこだが、1千万で手を打ってやろう。1年以内に買ってくれるならな」
俺が昨日稼いだのは1万ゴールドぐらい。
これからどんどん難しいクエストに挑戦していけば、現実的に買える数字かもしれない。
「わ、わかりました。1年以内ですね」
「物分かりが早いなあ!じゃあ待ってるぜ!」
その後、俺は笑顔の店主に送られて俺は店を出た。
「・・・なるほどのお」
「詐欺ではないんですか?」
教会に帰り、俺は今日のことを全て彼らに話した。
しかし反応はあまり良くない。
「詐欺なら詐欺で、俺は素手で魔王を倒しますよ」
本気だ。別に偽物でもいい。
もちろん本物だったら嬉しいけど、信じてみる価値はありそうだ。
・・・なんてね。
「俺には勇者の書があるんで。偽物だったら死んでやり直せばいいだけです!」
俺は一度あの事故で死んでる。
だからあまり死は怖くない。
あの剣が偽物でも、死んでやり直せばいいだけだからな。
「なるほど!勇者の書を使うんですね!」
「それは素晴らしいアイデアじゃな」
・・・ということで。
今日から俺は金を貯めることにした。
クエストをクリアしまくって、1千万ゴールドを貯めるんだ。
そして伝説の武器を手に入れる。
なんだか勇者っぽいな!
・・・ぽいよな?そうだよな?
異世界転移した俺は伝説の武器ではなく奴隷を買ってしまった リカルド @Ricardo1234
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