無気力系召喚者、覚醒する

火川蓮

Prolog1 見捨てられた召喚者

オレの名前は――国縄恵太(こくじょう けいた)。ごく普通の高校生だった。

バイトで貯めた金で、やっとの思いで手に入れた新型ゲーム機。

それを大事に抱えて帰宅している最中、事件は起きた。


突然、足元に複雑な紋様の魔法陣が広がり、眩い光に包まれる。

次に目を開けたとき、そこはもう見知らぬ世界だった。

足元は大理石。

視界いっぱいに広がるのは、絵に描いたような壮麗な王宮。

――まるで、自分がゲームの画面の中に吸い込まれたみたいだった。

周囲がざわめく中、オレはつい口にしてしまった。


「早く帰って、ゲームしたい……」


こんな意味不明な場所なんかより、新作のマ○オカートをやりたい。

そのために、わざわざswi○ch2を買ったのに!


女の人が何か話していたが、そんなことは耳に入らなかった。


「あ、周回しなきゃ……」


オレはスマホを取り出し、いつものアプリゲームを起動。

今はちょうどイベント中で、SRやSSRを引くチャンスなのだ。


しかし――


「ん? オフラインです? インターネットに接続してください??」


画面に表示されたその文字に、オレは固まった。

電波が立っていない。Wi-Fiも繋がっていない。

つまり、どういうことだ!?

これが現実ということを実感し、頭が真っ白になっていく…。

 

「はぁぁぁぁ!?ふざけるなぁぁぁぁ!!」


日本じゃない!?

まさか、本当に異世界に召喚されたってことか!?

衝撃で立ちすくむオレに、甲冑を着た兵士が声をかけた。


「少し、いいか? あの列に並んでくれ」


指差す先には、水晶に手を翳している人々の列。

しぶしぶ並び、数時間の末にようやく自分の番が回ってきた。

水晶に手を翳し、さっさと立ち去ろうとした――その瞬間、別の兵士に止められる。


「君、こちらへ来てくれないか?」


兵士は妙に柔らかい笑みを浮かべていた。

その笑みに、オレは嫌な予感を覚えながらも従うしかなかった。

人気(ひとけ)のないところに連れて行かれたオレのところに、神官服を着た女の人が現れた。


「この子が?」


女の人が兵士になにかを尋ねていた。

兵士はすぐに答える。


「はい。職業(ジョブ)は無職です。特に特筆すべき能力もありません」


「……なるほど」


女神官は眉をひそめ、低くつぶやいた。

オレは心の中で固まる。


「なん…だと!?オレが無職!? マジで?」


神官は静かに、しかし確実に告げる。


「このままでは、正式な召喚者として認められません」


その言葉を聞いた瞬間、オレの背筋に冷たいものが走った。

周囲を見ると、兵士たちがオレを囲む。


「もしかして…追放されるの…か?」


考える間もなく、兵士たちはオレを軽く押しながら広間の外へ連れ出す。

そのとき、ふと視界の隅に気配を感じた。

メイドに連れられているヒロが、心配そうにオレのことを見ているのが見えた。


周囲の視線が痛い。民衆の好奇の目、侍従たちの冷たい視線――

何もできず、ただ前に進むしかなかった。

城門をくぐると、外の光がまぶしい。

けれど心は重く、未来が真っ暗に感じられた。

こうしてオレは、この国…ディルティーナ王国から追い出された。

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無気力系召喚者、覚醒する 火川蓮 @Fiamma

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