勇者が死んだ日

アント

第1話

1年前、私の友人が亡くなってしまったらしい。


そんな内容の手紙が何日か前に届いた。


友人の癖になんで1年も知らなかったのだと言われそうではあるが、これは仕方の無いことで、彼は冒険に出かけていてその途中で亡くなり、生き残ったパーティーが戻った後に書いたからだ。


この手紙を見た時、私は三日三晩泣き続けた。


勿論食べ物は喉を通らず、何度も吐いて、吐くものが無くなっても胃液だけは出続けた。


彼は私の数少ない友人であり、同じ学校の同級生で明るく勇敢で勇者と呼ばれるに相応しい人物であった。


根暗で口数も少ない私にすら臆さず、話掛けて来てくれて彼がいる時は他の同級生とも話せたものだった。


今は初対面の人でも世間話くらいは簡単にできるようになった。


それは彼のおかけだろう。


その本人は途中で勇者になるといい学校を退学してしまったが・・・。


とにかく私は尊敬?いや、崇敬していた彼の冒険中のことを知りたくなり、この手紙の送り主である、彼のパーティー仲間であろう人物に手紙を送り、その人物に合うことにした。



─馬車で2日走ったところの街、アルザムの11番ストリートに細い道を行って、小さい集合住宅の2031号室のドアを叩いた。


太陽は真っ赤に染まり、今にも沈んでしまいそうだ。


「・・・・・・・」


いくらか待っても、ドアが開く様子が無い。


今日寄ると言ってしまったのだが、夜も近く出てこないことも仕方ないだろう。


宿屋に戻ってまた明日寄ろうと思い帰ろうとすると、家の中から足音が近づいてドアが開く音がして、ふっと後ろを振り向いた。


顔を出していたのは髪は乱れ、目の下にクマが濃く着いた女で、私は少しだけ驚いてしまった。


手紙の文面から見るにとても丁寧で清楚そうな人だと思ったいたものでそのギャップが私には受け入れがたいものだったのかもしれない。


「どうぞあまり綺麗では無いですが入って下さい」


私は会釈をして家に入っていった。


中は彼女の言う通り物が散らかっていて、本来は綺麗好きなのだろうが心のうちがこう言う状態を作ってしまったようだ。


リビングに案内され、そこにあった椅子に腰掛けてそわそわと待っているとお茶を淹れてきてくれた。


「今日はわざわざ遠いところから来ていただきありがとうございます。・・・あの人の話を聞きたいんですよね」


「はい、彼は私にとって数少ない友人で、明るく勇敢で尊敬する・・・偉人と言っても差し支えありません。私は彼のおかげで変わることが出来たのです。そのため、彼がどのようにして生きていたのかを知りたいのです。・・・ですが無理にとは言いません。もし話したかったら私にお話をしてくれませんか?」


「話をする気が無いのなら家にも入れてませんし、お茶も淹れません。私は説明しなければいけないのです、なんで彼が亡くなってしまったのかを。ですがあなたに一つ言わなければいけないことがあります。・・・彼はあなたの思っているような人では無いですよ」


私の頭の中にその言葉が何度も響いた。


この時私は覚悟を問われている気がした。


「・・・ではお話したいと思います」


夕陽は完全に沈みきり、燭台の灯だけが私達を薄っすらと照らしていた。



─彼は冒険中に亡くなったと言いましたが、魔物に敗れたわけでも、病に伏してしまったわけでもありません。


彼は自分で死を選んだのです。


1年前のある夏の朝、木の下で私がぐっすりと眠っているとパァンと大きな音が響きました。


飛び起きて周りを見渡しても、何も異変はなく、強いて言えば彼が見当たらないというだけのことでした。


だけで済まされることではなかったんですけど、その時の私は彼が用を足しているだけだと思って気にしませんでした。


寝起きなのもあって寝ぼけていたのです。


時間が経っても一向に戻ってくる気配がないので探しに行くと、一つ丘を超えて降りたとこにある川のほとりで倒れていたのです。


血だらけで、彼の近くには以前購入していた拳銃が落ちていました。


治療魔法でなんとか治そうとしたのですが、頭を打ち抜いた時から何分もしていたので治すことは敵いませんでした。


本当にごめんなさい。


私がすぐに音に反応していて探しに行っていればこんな事にはなっていなかったのです。


・・・彼が自分で選んだのだから仕方がないですって?


