白無垢の消えた夜

 ある山間の村で「狐の嫁入り行列」の祭り中に花嫁が失踪した。その村の住人から密告があったらしく蘭は轟に呼ばれとある村にやって来た。

 地図に載っていない程の小さな村『御巫村みかなぎむら』で人口は30人程度しか居らず住人の殆どが老年層だ。村は棚田で生計を立てているらしく村に入って直ぐにある墓地を抜けると大きな棚田が広がっている。蘭達は村のふもとにある「雨宿り亭」に泊まる事になった。名前の由来はこの村が雨が多い事が理由らしい。

 女将の小夜子さよこに案内され部屋に入る。荷物を置き轟に向き直ると蘭は腕を組んで轟を見つめる。


「それで?どうして大々的に捜索しないんだ?」


 と蘭はずっと感じていた疑問を投げかける。轟は眉間の皺をさらに深くして溜息を吐く。


「実はな…。」


 と轟は言いずらそう呟く。轟の話によると、確かに花嫁が失踪したと村人から通報があり直ぐに最寄りの警察官が村に向かったのだが駐在所の警官も村人や村長等も花嫁は失踪していないの一点張りでろくに話をさせてくれなかったらしい。

 その為、轟に極秘で捜査する様にお達しが掛かったらしい。


「そういえば、あの子は?」

「あ?あぁ、アイツは明日コッチに到着する予定だ。」


 あの子と言うのは轟の部下の神崎だ。彼女は最近、轟の部下に抜擢されたらしく蘭もまだ数回程度しか会った事は無いが元気溌剌でまさに新米刑事と言う言葉がピッタリだ。


「僕は一旦、村でも散策してくる。」


 蘭はそういうと立ち上がり部屋を出ていく。宿を出て右手側に進むと嫁入坂と呼ばれている坂があった。これは、狐の嫁入り行列の祭事の時に花嫁の行列が歩く場所らしい。その坂を上っていくと御巫神社の社が見えてきた。


「案外小さい村なんだ…。」

『見つけた…。』

「え?」


 声がして振り返るが誰も居ない。風が吹き枯れ葉が転がる音だけが響いた。

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狐婚村奇譚 タカセ @takase6015

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