風邪を引いた日の話。
流音
第1話
日曜日に風邪を引いた。
思えば昨日の残業中に寒気がしたんだった。
38度。
少し喉が痛くて咳が出る。
救急外来に行くレベルでもなければ、かといって外に出て薬やら何やら買ってくるのも億劫だし。
ああ、そうだったな。
小学校の頃もそうだった。
何故か決まって日曜日に風邪を引く。翌日の月曜日にはコロっと治っていて、なんだあ学校かあ、と愚痴愚痴言っていた。
大人になっても同じだなんて、と何だかおかしくなって、ふ、と自然と口元から浅い笑いが零れる。
日曜日に熱が出るってあるあるだよねって、いつだっけ、誰かと話したの。
でも実際にはそうあるあるじゃなくて(と思っていて)、学校のある日に風邪を引いて休める子が羨ましかった。おかげさまで小学校の6年間は皆勤賞だ。
でも、日曜日に風邪を引くメリットがわたしにはあった。
ほかほかと立ち上る湯気。
小さな土鍋で丁寧に作られたたまご粥。
母は中学校の教諭をしていて、日頃から自分の娘よりも学校(仕事)のことを優先するタイプだった。
どちらかと言えば冷めた印象が強い。
でも、わたしが日曜日に風邪を引くと、古典文学を解説してくれたり(母は国語教諭であった)、お米から炊いた手作りのお粥を食べさせてくれたりした。
そのお粥は他のどんな料理よりもおいしくて、熱があって意識は朦朧としているのに、残さずに食べられたのだ。
懐かしいな、
くつくつと土鍋から出る泡と、たまごとお粥のいい塩梅の香り。
30になって、強がりになって、わたしは今、あの頃の母とそっくりだ。
今では少しは丸くなった母に、久しぶりに電話をして、思い切り甘えてみようかな。
日曜日の特権。
風邪を引いた日の話。 流音 @mamehanata
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