エピローグ
庭雲学園は二ヶ月に一回、点検日というのものがある。その日は全ての部活を休止し、授業が終わったら生徒はおろか教員まで、帰宅させるという、他の学校にはない日程が組み込まれていた。
雑談部の部員もそれに倣って、帰路についていたのだが、帰り道の途中、祐が学校に忘れ物をしたことに気づく。
「悪い、スマホ学校に置いてきたかも知れないから、取ってくるわ」
「何やってるのよ。スマホぐらい、明日でいいじゃない」
「夜、メッセージ送れないけど?」
「……早く行ってきなさい」
二人が付き合い始めてから、夜は毎日メッセージのやり取りをしている。通話の時は、どちらかが眠るまで話をしていて、寝不足の日が増えたとか。
「何だ、学校に戻るのか? 私達は先に帰ってるぞ。やっとミキ達が、家に遊びに来てくれるんだ、沢山もてなしてやるぜ」
今日は部活が無いってことで、リアラがせっかくだからと、みんなを自分の家に招待したのだ。ここにはいないが、祐やみらいだけではなく、夏帆や千明も後から来る予定だ。
「すぐ戻れるし、先に行っててくれ」
そう言って祐は、学校に向かって戻って行った。
下駄箱に着き、上履きに履き替える。校舎の中は、生徒や教員の姿はなく、少し寂しさを感じる。
三階にある教室に向かう為、階段を目指す。途中に生徒会室があり、そこにある掲示板に、祐は目を向ける。
目安箱に入れた、伯氏への回答が、用紙にまとめられていて、貼り出されていた。
【伯氏さんへ】
告白した後フラれる事を思うと、告白出来ません。とのことで、雑談部は解決案を提示します。
まずは恋愛ゲームで、擬似的恋愛を体験しましょう。相手の気持ちを理解し、接することで、見えてくるものがあるはず。
それと、女の子を守れる強さも必要だと、考えています。人生何が起こるかわかりません。もしかしたら、通り魔に襲われる可能性だってあるはず。そんな時、貴方の力だけが頼りです。ギッタンギッタンにしてやってください。
絶対に欠かせないのは、見た目です。服装やヘアスタイルなど、周りから見える範囲は、きちんとしましょう。見た目が悪い人と、付き合いたいと思う女子はいません。
それらを踏まえて、最後は告白の為に勇気を振り絞って、デートに誘ってください。デート場所は、ムードがある場所が好ましいです。遊園地などは、待ち時間がある為、オススメはしません!
ここまで来たら、当たって砕けろです。健闘をお祈ります。
【雑談部より】
「短い期間に、色々やったな。ゲームやったり、柔道をしたり、コーディネートの勝負もしたっけ。悪魔からみらいを助けて、デートだって……っと、こんな所で、油売ってる場合じゃないな」
祐は再び、歩き出す。
階段近くまで行くと、そこには人影があった。何故か、階段付近にある防火扉を見つめている。
「は……?」
人影が防火扉を開けると、そのまま入って行ってしまった。それに、何の意味があるのか。その先は階段しか無いというのに。
だが、人影が防火扉の先から、出てくることは無かった。まるで、初めから人などいなかったと、言わんばかりに。
「ここで、何をしている。臼杵祐」
「わっ!? す、すみません。忘れ物をして、それで……」
話しかけてきた少女は、鋭い目つきで祐を睨めつけていた。彼女の特徴として、銀髪の髪を腰まで伸ばし、トパーズに似た色の瞳をしている。バストはみらいより、やや控えめなぐらいか。なにより、左腕に付けられた、生徒会と書かれた腕章がよく目立つ。
庭雲学園、生徒会長──
彼女が雑談部に、目安箱という雑務を押し付けた張本人。
「なら、早く取りに行って帰るんだな。時期に点検が、始まる」
「分かりました。あの、庭津女会長は……。いえ、何でもありません……」
何かを言いかけた祐だが、そのまま階段を登って行った。さも、誰かに誘導されるように。先ほど見た光景や、リアラから聞いた
「…………」
理玖は祐が階段を登り切った所を、確認すると先程の人影のように、防火扉の前に立った。
ケースハンドルを回し、防火扉を開ける。開けた先には確かに、階段があった。しかし、コンクリートで作られた物ではなく、石段だったが。
周りも、先程までいた学園内と違って、トンネルのような空間だ。
地下へと続く石段を、スマートフォンの光を頼りに降りていく。
苔むした石壁には、黒い花が何輪も咲いていた。この世に存在する、あらゆる種類とも合致しない、不思議な形をした花。
だが、そんな花などには見飽きたのか、一瞥もくれずに進んでいく。
やがて、石段は終わり、目の前には、取っ手が無い鉄の扉が。
理玖が扉に触れると、ギギギと悲鳴にも似た扉の軋みが響く。どんな、原理なのかは分からないが、理玖の手が触れただけで、鉄の扉が開いたのだ。
扉の中は、円形な部屋になっており、中心の空洞には巨大な悪魔──魔神が、光の鎖に繋がれている。
その魔神を、上から見下ろしている男に、理玖は近づく。
「
「おや、そうでしたか。でも、それに気づいたという事は、処理はしたのでしょう?」
「認識を操作しただけだ。貴様のせいで余計な力を使った」
「余計な力ね、こないだの
夏帆の兄、湊は、理玖がみらいを逃さないように結界を貼った事と、リアラを助ける為に使った、悪魔を滅した力のことを言っているのだろう。
「己ノ瀬未来は、ここの生徒だ。巣喰われた彼女を、他の人間の目に、触れさせる訳にはいかない。リアラを助けたのは、純粋に助けたかったからだが、悪いか?」
「いいえ。理玖さんがシスコンだったことには、驚きですが」
「馬鹿にしているのか?」
「全く。私にも妹が二人いますが、全然好きになれないのでね」
「そうか。やはり貴様とは、気が合いそうにないな」
「同感です。私達は利害が一致してるに、過ぎないのですから」
湊はこの部屋にある、小型の機械に目を向ける。数字表示機が取り付けられており、解析率24%と可視化されていた。
「でも、理玖さんの妹さんには助けられましたね。彼女のおかげで、この
「…………」
「そんな怖い顔で、睨まないでください。理玖さんの妹さんが、ここに降りてきた時に
「それ以上、リアラのことを話してみろ、今すぐに狩るぞ」
理玖は天使が使う天威と呼ばれる、殺意を湊に向かって放った。だが、湊がその程度で怯むことは無い。何故なら。
「随分と弱くなりましたね。羽根、どのぐらい黒くなりました?」
バサッと、右二枚、左二枚。合計四枚の翼が理玖の背中から現れた。リアラと違い、立派な羽だ。だけど、右全ての羽根が黒く染まっており、左側も上側の翼が、半分近く染まっていた。
「このぐらいだな。だからどうした? 天使の力が弱まっても、貴様を狩るのに何も問題はない」
「冗談です。実は、内心ビビっていましてね。許してもらえませんか?」
手を上げ、薄っぺらい降伏宣言をする湊に、苛立ちを募らせながらも、理玖は翼をしまう。
「さて、ここからですよ。お互いの目的が叶うといいですね」
中央に繋がれている、魔神を見下ろしながら、不敵に笑いを上げるのであった。
雑談部に天使が入部した! シノマ @Mokubosi
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