私立夕凪学園オカルト研究部

二刻

File1:呪ワレたゲーム ①

 こんなはずじゃ無かった...。

 目の前にある異常な光景に私は深く後悔している。

 くだらない噂話だろうと軽視していたせいだ。まさか、あんな眉唾に「火のない所に煙は立たぬ」という因果があったなんて。その結果がこれだ。

 あの時、ちゃんと私が止めていれば...。


2024年07月12日金曜日 17:15

「うわぁぁ!!」

 溜まりに溜まった資料を片付けようと両手に持った矢先、突然の悲鳴に耳を劈ざかれ、それに驚いて胸元に抱えた資料を床にぶちまけてしまった。

「ちょっと!急に大声出さないでよ資料が無茶苦茶になったじゃん」

 私は床に散らばった資料を拾いながら、呆れたようにため息をつきながら文句を投げつけた。

「く、くも!くもくも!」

 どうやら突然目の前にぶら下がってきた蜘蛛に酷く驚いていたようだ。全く、いつもの事だけど朱里あかり大げさだな。

れいちゃん!そっち!そっちいった!」

 悲鳴にも近い報告とほぼ同時に何かが衝突した様な鈍い音が響いた。反射的にその音の鳴った方に目を向けると、部員の玲が手に持っていた本でその蜘蛛を叩き潰していた。

 取り乱して咄嗟に潰してしまったようだけど、玲は普段は冷静沈着なだけに意外だな。双子の妹の朱里はともかく、玲とはこのオカルト研究部からの仲だし、知らない一面もあるのは当たり前か。

 まあそんな事言っても騒がしいのはいつもの事だ、私はそんな騒動に脇目も触れず以前に朱里が話していた事を深堀してみようと思った。

「そういえば朱里さ、前に調べるって言ってたプレイすると幽霊が現れるゲームだっけ?玲も居る事だし進捗教えてよ」

 以前話を聞いたときはそう言った噂を見たと言う程度だったけど、それから情報収集をしてるだろうと見込んで話を振ってみた。

「幽霊が現れるゲーム?本当にそんなのあるのかしら、よくある目線を感じとか、モニターにポスターのシルエットが映ったのを勘違いしたとか、そういった類なんじゃない?」

 先程の騒動で汚してしまった本を拭きながら、すかさず玲がつっこんできた。たしかに玲の言う通りだ、こういった類の話は大体は勘違いが大半だと私も思う。

 しかし朱里は余程自信があるのだろうか、玲の懐疑的な発言を押し退けぐいっと机にのりだし、自信満々にその噂を語り始めた。

「そのゲームは掲示板サイトにゲームのダウンロードサイトのリンクと呪われたゲームという内容が書き込まれたんだけど、プレイした人は何も起きない、嘘だと疑いのコメントがついていたの、でもある一人が本当に幽霊がでたと言う報告があったんだよね」

 よくある話だ、しかし語る朱里の様子は相当自信があるようで、留まることを知らず語り続ける。

「それだけなら良くある事なんだけど、それまで何も起こらなかった人たちも幽霊が現れたと言い出した人の方法でプレイしたら、本当に怪奇現象が起きたりしたんだよ!」

 それが本当の事ならすごい事だ、朱里の熱量に私はすこし押され気味になっているのか、少しは興味を持ち始めてしまっている。

「それって自作自演だったりしないかな?そんなに都合よく怪奇現象が起きたりするものなのかしら」

 相変わらずだ、私はまだ中立派だが、完全に幽霊などは信じていない玲は、すかさず疑問をぶつけている。

「でもさ、ちょっと興味わかない?ゲームをするだけで幽霊が現れたり、怪奇現象が起きるんでしょ?これが本当なら玲も私もそういうの信じれるようになるんじゃない?」

 不謹慎な話だがこんな手軽に本物の幽霊と遭遇できると言うのなら一度は試してみたい、本当に幽霊と言うものがいるのなら見てみたい、ただの興味本位だけど、朱里に賛同して話を進めてみよう。

