『俺達のグレートなキャンプ144 キャンプ場を襲うワイバーンをかぶき揚げで撃ち落とせ(?)』
海山純平
第144話 キャンプ場を襲うワイバーンをかぶき揚げで撃ち落とせ(?)
俺達のグレートなキャンプ144 キャンプ場を襲うワイバーンをかぶき揚げで撃ち落とせ
「よーし!今回のキャンプ場は最高だぜ!」
石川が両手を空に掲げ、爽やかな青空に向かって叫ぶ。その横顔は、まるで冒険の始まりを告げる勇者のように輝いていた。頬に当たる初夏の風が心地よく、彼の黒髪を軽やかに揺らす。背後には緑豊かな山々が連なり、清流のせせらぎが心地よく耳に届く。まさに絶好のキャンプ日和だ。
「今回は普通のキャンプにしましょうよ、普通の」
富山がクーラーボックスを地面に降ろしながら、懇願するような表情で石川を見上げる。その瞳には、長年の付き合いで培われた深い疲労感が宿っていた。額には既に汗が滲み、Tシャツの背中も少し湿っている。
「普通?普通のキャンプなんて、コンビニのおにぎりみたいなもんだろ!俺たちには、もっとグレートな冒険が必要なんだよ!」
石川が拳を握りしめ、情熱的に語る。その目は本気で、まるで何か使命を背負っているかのようだった。
「石川さん、僕は石川さんのキャンプ、いつも楽しみにしてるんですよ!今回は何するんですか!?」
千葉が屈託のない笑顔で駆け寄ってくる。両手にはテントの袋と寝袋を抱えており、その足取りは軽快そのものだ。彼の目はキラキラと輝き、まるで遠足前の子供のような純粋な期待感に満ちていた。
「千葉...あなたね...」
富山が疲れた表情で千葉を見る。
「いや、今回は本当に普通のキャンプだぞ。テント張って、焚き火して、バーベキューして、星を見る。それだけだ」
石川が珍しく真面目な顔で言った。
「...本当に?」
富山が疑わしそうに目を細める。
「本当だって!俺だって、たまには普通のことしたいんだよ!」
「そうですか...じゃあ、今回はゆっくりできそうですね」
富山がホッと息をつく。その肩から力が抜けていくのが分かった。
三人はテントの設営を始めた。石川が慣れた手つきでポールを組み立て、千葉がペグを打ち込み、富山がフライシートを被せていく。三人の連携は、長年のキャンプ経験で培われた見事なチームワークだった。
「よし!完璧だ!」
石川がテントを見て満足そうに頷く。
「それじゃあ、バーベキューの準備しましょうか」
富山が炭を取り出しながら言う。
「おう!今日は富山が買ってきた牛肉があるんだろ?楽しみだな!」
「ええ、奮発したのよ。たまには美味しいお肉でも食べようと思って」
富山が嬉しそうに笑う。その表情は珍しく穏やかで、リラックスしているのが伺えた。
キャンプ場には他にも数組のキャンパーがいた。家族連れ、カップル、そして少し離れたところには白衣を着た初老の男性が一人、奇妙な機械のようなものをテントの横に設置していた。その機械は金属製で、複雑な配管とモーターのようなものが組み合わさっており、まるで何かの実験装置のようだった。
「あの人、何してるんでしょうね」
千葉が不思議そうにそちらを見る。
「さあ...でも、人は人よ。私たちは私たちのキャンプを楽しみましょう」
富山が炭に火をつけ始める。煙が立ち上り、徐々に赤い火が燃え始めた。
「よーし、肉焼くぞー!」
石川が嬉しそうに網の上に肉を並べる。ジュウジュウと音を立てて、肉から脂が滴り落ちる。その香ばしい匂いがキャンプ場に広がった。
「うわー、いい匂い!早く食べたいですね!」
千葉が目を輝かせる。
「もうちょっと待って。しっかり焼かないと」
富山がトングで肉をひっくり返す。その手つきは丁寧で、料理に対する真剣さが伺えた。
平和だった。本当に、何の変哲もない、普通のキャンプだった。
石川が缶ビールを開け、「かんぱーい!」と叫ぶ。千葉と富山も缶を掲げ、三人の缶がカチンと音を立てる。
「今日は本当に普通で良かったわ」
富山がしみじみと呟く。
「だろ?たまにはこういうのもいいもんだ」
石川が満足そうに肉を頬張る。
そのときだった。
突然、空が暗くなった。
