集団転移編

――授業が終わったばかりの放課後。


突然、光に包まれた。

気がつけば俺たちは石畳の広場に立っていた。


「ここ……異世界じゃね?」

「うわ、マジで転移したのかよ!」


クラスメイトたちがざわつく中、

俺は違和感に気づていた。


「……おい、なんかお前ら、ちっちゃくね?」


「きゃあ。鈴木くん!?」


隣にいたはずの佐藤も、前にいたはずの委員長も

すねのあたりの身長。


「え?俺だけサイズでかくね?」


周囲を見渡せば、

異世界の住人らしき騎士団や魔法使いも、

王様に王女様も、みんなミニチュアサイズだ。


俺のクラスメイトたちだって、

異世界基準で“普通サイズ”になってるのに、

俺だけサイズがバグってる。


「異世界の救世主様方、この世界を救ってください!」


めっちゃ美形な王女様が言う。

クラスメイトの男子たちは顔を赤らめている。が、

小さい、ちっちゃすぎる。


俺には豪華な衣装をまとった

フィギュアにしか見えないんだが。




勇者、聖女、聖騎士……、

クラスメイト達に次々と職業が言い渡される。

そして最後、ついに俺の番が来た。


みんなが固唾を飲んで見守る。

ドキドキが俺にも伝わってくるようだ。


だが俺は違う意味でドキドキしていた。

豆粒宝珠をこわさぬように、

小指の先で触れなければならないからだ。



「こ、これはっ!?」


見た目、賢者のおじいちゃんが叫ぶ。


「能力なし、無職でございます」


なんだろう、この寂寥感は……。

だがなぜか俺が“勇者”に選ばれた。


『いや、サイズで選んだろ』


クラスメイトの視線が突き刺さる。

宝珠の選んだ勇者、クラス内カースト上位で、

文武両道の委員長がいるだけに、めっちゃ気まずいんだが……。


剣を渡された。小さい。爪楊枝か?

鎧を渡された。入るわけがない。


「……俺、素手でいい」


持ってきた、そこの人。笑わないように。




――魔王城突入


魔王城に乗り込んだ俺たち。

クラスメイトたちは魔法や剣で奮闘するが、


「よいしょ」


俺は、壁を素手で壊し、魔物を指でつまんで投げる。


『勇者っていうか、怪獣じゃね?』


またもやクラスメイト達の視線が突き刺さる。

なんだろう。勇者なのに肩身が狭い……。


いよいよ魔王との対決だ。

玉座に座る魔王が立ち上がる。ひざたけだ……。


「我こそは魔王!世界のすべてを滅する者なり!」


無理すんな。声裏返ってるじゃねぇか……。


だが俺は無慈悲にも、つい言ってしまった


「ちっさ」


思わず口にしてしまった。

デリカシーの無さが俺の悪いところだ。


魔王は顔を真っ赤にしてほこを振り上げる。

古代中国の某武将が持っていそうなあれだ。


「無礼者!我を愚弄するか!」


だがその矛も、俺からすれば子供のおもちゃサイズ。

振り上げられても、全然怖く……いや危なっ!ピンポイントで股間の高さって!


続けざまに魔法も放たれる。


「滅びよ、勇者ぁぁぁ!」

あ、勇者認定はしてくれるんだ。結構いい子かも。


光が飛び爆発が起きる。


「これ熱っつ」


魔王の全力魔法……なんかちょっとヒリヒリする。

これ水膨れしちゃうかも。


反省させる意味も込めて、

片手で魔王をひょいと持ち上げてしまう。


「魔王って、ちょっとリアルめなマスコット感あるな」

またしてもデリカシー皆無だ。


魔王は必死に足をばたつかせる。


「離せぇぇぇ!我は恐怖の化身ぞぉぉぉ!」


……かわいい。


魔王を小脇に抱えたまま、俺はみんなと王都に凱旋した。

民衆は歓声を上げる。


「勇者様が魔王を倒したぞ!」

「なんてでかい男だ!でかすぎる!」


だが俺は気づいてしまった。

いや、うすうす気づいてはいたが

討伐の旅は野宿だったので気にしないようにしていた。


この世界、建物が全部小さい。

宿屋にも入れない。食堂にも入れない。

旅の途中、クラスメイトからダッシュで離れておこなった排泄行為とか

もう大量破壊兵器だったわ……。


「……生活できねぇ。はよ地球に帰らんと」


魔王を倒すより、この世界で暮らす方が難易度高いよ……。




――王城、石畳の広場にて


王女が俺に告げる。


「勇者様、どうかこの国に残り、我らを導いてください!」


俺は答えた。


「いや……俺たち前の世界へ帰りたいんだけど」


「そうですか……七つの宝珠を集めると願いをかなえてくれる神龍さまが現れるという伝説がありまして」


おお!なにそれ?大冒険の始まりキタ――

かと思ったら案外サクッと集まった。


最難関の大山脈の山頂にあるやつだって、

のんびり登って普通に拾ってきただけ。

ある意味、こっちに来てから初めてのスローライフ感さえあったわ。




「きゃあ。鈴木くん!?」


足元にいたはずの佐藤の声が頭上から聞こえる。

見上げるとでっかいパンツが……

なんだろうラッキースケベなはずなのに

全然ときめかないな。サイズのせい?


っていうか俺ちっちゃ。みんなでっか。

地球に連れてきた魔王は……ほっ。俺基準でちっちゃ。


それにしても、またしても俺だけバグってる!?

これっていったい……

俺は天に向かって(決して佐藤のパンツに向かってではない)叫ぶ。


「神々よ、とくとご照覧あれ!我に与え給うものは試練か、それともコメディか――」

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転移したら俺だけサイズがバグってる。なんだかみんなちっちゃくね? 茶電子素 @unitarte

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