【終】那由他の系譜
――これが、彼の旅路の本当のはじまり。
滅びつつあった文明社会で捕えられ非人道的な実験の餌食にされ、挙げ句の果てに閉じ込められた不死者の青年は、滅びの時代を何とか生き延び命を繋いでいった後世の人間によって助け出され、再び人間の中で生き始めた。
そして崩壊から立て直したものの文明の大きく衰退した世界の中に降り立った彼は、謀略により両親を殺害され国を追われた姫君と出会い、亡命を手助けした。
次いで毒魚の調理をする求道者の手助けなどをした後、後年にはかの姫君の甥にあたる男とも見えることとなり、彼に付き添い、王として国を取り戻すのを見守った。その後は王となった彼が老いて往生するまでを見守った末、再び放浪の旅に出た。
その旅の途中、立ち寄った雑伎団の公演にて炎に巻かれて死の淵にあった少女を命がけで助けたことによりその特異性を座長に知られてしまい、捕えられ嬲られ死と再生を見世物にされた。命を救った少女は美しく成長し、いつしか心を通わせ愛し合うこととなり――不死の秘蹟を彼女に託すこととなった。そうして密やかに秘蹟を失った彼は、かつて友のように過ごした相手に渡すことの出来なかった死を、彼によく似た男に捧げた。
そして彼女が産んだ男児はやがて父親そっくりに成長する。母親の言いつけを守りしばらくの間、世間から離れて暮らしていたが、奴隷商人から逃げてきた一人の少女を救うこととなる。そして国に戻りたいという彼女の願いを聞き入れ、再び世俗へと戻り自分の役に立てることを探す旅に出ることとなったのだ。
これがナユタという、人間のことが好きな人間の物語である。
死と再生を繰り返すという秘蹟をその身に宿しながらも、余人と変わらず懸命に暮らし、人を愛し、子を為し、そして命を全うする――そんな、ひたむきに命を使った男の、余人よりほんの少し長い旅路の一部始終の物語なのだ。
なゆたの旅路 もしくろ @mosikuro
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