とうもろこし🌽戦争
雪⛄️だるま
9月下旬
「こら、こてつ!トマト食うんじゃねぇ!」
旺盛な生命力で伸びた茎は、支柱を引き倒していた。植物というよりも木と言った方がいいかもしれない。ゆるやかな斜面に畝が6本。合計200本を超えるトマトの木が伸びている。
真っ赤に熟したトマトを収穫しながら、私は怒っていた。
赤く熟れた木子トマトを北海道犬がむしゃむしゃ食べている。
京野菜のこのミニトマトの一房に実る果実はせいぜい5〜8個ほどだ。大きさもせいぜい2~3cm。ミニトマトとしては大きい方かもしれない。果皮が薄いのもこの木子トマトの特徴だ。熟していくほどに緑からほおずきいろに変化することから別名ほおずきトマトとも言われている。夏の間は、熟してもほおずきいろが若干濃くなる程度で、食べても甘くもなく、酸味も強くなく、それほど美味しいトマトではなかった。それが9月に入って、最低気温が15度を切って秋の様相を呈してきたとたん、トマトの本能を刺激されたかのように、真っ赤に色づきはじめた。購入した種に付いていた説明書によると、熟して落実したこのトマトはとても甘いらしい。
しかし、我が家の庭では落実する前にこてつが食べてしまう。
真っ赤に熟した木子トマトは、それまでとは打って変わって美味しいトマトに変化した。上品な甘さ、舌にのこる深い滋味。いま流行りのミニトマトにはない侘び寂びを伴った日本古来の気品を感じさせる地力を伴った味わい。庭には、何種類ものトマトが実っている。アトミックグレープ、サンマルツィアーノ、コストルート・ディパルマ、バリーズクレイジーチェリー、ブラックチェリー、レッドチェリー、ボルゲーゼ。そしてそれらの交雑した名もなき雑種トマトが、所狭しと実っているのに。
こてつはちらりとこちらを見上げ、申し訳なさそうに一瞬だけ尻尾を下げた。
「だって、木子トマトが一番美味しいんだもん。」
「だからって、お前なぁ。」
私は腕を組み、畝の向こうでため息をついた。
するとこてつは、何かを思いついたように畑の奥へ駆けていった。数秒後、まさに食べごろの真っ赤な木子トマトをひとつくわえて戻ってくる。
「これ、あげるから許して。」
よだれのついたトマト🍅を、私に差し出す。
その目はまるで「俺のをわけてやる!」と言っているようだ。
私は吹き出してしまった。
しゃがみ込み、トマトを受け取った。
「ありがとう。うまいよ、こてつ。」
「でしょ!」
こてつが尻尾をブンブン振る。
その背後には、芯だけになったとうもろこし🌽がいくつも転がっていた。
とうもろこし🌽戦争 雪⛄️だるま @mishina_taijiro
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