Metal Ghost

@bbs_haruna

幽霊は語り始める

私から色を奪って、代わりに変な色を押しつけてきたのは、いったい何だったんだろうね。

もし神様がいるなら、胸ぐらつかんで「お前のセンスどうなってんだ」って問い詰めてやりたい。


……っと、悪口はつい出ちゃうから気にしないで。いつものこと。

惟人にもよく「口が悪い」って突っ込まれるけど、もう治らないんだよ、これは。人と距離を置いて生きてると、どうしてもこうなる。


で、どこから話そうか。……そうだ、私が生まれる前のことからだね。

西暦二一一〇年、日本でまさかのクーデター勃発。ニュース見た人は絶対「嘘だろ」って口をそろえただろうね。


陸・海・空の自衛隊から集まった反乱派が、政府と官公庁を一気に占拠した。

教科書に載せたら一行で済む話だけど、現場の人間からすれば「マジかよ、日本終わった」って胃がひっくり返る事件だったはず。


その日のうちに首相は殺され、用意されてた傀儡首相が登場。はい、大混乱。

……ってなるはずだったのに、ふたを開けてみれば意外と安定。

経済も治安も、前よりマシに見えたくらいで、「え、クーデター成功して良かったの?」なんて言い出す人までいた。皮肉な話だよ。


当然、国際社会は大騒ぎ。特にアメリカが。

在日米軍は即座に行動に出た。でも、そこで出てきたのが――


人型機動兵装ユニット「ホプロン」、日本では重装歩兵と呼んで、それを縮めて重兵と呼んでる。


二本足で歩く人型機動兵器。何でもできるし、バカみたいに機動力がある。

「万能は無能」っていう古い常識を殴り飛ばして、「万能こそ最強」って証明した存在。


結果、米軍の戦闘機もホプロンは紙のおもちゃみたいに扱われた。

一年間で三度行われた大規模な対クーデター作戦は、全部失敗。

戦場に残ったのは燃えカスと敗北感だけ。


そして二年後、米軍は完全撤退。基地は放棄され、破壊され、自衛隊が接収して使う事となった。

日本は絶海の孤島になった。……まぁ、孤島にしてはデカすぎるし、細長すぎるんだけど。


今の日本は空に重兵が飛び交い、海には専用空母が浮かび、陸には百キロおきにジャミング装置が立ってる。

鎖国モード全開。江戸時代の再来、ただし刀の代わりに最新兵器を握った状態だ。


……誓って言うけど、今は二十二世紀だよ。城もないし、ちょんまげもないし、刀もない。

でも国のあり方は本当に“鎖国”そのもの。外からも中からも閉じ込められた、現代版の監獄。


そんな国で、私は生きてた。

……いや、生きて“いた”、だね。


だって、あの日、私は彼に出会ったから。

人嫌いの私に平気で話しかけてくる変わり者。常に機械油の匂いをまとい、ツナギを普段着みたいに着こなす志条惟人。


そして、もう一人。人じゃないけれど、私が唯一心を許せる友達。

感情の色を見なくて済む、私にとってただ一人の安らぎ――機械の声。


私は深浦纏。

牢獄を破って、沖縄を飛び出して、世界を知って、自分がどう生きるかを選ぶことになる。

その始まりは、あの廃墟で、あの機体に出会った夜だった。


――名護市、夜。

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