怪異探偵ユウヒさん

花道優曇華

第1話「探偵事務所ファルファラ」

人間では無い何か。妖怪、悪魔、天使、神、そういった存在を私たちは一つに

まとめて怪異と呼ぶ。警察では怪異が起こす事件を解決するための組織が創設

された。もっと実戦的な国防軍も創設。人間の中でも不思議な特殊能力を入手し、

行使出来る者も増えて来た。警察などに頼らない人間や悩みを抱える怪異たちに

寄り添う民間の探偵がいる。彼女は弥勒院夕姫、全てを見通す怪異探偵。


「え、君が…探偵?ホントに?大丈夫?」

「はい。私が探偵なので、納得いかなくても、とりあえず納得してください。あ、

これ名刺です」


探偵事務所ファルファラ。その探偵である弥勒院夕姫はオッドアイ。ピンクと

シルバーという独特な組み合わせ。どちらも生まれ持った瞳では無い。何時、何処で

誰によって、何故義眼になったのか定かでは無い。依頼人は信じられなかった。若い

女性探偵であること、オッドアイであることは聞いていたが予想以上に年齢が下に

見える。


「窃盗か。行くか?」


奥から顔を覗かせたのは長身の青年。190cmはある背丈。俳優顔負けの美顔の

持ち主。やって来た女性の依頼人の表情が明らかに赤くなっている。


「月彦。あ、こちら依頼人さん。そしてこちら、従業員の一人、大江山月彦です」


探偵事務所ファルファラには何人か従業員がいるという。全員が揃っていることは

滅多に無いらしく、常連でも全員と顔を合わせたことが無い。大江山月彦、この日

たまたま事務所に居合わせていた。


「で、俺は必要か?それとも他を呼ぶか?」

「うーん…」


夕姫は目を伏せて、唸った。少しして再び目を開く。その時、顔を伏せていたため

依頼人は視えていなかった。彼女の左目、ピンク色の瞳が輝いていた。彼女が

見たのは未来予測。


【窃盗に関して調査する最中、武装した窃盗団が再びやって来て窃盗よりもさらに

罪の重い殺人に手を付ける。そんな輩相手に夕姫や依頼人は手も足も出ずに…。】


「一緒に来て欲しい。犯人は、現場に戻って来るよ」

「えぇ?」


依頼人は困惑した。妙に自信に満ち溢れた言葉。戻るかどうか証拠すら無いのに、

戻って来ると断言した。鼻で笑いたくなるが、その言葉を月彦も疑わずに呑み込み

同行する意を示す。噂には聞いたことがある。この探偵は未来や過去が見えるだの

心を読むことが出来るだの、噂が噂を呼び彼女が実は妖怪なのでは無いかという

話すらあるのだ。


「戻って来るって…どうして…だ、だったらやはり警察に!」

「大丈夫。警察にも連絡はするけど、多分やめた方が良い」

「だから、なんで―」


依頼人を制止したのは月彦だった。


「噂を聞いて、半信半疑ながら来たんだろ。聞くだけ聞いてみようぜ。何かあれば

俺が対処する。危険な目には遭わせねえよ」


依頼人に対して敬語など使わず馴れ馴れしく感じる。依頼人は過去に探偵を頼った

友人の話を思い出した。ストーカーの被害に困っていた時、実害が無いせいで警察は

動くことが出来ない。そこで紹介されたのが探偵事務所ファルファラ。思い出した。

その友人は、月彦と言う男に世話になったと。


「さてと、時は金なりって言うでしょ。行きましょう」


早速依頼人の家へ向かう。依頼人の家はそれなりに裕福で、親が骨董品集めを

趣味にしている。その骨董品が今回は狙われたらしい。不在のタイミングを狙われ、

窃盗の被害に遭った。依頼人が運転する車の中、後部座席にいる夕姫は静かに

窓の外を眺めている。対して隣にいる月彦。少し窮屈そうだ。軽自動車に乗るには

彼は上背があり車が小さく見える。


「豪邸だな」

「祖父が会社経営をしていて…―?どうかしましたか?」


依頼人よりも前に月彦が立つ。豪邸の中から何か気配を察知したらしい。夕姫は

自身が持つ特殊な義眼の力を利用し、透視をする。中で待ち構えているのは―


「―伏せて!」


依頼人を庇う様に夕姫はその場に伏せ、その瞬間に轟音と爆発。一体何事だ。

そんなことを気にする間もなく、破壊された扉から月彦が乗り込む。

ロケットランチャーを構えていた男の顔面が月彦の拳で陥没する。


「ぐ、ぐげ…」

「仲間がいるな?出て来い。でないと、テメェらの仲間、どうなってもしらねえぞ」


顔面を鷲掴みにして持ち上げる。とてもじゃないが、人間では出来ない業。彼は

タダの人間では無いとだけ言っておく。この体躯だ。技術もクソも無く、喧嘩を

すれば充分に強いだろうが、力を正しく出す術を身に着けて居たら…。

彼の脅しで中に潜んでいた窃盗団が湧いて出て来た。


「うっわぁ…ゴキブリと何も変わらん…」

「おい、変な事を言うな。ってか、離れてろ」

「もう既に扉、破壊されてるけど乱闘は外でね!あ、家から離れてね!」


物騒なことを言う夕姫に対して、疑問をそのままぶつけた。見てれば分かる、そう

言われた。そして外、月彦はフッと不敵な笑みを浮かべた。一斉に向けられた物騒な

銃口は今にも火を噴こうとしている。


「クソ、死ねぇ!」


銃弾が一斉にばらまかれた。だが一丁だけ、暴発を起こしたのだ。銃が素手で

変形されていたのだ。


「月彦さんは鬼の力を身に宿してるんです。家から離れる事、外でやる事、二つは

彼が力を出す際に周囲を破壊しないための配慮」

「そう、だったの。鬼って…」

「頑丈だし、膂力もある。中々、頼りになるでしょ?」


その後、窃盗団は揃って駆け付けた警察に連行された。依頼は無事に達成された。

そしてまた別の日、異なる依頼がやって来る。


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