第13話

十三

「……分からない」

実の父親である「X」の問いかけに、谷川一誠は正直に答える。

 ―それは当然だ、私はそう思ってしまった。と言うか私自身、腹黒いし良い所なんて何もない人間だと思っている。谷川の口から良い所が出てこないのをとやかく言える人間ではない。

「羽島さんは、コミュニケーション能力が高いと思わないか?」

「……分からない」

そうだろうな。まあ私はコミュ力はある方だけど、それは「長所」と言えるのだろうか?

「一誠、特に私が感じたことだが、羽島愛瑠さんには『感情をコントロールする力』が高くそなわっているように思える」

「感情を……、コントロールする?」

谷川の声はどんどん小さく、か細くなっていく。今谷川の頭の中は処理できない問題でパンクしているのだろう。

 ただ、「感情をコントロールする」のは当然じゃない?と私は心の中で思ってしまった。やっぱりひねくれているのだろう。

「例えば……、一誠、お前は羽島さんと仲が良いか?」

「それはない」

「そうだろう。しかしそれは羽島さんから見ても同じだ。ではなぜコミュニケーションが成り立つか?それは羽島愛瑠さんが、『嫌な相手とでも冷静に話ができる』からだ」

 ―今までにない切り口だ、と私は不覚にも思ってしまった。父親の方は、人を見る目がある?のだろうか。

「一誠、お前が数学が好きで、考えるのが得意なことは私がよく知っている。ただ今回の教訓として、数学を知らない相手にも丁寧に伝えることをしなさい。もちろんお前には羽島さんのようなコミュニケーション能力はない。ただ、数学ばかりにこだわるのは良くないと、お父さんは思っているよ」

「……分かったよ。気をつける」

 嫌な相手とも、冷静に話ができる、か―。それを長所と言われると、悪い気はしない。

―とそれより!

「あの、お互いの良い所が分かってそれを認め合ったと言うことでよろしいですか?」

「もちろんです。一誠もそれで良いな?」

「……異存はない」

「では羽島愛瑠さん、ここからの退出を認めます。長い間引き留めてしまい、申し訳ありませんでした」

「いえいえ大丈夫です!」

 こうして私は外に出ることになった。


※ ※ ※ ※

 今回のこと、最終的に私は嫌な感じがしなかった。私にはコミュ力がある。そう、どんな相手とでも同じように会話ができる能力。嫌な相手から自分自身の感情を隠す能力。そう言った能力に自分自身が気づけて、収穫があったと言えなくもない。

 そうそれは、他人から言われないと気づけない能力。私にとって「ダイヤモンド」のようにキラキラした存在。

 だから私は今日も、コミュ力を発揮し続ける。

「お疲れ~!あっ、全然待ってないよ!」       

 

(終)

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ダイヤモンド 水谷一志 @baker_km

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