秋のひと葉
sui
秋のひと葉
村はずれの古い小道に、毎年秋になるとだけ現れる大きな楓の木がありました。
普段はそこに何もないのに、紅葉が深まるころ、人々がふと足を向けると、必ずその木の下に立ってしまうのです。
木の下に立つと、枝から舞い落ちる葉がひとひら、手のひらにすっと落ちてきます。
その葉を握りしめると、胸の奥の悲しみや疲れが静かにほどけて、やわらかな思い出に変わるのでした。
ある日、旅人の少年がその道を通りました。
彼もまた一枚の葉を受け取り、しばらく目を閉じます。
気がつくと、遠い故郷で母が笑いながら呼ぶ声が、耳の奥にやさしく響いていました。
少年は深く息を吸い込み、心に灯がともるのを感じます。
手を開くと葉はもう消えており、ただあたたかな余韻だけが残っていました。
その木は翌朝にはもう見えなくなっていましたが、村人たちは知っています。
――秋が来るたび、静かな魔法は必ず戻ってくるのだと。
秋のひと葉 sui @uni003
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます