苦悩するアドゥレセンス少女
黒巻雷鳴
苦悩するアドゥレセンス少女
わたしには絶対音感がある。
ピアノやヴァイオリンを習っていたわけじゃない。
20万人にひとりの確率の、生まれつきの特徴だ。
このことは誰にも話したことはない。両親や友人にも。
幼少時代は、これが普通なんだと思っていた。
みんなも同じだと思っていた。
だけど、違った。
それがわかったのは、公園の回る遊具で友達と遊んでいた時。
突然、不快な旋律がきこえてきて頭が痛くなった。
脳内をかき乱す大きな
友達は驚いてすぐに止めてくれたけど、わたしは怖くて泣きやまなかった。
わたしの場合は特に過敏なようで、環境音だけでなく
そんなわたしだけど、楽器の演奏が上手とか、歌唱力があるとか、そういった才能までは持ち合わせていない。
作曲家や演奏家をめざすのであれば、絶対音感は有利にはたらくだろう。
けれども、音楽の道に興味が持てなかった。
せっかく神様から授かったこの才能は、わたしには人生を苦しめる〝呪縛〟でしかないからだ。
校内にお昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。席に着いたわたしに、後ろの席の子が放課後カラオケへ一緒に行かないかと話しかけてきた。
高校生になってから、この手の誘いが増えた気がする。いつも断ってばかりじゃ女子のなかで孤立してしまう。自分に〝大丈夫だから〟と強く念じて、クラスメイトの誘いを作り笑いで承諾した。
みんなに連れられて、カラオケボックスに初めて入る。
女子はわたしを含めて3人。男子も同じ人数だった。
タッチパネルでなにを歌うか選曲したり、ドリンクバーへ仲良く男女ふたりで行ったりと、みんなが楽しんでいる様子を横目に、わたしはひとりスマホを弄る。そうやって、少しでも冷静になろうとしていた。
やがて曲が始まる。
いま流行りの、わたしでも知っている曲。だけど、原曲よりもキーが下げられていた。
きいていて、我慢するのが辛かった。それだけじゃない。クラスメイトが歌う音程のズレも耳障りで強いストレスになった。
そして遂に、わたしが歌う順番になる。
ああ……嫌だ嫌だ嫌だ。
わたしは誰の歌声よりも自分の歌声が大嫌いだ。
完璧じゃない、音階のズレた弱々しい歌声。
クラスメイトたちは次に歌う曲やLINEを交換したりして、誰もわたしの歌をきいてはいない。
それでも、わたしにはきこえる。不快なこの歌声が。
わたしには絶対音感がある。
このことは誰にも話したことはない。両親や友人にも。
幼少時代は、これが普通なんだと思っていた。
みんなも同じだと思っていた。
だけど、違った。違っていたんだ。
苦悩するアドゥレセンス少女 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala
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