「確かに、そうかもしれないわね...朱里さん、その話詳しく聞いてみたいわ」

 玲も少し興味を持ったようだ、この話、深掘りしても良いのかもしれない。それに、この部活が出来てからこれといって大した活動は無かったが、噂を検証するという点では今回の事は良い話かも。その幽霊が現れる方法という話を詳しく聞いてみよう。

「そのゲームがねちょっと変わっててさ、普通ゲームのタイトルって〇〇クエストとかそう言う感じじゃない?でもそのゲームは人の名前がタイトルになっているんだって」

 朱里は気分が高揚しているのか、玲の疑問に脇目も降らず次々と話を進めている。

「それでそのゲームをプレイした一人が、主人公の名前をそのゲームのタイトルと同じ名前でプレイしたら怪奇現象が起きたって事らしいの」

 どうやら朱里の説明だとゲームのタイトルと同じ名前にすれば怪奇現象に会うと言う事らしい、しかし何故それがトリガーとなっているのだろうか。すこし疑問には思うけど、今は考えたところで今は何も分かりはしない。

「ねえ朱里さん、その書き込みの掲示板って今すぐに見れるかしら?」

 どうやら玲も興味を示してるようだ、それもそうか、もしかしたら今回は本当に何か有るかもしれない、私も一抹の不安もあるが期待をしているのは確かだ。

「もちろん!みんなで見やすいようにタブレットで見よっか!」

 そう言うと朱里はそそくさとカバンからタブレットを取り出し操作を始めた。既にブックマークしていたようで、あっと言う間にそのページは開かれていた。

「これだよ、この書き込みの辺りからこのゲームの話題になってるよ」

 私と玲はそのゲームに対する書き込みをひとつずつ確認していく。あらかた朱里が話していた通りの内容が書き込まれているが少し気になることがあった、それは恐らく玲も感じていることだろう。

「ねえ朱里、何かこのゲームで怪奇現象に会った人達さ、みんな書き込みやめてる感じしない?」

 なんだろう、幽霊がでただの奇妙なことが起こった等の書き込みはあるが、それ以降の書き込みがぴたりと止まっている。他の人たちは結局本当に幽霊はでるのか等、疑問は投げかけているようだが自分達でプレイしてみようと言う気は無いみたいだ。

「本当だ、みんな呪われちゃったとか?」

 朱里がとんでもない事を言いだした。いや、でももしそれが本当ならこのゲームは本物と言う事になる。

「そうねぇ、本当かどうか確かめるためにプレイしてみるしか無いかしら?」

 玲もだいぶ乗り気になっているようだ、しかし本当にこのゲームをプレイして良いものだろうか。

「確かに気にはなるけど、もし本当にゲームのせいで何かあったのだったら、すこし危険な気もする...」

 私自身も途中から朱里に賛同していたものの、何か嫌な予感を感じる。

「あら、書き込みの内容を全部鵜呑みにするなんて、夕月ゆづきさんらしくないわね」

 確かに言われてみればそうだ、所詮ネットの書き込みにそこまで警戒する必要はないのかもしれない。珍しく玲も興味を持った事だし、半ば無理矢理に自分を納得させ話を進めることにしよう。

「それもそうだよね、でもそのゲームって何でやるの?私はゲーム機持ってないけど」

 普段ゲームとかしない私はゲーム機の類いは持っていない、朱里も持っているようには思えないけど、玲はどうなんだろうか。

「大丈夫だよ、これ個人製作のゲームみたいだからPCでできると思う!私の部屋でやってみようよ!」

 ゲームがゲーム機以外で出来ることにも驚いたが、それ以上に朱里がPCを持っていることにビックリした。いつの間に買っていたのだろう。

「え、あんたいつの間にPCなんて持ってたの?」

 私が疑問を呈すると朱里は得意気な表情を浮かべた。

「貯めてたお小遣いやお年玉で最近買ったんだ、こういう活動するのに必要かなって思ってね!」

 たしか一ヶ月くらい前に、珍しく大きな荷物が届いてたと思ったけど、まさかあれがそうだったのか。

 しかしその熱意を他にも向けてほしいとは思うけど、朱里に於いてそれは贅沢というものだろう。しかし朱里がPCを所持してると言うなら話は早い、検証は朱里の部屋でやることにしよう。

