母のブレーキ、娘のアクセル

亜香里

母のブレーキ、娘のアクセル

母はいつだって、娘の安全第一。でも――その“安全”がちょっと過剰なのです。


エミ(18)は自動車学校のパンフレットを手に

 「お母さん、車の免許取りたいんやけど!」


母  手に持っていた新聞のチラシをたたみ笑顔で、

 「ええやん!今どき女の子も運転ぐらいできなアカンで!」


エミ (おお〜!めっちゃ賛成してくれるやん!)

  「ありがとう、やったー」


母 「ただし!時速40km以上出したらお母さん、泣くで。」


エミ (ズコーッ!)

  「それ、チャリより遅いわ!」


2年後――  社会人になったエミ(20歳)



エミ 「お母さん、今度バイクの免許取りたい!」


母  手にしていた新聞チラシを落とし 母の表情が険しくなり

   「バイク!?あかんッ!!」



エミ 「え!?なんで!?まだ理由も言ってへんやん!」


母  「嫁入り前の娘がバイクなんか乗ったら体に傷つけるやろ!!」


エミ 「いや、別に転ぶ前提ちゃうけど!?」


母  「バイクは“転ぶための乗り物”や!!」


エミ 「そんなバイクメーカー無いわ!!」



――エミ25歳・帰省の夜


エミ 「お母さん、バイクの免許、まだアカン?」


母  「アカン!」


エミ 「もう社会人やで!?自立してるやん!」

母  「社会人こそダメや!ケガしたら会社に迷惑かかる!」


エミ 「私、在宅勤務やけど!?」

母  「パソコンに伝染ったらどうすんの!」

エミ 「ウイルスちゃうわ!!」


⸻エミ35歳・夏の午後


エミ 「お母さん、バイクの免許、取っていい?」


母   麦茶を飲みながら

   「好きに取りぃ。」


エミ 「……え、今なんて?」

母  「好きに取りぃ。」


エミ 「急に許可!?なんで!?」

母  「もう……結婚ええやろ?」


エミ 「え!? それ諦めた発言やん!!」

母  「バイクが婿や思たらええんちゃう?」


エミ 「いや、バイクと結婚て!排気量何ccの婿やねん!!」



⸻ツーリング当日


エミ バイクを運転しながら

   「どう!?気持ちええやろ!」

母  「ぎゃああああ!!スピード出しすぎぃぃぃ!!」

エミ 「今、時速30やけど!?」

母  「やっぱり危ないぃぃぃ!!」


母、必死にしがみつく。娘、苦笑。


母の過保護は、今日も安全運転中。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母のブレーキ、娘のアクセル 亜香里 @akari310

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