「ん?雲が出てきたのか?」
石川が空を見上げる。
しかし、そこにあったのは雲ではなかった。
巨大な翼を持つ、トカゲのような生物が、空を覆い尽くすように群れをなして飛んでいたのだ。その数、少なくとも数十体。いや、百体以上はいるかもしれない。鱗は黒光りし、鋭い爪が陽光を反射してギラギラと輝いている。口からは時折、炎のような何かを吐き出していた。
「...は?」
富山が固まる。手に持っていたトングが、カランと地面に落ちた。
「ワイバーン...だ...」
石川が呆然と呟く。
「え、いや、なんで!?なんでワイバーン!?だって、ワイバーンって、ファンタジーの生き物でしょ!?いないでしょ、現実に!?」
千葉が混乱して叫ぶ。その声は裏返り、両手を頭に当てて右往左往し始めた。
キャンプ場中が騒然となった。家族連れは悲鳴を上げ、カップルは抱き合い、誰もが信じられないという表情で空を見上げている。
「ギャアアアア!」
ワイバーンの一体が、耳をつんざくような咆哮を上げた。その声は地鳴りのように響き、空気が震えた。
「に、逃げるぞ!」
石川が叫ぶ。
しかし、ワイバーンたちは既に降下を始めていた。その巨体が影を落とし、風圧で木々が大きく揺れる。
「待って!落ち着いて!」
突然、声が響いた。
振り返ると、先ほどの白衣の男性が、奇妙な機械を肩に担いでこちらに走ってきていた。その機械は、よく見ると銃のような形をしている。ただし、通常の銃とは比べ物にならないほど大きく、複雑な構造をしていた。モーターのような音が「ウィーン」と鳴り響いている。
「私は国立工科大学の教授、佐藤だ!」
白衣の男性が息を切らしながら叫ぶ。その額には大粒の汗が浮かび、眼鏡がズレかけていた。
「教授!?今、そんなこと言ってる場合じゃ...」
「これを使え!」
佐藤教授が、その巨大な機械を石川に差し出した。機械は予想以上に重そうで、金属の冷たい光沢を放っている。
「これは...何ですか?」
「かぶき揚げマシンガンだ!」
「は?」
石川、千葉、富山が同時に声を上げた。
「かぶき揚げを秒間二百発のスピードで発射できる!私が十年かけて開発した最高傑作だ!」
佐藤教授が誇らしげに胸を張る。
「いや、なんでそんなもの作ったんですか!」
富山が叫ぶ。
「ロマンだ!男のロマンだろう!」
「全然ロマンじゃないです!」
千葉がツッコむ。
「説明している時間はない!君たちの車に大量のかぶき揚げがあるのは見た!あれを弾薬に使え!」
「なんで知ってるんですか!?」
石川が驚く。
「観察力だ!優秀な研究者の基本だ!さあ、君なら使いこなせそうだ!」
佐藤教授が石川の目をじっと見つめる。その眼差しは真剣そのものだった。
「俺が...?」
「ああ!君の目を見れば分かる!グレートな何かを求めている目だ!」
「...分かりました」
石川が覚悟を決めたような表情で、かぶき揚げマシンガンを受け取った。その重量感がズシリと腕に伝わる。少なくとも十キロはありそうだ。
「千葉!富山!車からかぶき揚げを全部持ってこい!」
「え、ちょっと待って、本気なの!?」
富山が叫ぶ。
「本気も本気だ!キャンプ場を守るんだ!」
石川の目が燃えている。
「分かりました!」
千葉が即座に走り出す。富山は「はぁ!?」と叫びながらも、渋々後を追った。
ワイバーンの群れが更に接近してくる。その咆哮が連続して響き、地面が震えるようだった。
「使い方を教えよう!ここにかぶき揚げを投入する!そしてこのトリガーを引けば、自動的に発射される!照準はこのスコープで!」
佐藤教授が素早く説明する。その指の動きは正確で、何度もシミュレーションしてきたことが伺えた。
「分かりました!」
千葉と富山が段ボール箱を抱えて戻ってきた。
「早く!投入して!」
石川が叫ぶ。
千葉が慌ててかぶき揚げの袋を開け、マシンガンの投入口に流し込む。カラカラと音を立てて、かぶき揚げが機械の中に吸い込まれていった。
「よし!準備完了だ!」
佐藤教授が叫ぶ。
石川がマシンガンを構える。その重量に腕が震えたが、歯を食いしばって耐えた。額から汗が流れ落ち、シャツに染み込んでいく。心臓が激しく鼓動し、全身に緊張が走る。