「じゃあ明日朱里の部屋で検証してみるのはどう?丁度休みだしさ、今日はもう良い時間だし続きは明日にしない?」

 私の提案に二人も賛同し、今日の活動はお開きにすることにした。

 帰ろうと思った矢先ある男の顔が思い浮かんだ、いつもタバコ臭くにやにやと薄ら笑いを浮かべている胡散臭い人物。殆どこの部に顔も出さない顧問の藤堂だ、仮にも校外での活動だ、何かあった時のために顧問には活動内容を報告しておかないと。

 私はポケットからスマホを取り出し藤堂に電話を掛ける、すると意外にも、ものの数コールで通話がつながった。

「なんだ山陰か、どうした?」

 なんだとはなんだ、いらっとしたが言い返したことろでどうせ意味のない事が分かっている、そんな事よりさっさと要点だけ伝えて帰ろう。

 幽霊が出ると言われるゲームの事、そしてそれを明日自宅で検証してみる事、それを伝えた。すると受話器から「うーん」と何か考えてるような声が聞こえ、数秒の静寂が訪れ、受話器から再度声が流れてきた。

 「まあいいか、気をつけろよ藪から蛇がでる事もあるからな」

 まあいいかと来ましたか、相変わらず適当な人間だ、何か考えている節もあったけど多分たいして何も無いだろう。「とりあえず伝えておきましたから」私はそう告げると通話を終わらせ帰路についた。 


2024年7月13日土曜日 18:00

 インターホンが鳴り響く、それと同時に玄関に向かう朱里の足跡が聞こえた。おそらく訪問者は玲だろう、少し遅れて私も玄関に向かうと、そこには大袈裟な荷物を抱えた玲が立っていた。

「ちょっと玲、どうしたのその荷物」

 玲はニコっと微笑むと、鞄を下ろし中身が見えるように広げだした。

「これが定点カメラでこれがモーションセンサー、あとは一応電磁波とかの測定器も持って来たわよ」

 まるで子供が親に自慢をするように荷物の説明を始めた、用途の分からない物ばかりで頭が混乱する。

「ほら、怪奇現象が本当に起きた時に映像として残せるようにね、あとはセンサーとかで感知が出来るかもって思って」

 すごい、まさかこんな本格的な事までするなんて思ってもいなかった。朱里もそうだが私が思っている以上に本気なようだ。

「すごーい!早速私の部屋に設置しよ!」

 朱里はノリノリで自分の部屋に荷物を運んでいく、私は邪魔しなように設置が終わったら呼んで欲しいと伝え、お茶の準備をする。数十分たった頃、朱里が私を呼びに来た。

 設置された機材のせいで、私たち三人がくつろげる環境じゃなく、一旦私の部屋で休憩がてら今回の話をすることにした。

「とりあえずゲームのダウンロードする所から、録画を開始したいわね」

 玲がスケジュールの主導を握って色々と決めていく、まるでその道のプロのようだ。

「...と、大体こんな感じでいかがかしら?」

 私と朱里の二人は玲の提案に頷く事しかできない、それだけ玲の考えたスケジュールがちゃんと考えられていたからだ。

「えーっとざっくり言うと、朱里が一人でゲームをして、私たちはこの部屋で待機しモニタリングって感じ?」

 私は自分の立ち回りの確認をする。カメラから送信された映像を確認し、異常等があった時は私たちが朱里の部屋に突入すると言う流れのようだ。

「ええ、そんな感じね、朱里さん、何かあったらすぐに私たちを呼んでね」

 そうだ、もし本当に何かが起こったら危険な位置にいるのは朱里だ、もしもの事がないように常に神経を研ぎ澄ましておかないと。

「それと書き込みで幽霊が出たって、報告のあった時間帯で始めたいのだけれど、ご両親の迷惑にならないかしら?」

 玲がうちの親の心配をしているかその必要は無い、どうせ父はいつも遠方に行ってるので帰ってくるのは月に数回で、母は私たちが幼い頃に他界している、後は平日に週何回かは、祖母が様子を見に来てくれるくらいだ。したがって基本的にこの家には私たち姉妹だけなのだ。