そう言っていただけると救われた気がします。


彼がその選択をした理由ですか・・・。


私の憶測ですが、これにはとある3つの出来事が関わっていると考えてます。


これ以外にも理由はあると思うのですが直接的な原因が3つと言うわけです。


1つは彼が学校を途中で退学して、冒険者になったことです。


同級生から見ると成績も悪くなく、クラスの中心的な彼がなぜ辞めてしまったのだろうと思ったことでしょう。


これは彼の幼少期の出来事と彼自身の性格が招いた結果でした。


彼は社交的であるが臆病で繊細な父親と内向的で大雑把な母親の間に産まれました。


小さい頃は奥手で卑屈な性格だったそうです。


明るく、大雑把な姉ばかり可愛がられていたものですからそんな性格になってしまうのも仕方ないのかもしれないですね。


そして7歳くらい頃その父と母は離婚したらしいです。


理由は子供らを学校に行かせるかどうかで、父は学校に通わせたいので学費を貯めるために節約をしようと。


一方、母は節約で自分が不便な思いをしたく無いために学校へは通わせず働かせようと。


何て自分勝手な母親なんでしょうか。


そんな訳で二人は離婚、子供らは父親の方についていったそうです。


それでめでたく幸せな生活を・・・とはいきませんでした。


学費を貯めるために父親は朝早くから夜の遅い時間まで働いていました。


しかも、子供達は10歳にも満たないものでご飯を作ったり、洗濯をしたり、世話をしなければいけません。


そうなってくると休む時間も無く、ストレスが溜まります。


何時しか子供達に当たり散らすようになっていました。


そこから逃げるように、たまには母親のところに姉弟で遊びに行くこともあったらしいですが、母親が姉のことをあいつ呼びしているのを聞いて傷ついてしまい、それ以来彼はあまり遊びには行かなかったようです。


暴力的な父親と子供に冷たい母親、両親から可愛がられている姉。


反抗期も相まって、彼は家族との距離感を遠ざけるようになりました。


こんな鬱屈とした感情が学校に入ると同時に爆発したようです。


年齢は12歳、親元から離れての寮生活。


今まで我慢してきたものが無くなったのですからそれは自由奔放になってしまうのも仕方ないでしょう。


家では無口だった彼も同じ歳の気の合う仲間ができ、家にはあまり居たくなく外で遊び回っていたため運動神経も申し分ない。


彼にとって学校は天国でした。


しかし学校以外ではとても静かに一人で過ごしていたらしいです。


やはり、内向的な性格だったので友人とコミュニケーションを取るのも多少はストレスだったのですかね。


私達と冒険している時は、結構静かな人でした。


3年後、彼は15歳ですね。


この歳では、お酒もギャンブルも合法になります。


もちろん、周りがやっているのを見てやっていたそうです。


彼が最も嫌うことは仲間はずれにされることですから。


しかしそれが学校を退学してしまう理由になるのです。


父親は大のギャンブル嫌いでした。


しているのがバレると今までに無いくらいの怒号が飛びました。


父は少ないながらも彼が苦労しないように仕送りをしていたのです。


親からすると自分の汗水垂らして稼いだお金をギャンブルをして溶かしているとでも思ったのでしょう。


彼はお金を懸けてはいましたが、それは毎回少量。


しかも自分で働いたお金で行っていたのです。


でも働いていたことは黙っていました。


どうせ昔のようにお小言ばかり言われて面倒なことになると思っていたからです。


更にそれを今言ったところで話がややこしいことになると。


その時になっても言わなかったそうです。


自分が我慢して怒られていれば終わると今までの経験から思っていたのでしょう。


しかし今回は違って学校を退学させて縁を切るとまで言われてしまったのです。


「お前は母親と同じでどうしようもない人間、他人を不快にさせる存在」だと


ここで言い訳などをしておけば良かったのでしょうが、彼にとっては父親こそが恐怖そのもので反抗できる精神状態では無かった。


そのまま話は続き、本当に学校を辞めさせられました。


彼は父親から嫌われてしまいました。


どんなに怖いものでも家族は家族です。


学校を辞めたことよりも家族として受け入れもらえなくなった事が彼にとってとてもショックでした。


考えました。


どうしたらまた家族として見てくれるかを。


そして思い付いたのが勇者になることです。


勇者のように周りの人から尊敬され、頼られる人間になれば父からも見直してもらえる。


そう思ったのでしょう。


これが学校を辞めて勇者になった本当の理由です。


彼が勇気を出し家族ともっと会話をしようとして、どんな人間であるのかを知ってもらえれば結果はまた違ったものになったのかも知れませんね。



─私は友人だと抜かしつつそんな事も知らなかった。


気付かなった。


自分自身の存在が恥ずかしく感じる。


「少し長く話してしまいましたね、少し休憩しましょう」







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