「いくぞ...!」
スコープを覗き込む。視界の中に、巨大なワイバーンの姿が飛び込んできた。黒い鱗、鋭い牙、燃えるような赤い目。全てが現実離れしているのに、確かにそこに存在している。
トリガーに指をかける。金属の冷たさが指先に伝わった。
引いた。
「ダダダダダダダダダダダダダ!」
凄まじい連射音が響き渡った。
かぶき揚げが、まるで弾丸のように空中を飛んでいく。醤油の香ばしい匂いが一気に辺りに充満した。
「おおおおお!すごい!本当に撃てる!」
千葉が興奮して叫ぶ。
かぶき揚げの弾幕が、ワイバーンに次々と命中していく。パシパシパシという軽快な音が連続して響いた。
「ギャアア!」
ワイバーンが苦痛の声を上げる。
「効いてる!かぶき揚げが効いてるぞ!」
石川が叫ぶ。汗が顎から滴り落ち、地面に小さな染みを作った。腕がプルプルと震えているが、必死に銃身を安定させる。
「どういう原理なのよ、それ!」
富山が呆れ顔でツッコむ。
「ロマンに原理なんて必要ない!」
佐藤教授が叫ぶ。
「いや必要でしょ!」
富山が叫び返す。
ワイバーンの一体が、かぶき揚げの直撃を受けて体勢を崩した。バランスを失い、ぐるぐると回転しながら落下していく。
「やった!一体撃墜!」
千葉が拳を握る。
しかし、ワイバーンの群れは怯まなかった。むしろ、怒りに満ちた咆哮を上げ、一斉に襲いかかってきた。
「くそ!数が多い!」
石川が歯を食いしばる。トリガーを引き続ける。指が痙攣しそうになるが、離すわけにはいかない。
「ダダダダダダダダダ!」
かぶき揚げが空を埋め尽くす。その光景はシュールを通り越して、もはや悪夢のようだった。巨大なドラゴンと、お菓子の弾幕。現実感が完全に崩壊している。
「弾薬補給!」
千葉が次々とかぶき揚げを投入していく。その手際は素早く、まるで本物の弾薬手のようだった。手が醤油の粉で茶色く染まっている。
「もっと!もっと撃て!」
佐藤教授が叫ぶ。その目は研究者の狂気に満ちていた。
石川の腕が悲鳴を上げている。筋肉が焼けるように痛み、肩が外れそうだ。それでも、トリガーから指を離さない。汗が目に入り、視界が滲む。それでも、スコープを覗き続ける。
「ギャアアアア!」
ワイバーンが次々と叫び声を上げる。かぶき揚げの攻撃に翻弄され、空中で体勢を崩していく。
「いける!押してるぞ!」
千葉が興奮して叫ぶ。
しかし、その時だった。
ワイバーンの一体が、口から炎を吐いた。
「うわああああ!」
炎がテントの一つを直撃し、燃え上がる。
「やばい!」
石川が焦る。
「落ち着け!一体ずつ確実に狙え!」
佐藤教授が冷静に指示を出す。
石川が深呼吸をする。心臓の鼓動を落ち着かせ、手の震えを抑える。スコープの中で、ワイバーンの動きを追う。
その目が、炎を吐いたワイバーンを捉えた。
「お前だ...」
トリガーを引く。
集中砲火。
秒間二百発のかぶき揚げが、一点に集中する。
「ギャアアアア!」
ワイバーンが悲鳴を上げ、そのまま墜落していった。地面に激突し、土煙が上がる。
「やった!」
千葉が歓声を上げる。
その様子を見て、他のワイバーンたちが怯み始めた。群れが乱れ、隊列が崩れていく。
「今だ!畳み掛けろ!」
佐藤教授が叫ぶ。
石川が銃身を振り回す。左から右へ、下から上へ。かぶき揚げの弾幕が、ワイバーンたちを次々と襲う。
「ダダダダダダダダダダダダダダダ!」
連射音が途切れない。石川の顔は汗でびしょ濡れになり、髪の毛が額に張り付いている。シャツは完全に汗で透けており、背中も腰も全てが濡れている。呼吸が荒く、肺が悲鳴を上げている。
それでも、撃ち続ける。
「うおおおおおお!」
石川が雄叫びを上げる。
ワイバーンたちが次々と墜落していく。空が徐々に明るくなっていった。
「あと少し!」
千葉が叫ぶ。
最後の一体が、石川を睨みつけた。その目には、明確な殺意があった。
急降下してくる。
「来る...!」
石川が構える。
ワイバーンとの距離が縮まる。三十メートル、二十メートル、十メートル...
