第9話 バスケ部と陸上部

(瀧宮春!?)

 そうだった、と華は思い出した。席替えの時の様に、急にまた心臓がドッと鳴る。何事も周りに悟られぬ様、直ぐに目を逸らし、いつも通りに体育館を抜け、1年生達と一緒に、舞台上で其々ストレッチしている2、3年生の陸上部員達の元へ急ぐ。


(びっくりしたー!焦ったー!)

 幸い、体育館内はバスケ部が忙しなく動いていたため、ボールの音や走る音で煩かった。自分が開けたドアの音で、注目を浴びている訳ではないし、探していた訳でも無いのに、何故目が合ってしまったのだろう。あのまま目を離せなくなりそうだった。あからさまに目を逸らしてしまった自分を恥じた。


 しかし、よくよく考えてみると、普段締め切っているドアがいきなり開いたら、誰でも見るよなと思った。自意識過剰なんじゃ無いかとすぐ把握し、また恥ずかしくなる。そもそも華を見ている訳ではなく、目線の方向に偶然華が居合わせただけかもしれない。頭の中で、色んな可能性を一気に考えつつ、足早に飯塚先生の元へ駆けつけた。


「先生ー!全員終わりましたー!」

 華は、元気に報告する。少し変なテンションになってないか不安になった。自分でも気持ちがフワフワしているのが分かる。舞台上では、部員達がストレッチに励んでいた。舞台に上がると、体育館全体がよく見える。


「お疲れー。今、見ての通りストレッチしている所。身体が温まっている状態で無理のない程度にやろう」


 そう言われて、其々の学年のグループになる。1年生達は1年生で固まっていった。2年生は少し怠そうに行動している。華にも経験があるが、2年の頃は、学校生活にも部活にも慣れ、少し中だるみしてしまう時期なのだろう。特に注意はしないが、横目に見つつ、華も3年生の集まっている場所へ移動する。


「お疲れー」

 華の言葉に皆「お疲れ!」と返してくれる。順番に柔軟体操を始めた。こうゆう緩い練習の時は、お喋りに花が咲いてしまうものだ。


「なんかさー、こうやって他の部活見ながらやるの楽しいよね」

 理香がバスケ部を見ながら話す。


「確かに!あんま見ないしね。あー、あの足いいなあ。なんか走る時にムキって筋肉出てくるの」

 すみれは筋肉が好きらしい。


「分かる。なんか手羽先みたいで美味しそうだよね」

 これに華が反応する。


「「手羽先…?」」

 2人は困惑した。


「つっきーは独特だから!あんま食べ物に発想する人いないでしょ!」

 美穂が笑いながら言った。


「そっかー、マジで手羽先みたいなんだけどなあ」

 ぼーっとしながら、バスケ部の連なって走る足を華は眺める。


「またそういう見方してると、変態呼ばわりされるぞおー」

 美穂が何か企んでいる笑いで言う。華はちょっと怖くなったので、「気をつける」と言いながら、開脚のストレッチを重点的に始めた。その後も、美穂にバスケ部が気になる?と聞かれたが、無視した。


 ストレッチ運動を30分くらいやった所で、飯塚先生から次のメニューを聞かされる。

「次は、順番におんぶしてこの舞台上を行き来していこう。無理しない程度で」

「「「はーい」」」


 雨の日の部活は、淡々とこなしながら緩く活動する。この時間はたまにあるから、贅沢に感じる。お喋りしながらでも、飯塚先生は特に何も言わない。寧ろ、一緒にお喋りを楽しんでいる節もある。

 部活も終盤になってきた所で、

「これで、終わり!集合したら、各々帰っていいぞー」

 と、飯塚先生が言った。1度集まり礼をする。その後1、2年生は、帰宅の準備をし出す。3年生達も帰宅の準備をしているが、ダラダラとお喋りをしていた。


「あ、バスケ部も終わりっぽいね」

 美穂が体育館を清掃しているバスケ部を見ながら言った。


「じゃあ、ここも閉めちゃうかな。バスケ部より早く出ないとだね…」

 華が急ごうと、みんなに言う。3年生だけ残っていて1、2年生はもう体育館から出たらしい。


「じゃあ、私は職員室戻るから。お疲れ様ー。ちゃんと帰るんだよ」

 飯塚先生は手を振って、体育館から去って行った。


「と、言う事は…私達は自由ですね」

 突然、美穂がふふふと言った。


「少し遊ぶか!」

 理香がそう言い、美穂と一緒に舞台上から降りてバスケ部の元へ行く。


「え、ちょっと!」

 自由人なギャル2人は、華には制御出来ない。そんな2人をすみれと飛鳥もただ見ているだけだ。


 理香と美穂は、バスケ部の部員何人かと話をしている様だった。数分後、ボールを借りて戻ってきた。


「これから自主練あるんだって。それが終わる迄は、ボール借りてて良いってさ」

 理香がそう言って、バスケのコートに向かってシュートをする。全然届かなかった。あちゃー!と言いながら、ボールを追いかける。


「理香ー!次私ー!」

 美穂もノリノリで参加していた。そう言う事なら…と、飛鳥も加わった。飛鳥も意外と陽キャ寄りである。


 すみれは、疲れたから帰ると言い、じゃーねーと言い体育館を去ってしまった。華も帰ろうとしたが、完全に出遅れてしまった。舞台上に、荷物と華が残された。3人がきゃっきゃしながら遊んでいるのを、少しの間、舞台上に座って、足をブラブラして見ていたが、やっぱり自分は参加せず帰るかと思い、支度を始める。




「よっ!つっきーバスケ参加していかないの?」

 振り返ると、瀧宮春が居た。


(!?!?!?!?は???)

