第5話 ありがとう。そして、最高の君にさよならを

 どうして、俺がその後目覚めることができたのかは、正直なところ全くわからない。

 全身を焼かれ、あらゆる臓器さえ失って目覚めた俺は、多分、人という生き物ではなかった。


 目覚めた俺へと彼らは言った。

「あの悪魔を殺せ」、と。


 分かっている――そんなことは。

 アイツを今、殺せるのは同じく人ではなくなった俺しかない。そして、それは俺自身も望んでいることだった。


 お前が何かの間違いでこんなことになって。

 自分自身でもそれを止めることができないというのなら。


 大丈夫。

 俺が終わらせてやる。


 苦しみも、痛みも、お前が嫌いな世界の、全てへの敵意だって。

 受け止められなくても、全部食らってやるから。


 俺の命を救ったのだという研究者だか、医者だかの言う言葉が、ただ耳を通り抜けていく。

 何にしたって、そんなのは意味のない言葉に過ぎない。

 全てはアイツが始めて、終わり損ねた物語なら。

 俺が終わらせてみせるよ。


 ――だって、友達だろ?

 お前がどんな存在に変わろうと、絶対にそれだけは変わらない。


 お前が俺を生かしたのが何故なのかは、今も、ずっと分らないけれど。

 いいさ。それで、お前を消し去るだけの力を俺が得られたのなら。

 それで、お前の苦痛を消し去ることができるなら。


 連中の言葉を無視するのは簡単だった。俺はナユタのいる場所へと目を向けた。

 連中がいくら止めようが、俺を止められない。

 それはアイツらが一番わかってることだろう。

 俺が何をしなければいけないのか、そんなことはアイツらに言われなくても分ってる。


 ナユタの居る場所、その場所は、少し遠いが、遠すぎる場所じゃない。



 これが、君を幸せにはしないのかもしれない。

 それでも、俺はお前を終わらせにいくよ。

 だって。


 お前が悪人ではないことを知っている人間は、きっと、俺以外にはいないのだから。


 あの頃の俺たちの友情なんて、今はもう壊れてるのかもしれないよな。

 だから思ったんだ。

 俺はお前を壊すための「ネメシス」にでもなるしかないんだ。

 恨んでくれ。嫌ってくれ。憎んでくれ。それでも。いいよ。


 例え、お前から肯定されない存在でいい。

 それでも、絶対に。

 お前をこれ以上苦しませはしない。


 俺は君を、殺しに行く。

 その方が、君が今より、苦しまずに済むんだと信じて。


 機械仕掛けの体を軋ませながら。ナユタ。お前の元へと体を動かした。


 なんだろうな。作り物の体の方がずっと動かしやすかった。

 お前にとっての苦しみを終わらせることができるなら。俺は自分が人でなくなって構わないし……お前以上の悪魔に変わろうと構わないよ。


 ナユタ。

 廃墟と化した、彼が留まるあの場所へと目をやる。


 人生。いや、自分がもう人でなくなったのだとしても。

 この命を賭けて。

 瓦礫を踏み歩きながら、俺は彼の元へと向かう。


「久しぶり。だな」


 ああ。言葉というものがもう、君に伝わるのかも分らない。


「ずっとずっと、会いたかったよ。

 ……それじゃあ、お互いの全力とかでさ」


 何故だろう。こうして君と対峙できること自体が。

 どうしてこんなにも、俺に残ったヒトの心を慰めてくれるのだろう。


「……壊しあおう。決して、もう、二人とも、二度と目覚めないように……」



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あなたの平穏のために 椎名アマネ @shiina0102

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