五メートルまで接近したとき、石川がトリガーを引いた。
ゼロ距離射撃。
「ダダダダダダダダダ!」
かぶき揚げが、ワイバーンの顔面に直撃する。
「ギャアアアアアア!」
ワイバーンが叫び、石川の頭上をかすめて墜落していった。その風圧で、石川の体が大きく揺れる。
そして、沈黙。
空は、再び青く澄み渡っていた。
「...終わった...のか?」
石川がマシンガンを下ろす。腕が、もう限界だった。ドサリと地面に膝をつく。
「やった...やりましたよ、石川さん!」
千葉が駆け寄ってくる。
「ああ...やった...」
石川が荒い息を吐く。
「素晴らしい!見事だった!」
佐藤教授が拍手する。
「教授...これ、一体どういう...」
「分からん!ワイバーンが現れた理由も、なぜかぶき揚げが効いたのかも、全く分からん!」
佐藤教授があっけらかんと答える。
「いや、分からんって...」
富山が呆れ顔でツッコむ。
しかし、確かにワイバーンは消えた。キャンプ場には、大量のかぶき揚げが散乱しているだけだった。まるで何かの祭りの後のように。
一時間後。
消防や警察が到着したが、ワイバーンの痕跡は何も残っていなかった。墜落したはずの死体も、焼けたはずのテントも、全てが元通り。まるで何もなかったかのように。
「...夢でも見たんじゃないですかね」
警察官が首を傾げながら帰っていった。
石川たちは、再び焚き火を囲んでいた。
「...で、コーヒー飲もうぜ」
石川が疲れた表情でドリップコーヒーを淹れ始める。お湯を注ぐと、芳醇な香りが広がった。
「勝利のコーヒーですね」
千葉が嬉しそうに言う。
三人がコーヒーをすすった。その味は、いつもより格別に美味しかった。疲れた体に、温かさが染み渡る。
富山がコーヒーカップを置いて、深いため息をついた。
「...なんだったの、今日?」
その目は、終始冷めていた。まるで何か非常に面倒なものを見たときのような、疲労と諦めが混じった表情。
「グレートなキャンプだっただろ?」
石川がニヤリと笑う。
「グレートっていうか...もう訳が分からないわよ。ワイバーンは出るし、かぶき揚げマシンガンは出るし、教授は出るし...」
「でも、楽しかったですよね!」
千葉が屈託なく笑う。
「楽しかったって...あなたたち、本当におかしいわよ」
富山が頭を抱える。
「まあまあ、富山。キャンプってのは冒険だろ?今日ほど冒険したことないぜ」
石川がコーヒーをすすりながら言う。
「冒険の方向性がおかしいのよ...」
富山がため息をつく。
空には、再び夕日が沈み始めていた。オレンジ色に染まった空は美しく、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。
「でもさ、俺たち、キャンプ場を守ったんだよな」
石川がしみじみと呟く。
「まあ...それは、そうだけど...」
富山も認めざるを得なかった。
「次はどんなグレートなキャンプにしましょうか!」
千葉が目を輝かせる。
「次!?もう次の話!?」
富山が叫ぶ。
「当たり前だろ!グレートなキャンパーに休息はないんだよ!」
石川が力強く宣言する。
「...はぁ」
富山が深く、深く、ため息をついた。
焚き火がパチパチと音を立てる。
キャンプ場には、相変わらず大量のかぶき揚げが散らばっていた。それを見て、石川がふと呟いた。
「なあ、このかぶき揚げ...もったいないよな」
「食べるつもり!?落ちてるやつを!?」
富山が驚愕する。
「だって、まだ食べられるだろ」
「絶対やめなさい!」
富山が叫ぶ。
千葉がクスクスと笑い、石川も笑い、最終的には富山も笑っていた。
おかしな一日だった。
でも、確かに忘れられない一日になった。
それが、石川たちのグレートなキャンプだった。
星が瞬き始めた夜空の下、三人のキャンパーたちの笑い声が、静かなキャンプ場に響いていた。
そして、遠くの木陰から、白衣を着た佐藤教授が満足そうに頷いているのを、誰も気づかなかった。
彼の手には、「かぶき揚げマシンガンMk.2」の設計図が握られていた。
<end>
『俺達のグレートなキャンプ144 キャンプ場を襲うワイバーンをかぶき揚げで撃ち落とせ(?)』 海山純平 @umiyama117
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