「あーその辺は大丈夫、どうせ殆ど私達しか居ないからさ」

 その一言で察した玲は、それなら良かったと微笑み、それ以上この事に触れることは無かった。その後は件の時間まで雑談等で他愛の無い時間を過ごした。

 時計の針が23時を指した時朱里が口を開く。

「そろそろ時間だね、準備しよっか!」

 私たちは掲示板を開きその呪われたゲームのリンクをクリックした、すると直ぐにゲームのダウロードが始まった。

「あれ、てっきりダウンロードサイトに飛ぶんだと思ってたんだけど、ゲームの直リンクなのね」

 どうやら書き込みのリンクはゲームのホームページではなく、ゲーム自体を直接ダウンロードする物みたいで、その事に玲は少し疑問を浮かべているみたいだ。

「そんな変なことなの?」

 そんな可笑しな事なんだろうか、こういう事に詳しくない私は玲に聞いてみた。すると玲曰く掲示板でゲーム等のリンクを張り付ける場合の殆どは、ホームページのリンクが殆どで、直接ダウンロードできる直リンクと言うものはあまり無いらしい。

 話を聞いている内にダウンロードが終わったようだ、PC内に保存されたファイル名を見て私達は口を開いた。

「タブチカナエ...?」

 そこには到底ゲームのファイル名とは思えないものがあった、これがこのゲームのタイトルなのだろうか。

「とりあずゲーム起動してみるね」

 朱里はそう言うとゲームを起動し始めた。


2024年07月13日土曜日 23:20

 件のゲームが起動しモニターにタイトル画面が表示される、それはとても簡易的な作りで、PLAYとEXIT以外は何も表示されていなく、BGMすら流れていない。未完成のゲームなのだろうか、朱里はそのままPLAYを選択し次の画面へと進んだ。

 数秒の読む込みを挟み、次の画面に映る、そこには「ようこそ!あなたのプレイヤーネームを入力してください」の一言だけ、それに何か疑問を感じたようで、玲が口を開いた。

「プレイヤーネーム?主人公の名前とかじゃないんだ、まるでネットゲームみたいね」

 正直私には何が違うのかはわからない、どっちも同じなんじゃないかと思ったが、わざわざそこに食いつく必要もない、それよりもこのプレイヤーネームに、ゲームの名前を入れろって事なのだろうか。だがしかし、ゲームを起動してもゲームタイトルみたいな物は、何一つ表示されていなかった。

考えを巡らせていると、何か閃いたように朱里が声をあげた。

「もしかしてタブチカナエじゃない?ほら、ファイル名の!」

 なるほど、制作者の名前かと思ってたがこのファイル名が、怪異現象が起こる所謂トリガーのゲームタイトルと言うことなのか。しかしこのタブチカナエとは一体何者なのだろう。

「とりあえず入力してみるしかないわね、朱里さんお願いできるかしら?」

 玲の言葉に朱里は「うん」とうなずき、タブチカナエと入力し先に操作を続ける、すると今度はゲームらしい画面が煌々と写し出された。おそらくこれでゲームをプレイしていけばいいのだろう。

「じゃあ朱里さんにはこのままプレイを続けもらって、私たちは夕月さんの部屋でこの部屋をモニタリングしてるから、何か感じたり異変があったら教えてね」

 玲がそう言い残すと私たちは部屋を移動し、固定カメラに映し出された映像で朱里や部屋全体の様子を監視する。

「ねえ、本当に何か起こると思う?」

 モニターの映像を注視しながら玲が口を開いた、それに対して私は「どうだろう」と、どちらともいえない反応をする。普段なら一蹴するところだが、今回は実際に怪奇現象が起こったと報告のある案件だ、本当に何かが起こるかもしれないと不安を持っているのが正直なところだ。

 検証を開始して1時間程経過した、その間画面にノイズが少し入った位で、これを怪奇現象と呼んでいいのか些か疑問ではある。時折周りを気にするような素振りを見せるが、映像は依然として朱里がゲームをプレイしているだけの映像が続いている。

