多くを持つ者にとってはあるのが当たり前で、そのありがたみがあまり感じられず、何となく大切なもの、程度なのかもしれません。
しかし、持たざる者にとっては喉から手が出るほど……例えそのために多くのものを踏みにじり失うことになっても、それを欲してしまうものだったりします。
挙句、最後の時でも固執するほどにまでそれに支配されてしまったり。
この辺り、価値観の違いと言いましょうか、そこへの意識の違いが如実に表れているなと感じました。
「口は禍の元」とは言うものの、このあたりの価値観の差が埋まっていなければ、何が災いの元となるものなのかにすら気付けないことでしょう。
この辺り、実に難儀なものですね。
ところで、ここ数年年末ジャンボを買っても毎回7等の300円しか当たらないんですけど、そろそろ6等の3000円が当たってもいい頃だと思うんですよねぇ……。
それすらも高望みなのでしょうか……。
タイトルの「いってはいけない」――人生、様々なシーンでこのフレーズに立ち会うかもしれません。本作ではこの意味が極めてシンプルかつ強烈なメッセージ性として私たちの柔らかい心にナイフのように鋭く訴えかけてきます。
金の切れ目が縁の切れ目と言いますが、本作は一味違った金銭欲が正常な判断を狂わせ、罪の意識を喰す魔物のように感じるかもしれません。
病的なほどの自己暗示をかけ続ければ、ここまで正当化することができるのだろうか……そう考えるだけで人間のもつ深層心理が何とも恐ろしい。
細部に亘る表現のひとつひとつを丁寧に拾うにつれ、味わい深くなるホラーとリグレット。
人間の業と、誰もが知る箴言の本質を端的に表した素晴らしい掌編です。
慎ましい生活を送る、真面目でけなげな印象の語り手の独白が進むにつれ、アレアレと云う間にその印象が裏返って行き……。
最後に、ドカン、とかましてくれます。
”いってはいけない”
タイトル通りの決して口にしてはいけない言葉を、語り手が堂々と口にするラストは、ある種爽快とも言えます。恐らく、大部分の読者たちが口にせずとも心の何処かで感じていた事を、明け透けに抉り出して見せる語り手の一言。
だからこそ、此処までの衝撃を読む者に与えるのだと思います。
建前だの、誤魔化しだのの一切無い真っ正直なラストの一文に、あなたも存分に打ちのめされて下さい。
正直、此処まで衝撃を受けた作品は久々でした。お勧めです!
カネは命より重い。
誰かが言った言葉でございますが、まさに、それを体現したかのような物語にございました。
主人公は、とある事情により、三億円という大金を所持しております。
それでも堅実に生きるために、木造のアパートに住み、金持ちを悟られないように慎重に生きております。
……堅実というよりも、悪党に見えますな。
しかし
この三億円がどういった経緯で彼女の元にやってきたのかが問題なわけです。
切羽詰まった生活を送る人間にとっての三億円と、
裕福な人間にとっての三億円。
果たして価値は一緒なのか……?
まあ、最後のワンセンテンスにアンサーを返すならこうですかね……。
示談だ!!
見事に、作者の思惑にハマってしまった……
主人公はとにかく「目立たない」ことを第一に考えて過ごしている。「三億円の宝くじ」を換金したものの、それで生活を変えたら怪しまれるのだと。そしてつつましい生活を続けていた。
そんな中、親友だった「カヨ」を思い出す。金持ちの家の生まれで上品だった彼女。そんなカヨから「霊に取り憑かれる」と聞かされていたことを思い出して……
冒頭から、「ふむふむ、なるほど」と思わされるようなリアリティに心を鷲掴みにされます。「たまに聞く話」として、「宝くじなどで金持ちになっても、人に言うべきではない」ということは囁かれる。そんなことをすれば元の生活に戻れず、「宝くじなんかと関わるんじゃなかった」と後悔することになるから、と。
そんな感じの「泥臭さ」みたいなものが最初に想起され、ラストまで一気に読まされました。そして「ああ、やられた」と思わされることに。
この「じめっとした引力」とでも言うべきもの。その感覚が終始着いて回り、見事に思惑にハマってしまうことになりました。
二度読み必至。一度結末を知った後は、冒頭からの「じめっとした感覚」を味わい直したくなります。