第65話 奥手な父のせい

「旦那様も第二子ご懐妊で、安心なさったでしょうね」

 メアリーが新しいコートを着せながら言った。

「え? どういうこと?」

 くるりと回され、帽子を被せられる。

「あら、知りませんでしたか? 旦那様は、婿養子なのですよ」

「ああ……。グレイス家は、お母さんのほうが強いものね。そういうことかあ」

 サジーは嫁入りしてしまう。このままでは、お家断絶の危機だったのだ。

「よく考えたら、下級貴族でオメガの子が生まれるのって、ものすごく大変なのかもしれないね。うん、扱いに困るよね……」

 溜息を吐く。前に母が言っていたとおり、お馬鹿なオメガはアルファにいいように利用されるだけだろう。だから、自分を守るために、勉強しろと言ってくれたのだ。

「でもなあ……。お母さん、サジーにだけ、課題出しすぎだし」

 顔を合わせない代わりに、怒涛の課題攻撃を繰り広げてくる。

「あの、サジーお嬢さん。誤解しないで下さいね? 決して、奥様の嫌がらせではないのですよ?」

 メアリーが眉尻を下げる。こちらも顔をしかめて、メアリーに抱きつく。

「大丈夫。ちゃんと解ってる。親心ってやつでしょ?」

 メアリーは涙を流しながら、何度も頷いていた。

 ソファに座る。間もなく、父が入室してきた。

「サジー、準備はいいかい?」

「はい! あっ、お父さんのリボン、サジーとお揃いだ」

 笑顔の父が、リボンを引っ張って見せる。黒のベルベット。

「サジーのは、白のバテンレースと組み合わせてあるんだね」

「うん、そうなの。お父さんのは宝石がついてる。綺麗だね」

 隣に腰かけた父が、頭をなでてくる。

「お母さんと、サジーの瞳の色だよ。瑠璃色だね」

「瑠璃色……。あれ?」

 今、何かを思い出しかけた。

「どうかなさいましたか?」

 ソファの背に手をつき、メアリーが尋ねてくる。

「ううん、何でもないの」

 慌てて首を振る。

「あっ、そうだ。下の子が女の子なら、エミール殿下のお嫁さんにしたらどうかな!? それか、アルファの男の子だったら!!」

「ううん……。そうなると、また子作り頑張らないとなあ……」

 父の疲れた顔。

「あっ……」

 うちのお父さんって、そういうことが苦手なのかもしれない。

「そうだよねえ。好きで愛し合うのと、子作り目的だとまた違うよね……」

 押し黙る父。

 前世でも、弟が欲しいとお母さんに言い続けてたんだよな。今思うと悪いことをした。その結果、夏見なつみが生まれたのだけど。

「えっ、お父さんはお母さんのこと好きだよ?」

 非常に焦っている。

「うん、別にそこは疑ってないよ? ただ、夜の予定が大変だから、お昼にしん君のお父さんと会って息抜きしてるんだよね」

 大丈夫。解っていますよという笑顔。

「メアリー! サジーが誤解しているよ! 公爵とは、ただのお友達なのに……」

 とうとうメアリーに泣きつく。

「ええと……。サジーお嬢さんは正確に理解なさっていると思いますが」

 困った顔で笑う。それを見て、更に顔をしかめる父。駄目だ、収拾がつかない。

「もう! そんなに泣くくらいなら、お友達に相談したらいいでしょ!」

 ソファから立ち上がり、父と向かい合う。

「どうやって抱いたら、私の妻を喜ばせられますかって!!」

 部屋に声が響く。

「あの……。サジーお嬢さん?」

「な、何……」

 振り向くと、そこにはジルベール公爵親子。

「ちっ、違うんです! これは! ああっ、ああ~!!」

 全部、奥手な父のせい。




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神在月に、神様と契約する 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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