 ドッと心臓が鳴る。言葉が出ず、凄く驚いた顔をしていたのであろう。春もびっくりしていた。


「な、え?どうした?」

「いや、急すぎてびっくりというか。心臓が飛び出そうだった」

 漫画みたいなセリフを言ってしまったなと、華は恥ずかしくなった。いつ迄この心臓の音に慣れるのだろう。美人は3日で慣れるというが、男性の場合も3日で慣れるだろうか。


「そっか、ごめんごめん。赤木達にボール取られてさー。つっきーも居たからやるんかなと思ってた。んで、帰りそうだから声掛けてみたって事」


「そう。美穂達楽しそうだね。私は部活も終わったからこれで帰るよ」

 そう言いながら鞄を持ち出す。


「えー!つっきー帰るん?ってか、春!なんでつっきーと一緒にいるん?!」

 少し離れた所で、美穂が叫んだ。

「あれ?春とつっきーて仲良かったん?」

 クラスの違う理香が不思議そうにしていた。飛鳥は春の事をよく知らないので、遠目に見ている。


「同じクラスで、今席隣同士!」

 春がボールを回しながら言った。美穂達が近付いてくる。

「私が紹介して、2人友達になったんだよね」

 えへん!と美穂が胸を張る。まあまあと春と華は頷く。


「でも本当珍し!春は新しい子と仲良くなるなんて。しかも女子」

 理香は疑いの目で春を見ていた。聞けば、美穂、理香、春は同じ小学校出身で幼馴染の関係だ。それなら、よくお互い理解しているのだろう。


「俺も色々あるの。交友関係は広く、そして、仲良くしていかなきゃね」

「うえええ!昔の春からは絶対聞かない言葉!」

 理香があからさまに嫌悪感を出す。


「ま、これでも神社の息子さんだからねえ、親御さんも息子さん達の事色々大変みたいで、よくうちの親ともお喋りしてるよ〜」

 美穂と春の親同士もよく話す間柄なのだろう。仲良しな理由も分かる。


「うちの親、何処でもおしゃべりだな…」

 春はため息をつく。


「神社?」

 華は何も知らないので、疑問を投げ掛ける。


「そうそう、春はあの『日限龍籠神社』の御子息であられます」

 美穂がふざけた調子で言った。理香は、でかいよねー金持ちだー、と茶化していた。


「と、言っても俺は三男だから、神社の事は兄ちゃん姉ちゃんに任す!」

 まるで関係ないかのような口振だ。ふいっとそっぽを向いている。


「なーに言ってんの!あんな立派な神社で!三男だろうが神社の息子は息子だろう」

 頷きながら理香が言う。知っているからこその言葉だろう。


「え、そうだったんだ。私、よく参拝しに行くよ。息子さんだったとは…」

 単純に驚いた。華は春に驚かされてばかりだ。あんな立派な神社の息子でイケメン。ご兄弟もきっと顔が良いんだろうなと思った。


「まあ、この街では1番大きい神社だしな。あざまーすっ!これからもご贔屓にー!」

 春の軽いテンションでの営業スマイルだった。


「うん、お守りもそこの神社のやつ、いつも買ってるし。あ、でも今ボロボロになっちゃってて、後で買いに行こうと思ってる所なんだよね」

 華は陸上の大会で傷の付いた御守りを思い出した。


「ボロボロ?」

 春はきょとんとした。自分の家の神社のお守りがボロボロになるのは、不快になってしまうかもしれないな、と華は思った。


「ずっと大会中もポケット入れてたんだけど、願掛けで…強く握って引っ掻いちゃったのか、傷がね…」

 華は残念そうに話す。


「それ、今ある?」

「あー、鞄に入れっぱなしだったからあるよ。ほら」

 華は持ってた鞄から、ボロボロになった御守りを取り出す。


「…」

 春は顔を歪めた。流石に不快だったか、申し訳ない気持ちになる。


「あ、ごめんね。こんなにしちゃって。でもこのお陰で優勝出来たってゆうか…そう思ってる。ご利益は有ったと思うよ!」

 必死に前向きになる様な言葉を投げ掛ける。どうしよう…とあたふたしてしまう。


「これ、このまま俺が持って行って良い?お焚き上げするように家族に言ってみる。あと、新しい御守りも用意しておく。」

 何やら真剣なトーンで言う春に、少々押され気味になる。


「え、うん。いいよ。お焚き上げしてくれるのは有り難いし!あ、じゃあ、お代は後で持ってくるね」


「いや、今回はいい。常連さんだしね」

 お守りを見つめたまま春は言う。


「あ、ありがとう…」

 華には分からないが、春は難しい顔をしていた。そのまま、御守りを持って、自分の荷物の元へと向かってしまう。


 春と話していたので気付かなかったが、いつの間にか、美穂、理香、飛鳥はバスケ部達に混ざって3on3をやって、楽しそうに遊んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍神様と月の華 @iteboshi_urara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