 些細な変化がないかと映像を確認していると、ある違和感に気が付いた。

「ねえ、なんかさ、何分か置きに同じ映像が流れてない?」

 最初は小さな違和感だったが、よく見ると何分か前に見た映像と同じものが明らかに繰り返されてることに気が付いた。画面を凝視する目の動き、キーボードに置かれた指のわずかな震え、全てが寸分違わず同じだ。まるで同じ時間をループしているかのような状況、機材の異常にしてはおかしい、まさかすでに何か起きているのではないか、急ぎ確認する必要がある。

 しかし朱里からは何の報告も無い、その沈黙は安寧か破滅か、何も問題が無い事を祈り、私と玲は急いで朱里の部屋に向かう。

「ねえ朱里、大丈夫?」

 扉の前で声をかけてみるが返事がない、やはり問題が起きてるに違いない。扉を開けようとしてみるが、何かが押し返してくるか、扉が開かない。明らかに何者かが阻んでいる、私たちは次第に焦燥感が募り、乱暴にドアノブを回したり扉を叩いたりする。

「玲!一緒に押すよ!」

 重い抵抗に軋む扉に二人で渾身の力を込めた瞬間、急に抵抗が霧散し、私たちは前のめりに部屋へと雪崩れ込んだ。すると部屋の異常さに背筋に冷たいものが走る。

 部屋の照明は消え、設置してあったカメラは頭を垂れている。肝心の朱里はと言えば、力なく両手はだらんと垂れ下がり、モニターの前に突っ伏している。

「朱里!」

 私は叫ぶように朱里に呼びかけ駆け寄る、体をゆすってみるも完全に意識が無いようでグラグラと力なく左右に揺れるだけだった。

「玲!手伝って!朱里運び出すよ!」

 呆然としていた玲に声をかけると、はっと正気を取り戻し私の元に駆け寄る。二人で朱里の体を抱えるように抱きしめ運び出そうとした瞬間、私たちの後ろから、ギィィ...ギィィ...、と縄の軋む様な音が聞こえてくる。

「ねえ、玲、何この音...」

 玲も同じ音が聞こえてる様で、引き攣った笑顔をみせる。

「夕月さん、多分だけど、後ろ見ない方がいいよね...」

 私も玲と同じことを思った、ギィギィと鳴る音は左右から一定のリズムで聞こえてくる。揺れている、首を吊った何者かが左右に揺れている、想像もしたくないが不意にそんな事を考えてしまう。

 とにかくこの部屋から出ないと、私たちは朱里を抱え部屋の外へと強張った足を無理やり動かす、ほんの数メートルには入り口があるのだが、その数メートルが果てしなく感じてしまう。

「玲あと少しだよ」

 私のその一言に「うん」と呼応すると同時に、私たちは力を込め一気に部屋から脱出し、廊下にでた私は朱里を雑に下ろし、急いで部屋の扉を閉めようと扉に手を伸ばした。

 その瞬間私は部屋にいる何かを目視してしまい、ほんの数秒の間だが扉を閉める手がとまった、そこには見慣れた制服の女性がぶら下がっており、視線を上に向けると一瞬目が合った、その目は黒く歪んでいて、まるで自分の意識が深淵の飲まれるような、曖昧な感覚が全身を伝う。

 一瞬ドアノブを握った手に温もりを感じた、何だと思い目線をやると玲が私の手を握っていて、私の手ごと扉を引き音を立てて扉が閉まる。まるで今までが嘘のように静寂が蘇り、私たちは安堵と共にその場に膝を着いた。

「そうだ、朱里!」

 安堵も束の間に、意識の無い朱里の事を思いだし朱里のもとに寄る。相変わらず声をかけたり揺さぶったりしても、何の反応もない。

「とりあえず、救急車...!」

 完全に意識が無い、容態を見た玲が咄嗟に救急車を手配してくれている。しばらくして夜の帳を書き消す様に、救急車のサイレンが鳴り響いてくる。

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