SCENE#120 次の偉大なる文学は、これだ!
魚住 陸
次の偉大なる文学は、これだ!
第1章 謎の巻物と消えた犬と、それどころじゃない五十嵐
古びたアパートの一室。自称「天才作家」、その実ただの締め切りに追われる男、五十嵐三郎は、今日も机に向かって唸っていた。原稿用紙は真っ白で、心は鉛のように重い。
「ああ、もうダメだ!このままだと担当編集に頭突きされる!いや、それより俺の原稿料が、今月の家賃が、電気代が、水道代が…!」
そう嘆いた彼のデスクに、突然、奇妙な巻物がポトリと落ちてきた。差出人不明。巻物には達筆な文字でこう書かれていた。
「汝、この巻物を開かんと欲するならば、まず犬を見つけよ…」
「犬?」五十嵐は首を傾げた。その瞬間、足元で眠っているはずの愛犬モンがいないことに気づいた。
「モン!どこだ!俺の精神安定剤!というか、俺のおやつ隠したの、お前だろ!」
いつもなら「クーン」と鼻を鳴らし、五十嵐の足の匂いを嗅ぎまわっているはずなのに。五十嵐は半狂乱で部屋中を探し回る。
「モン!おやつだぞ!超高級ジャーキーだぞ!昨日俺が隠したやつ!」
ベッドの下、クローゼットの奥、果ては洗濯機の中まで顔を突っ込んだが、モンの姿はどこにもない。
「まさか、この巻物とモンがいなくなったことに関係が…まさか、モンのやつ、巻物を食って、そのせいで消えたのか!?」
五十嵐は嫌な予感を覚えつつ、巻物を固く握りしめた。その瞬間、巻物からまばゆい光が放たれ、五十嵐は「うわーっ!洗濯機に突っ込んだままワープとかやめてくれー!このアパート、オートロックなのに!」と叫びながら、謎の空間へと吸い込まれていった。
第2章 異世界転生はギャグ漫画の始まりだった(そしてモンはダジャレを覚えた)
光が収まると、五十嵐は見慣れない場所に立っていた。そこは、巨大なブロッコリーのような木が生い茂り、空にはチーズのような月が浮かぶ、およそ現実離れした世界だった。
「まさか、異世界転生…ってやつか!?しかもブロッコリーとチーズの星かよ!健康的なのか不健康なのかどっちなんだ!俺のジャンクフード生活はどうなるんだ!」
五十嵐は慌てて自分の腕をつねったが、痛みはしっかりあった。
「うっ、痛い!夢じゃない!ということは、俺は本当にブロッコリー星に来ちまったのか!明日までに原稿書かないといけないのに!」
途方に暮れる五十嵐の前に現れたのは、なぜか直立二足歩行でパイプをくわえている喋る犬だった。
「ワンワン!もしもし、そちらの人間さん。もしかして、そちらの『偉大な文学』とやらの著者ですかワン? 私の名はモン。あなたの愛すべき相棒のモンだワン。まさかこんな形で再会するとは、奇縁だワン! この世界、ワンダフルだワン!」
その犬こそ、行方不明だったモンだった。
「モン!?お前、なんで喋って…っていうか、何その探偵みたいな格好!しかもパイプまでくわえてるのか!煙出てるぞ!」
モンは探偵のような帽子をかぶり、煙を吐き出しながら言った。
「これは異世界での正装だワン。驚くのは無理もないワン。それより、あなたが探しているのはこの巻物ですね?」
モンが鼻で示した先には、巨大なチーズの塊の上に置かれた、まさに五十嵐が持っていたのと同じ巻物が!
モンの話によると、五十嵐は「次の偉大な文学」を生み出すために、この異世界に召喚されたのだという。
「ワン!あなたにしか書けない、世界を揺るがすコメディ文学が、この世界には眠っているのだワン!私の名推理によればな! 文学は文学、ワンランク上の文学をだワン!」
五十嵐は頭を抱えた。
「おいモン、とりあえずそのパイプしまえ!煙い!それと、変なダジャレ言うな!全然面白くないぞ!」
そして、その文学のヒントが、あの巻物に隠されているらしい。かくして、五十嵐と、やたらと賢そうだがどこか抜けている(しかもダジャレを覚えた)モンによる、異世界でのドタバタ珍道中が始まった。
「おいモン、とりあえずそのパイプしまえ!煙い!」
第3章 癖が強すぎる登場人物たちのオンパレード(と、五十嵐の苦難)
旅の途中、五十嵐とモンは様々な奇妙な住人と出会った。
最初に現れたのは、常に歌を口ずさんでいる陽気な妖精、「ティンクル」。彼女は五十嵐に、きらきらと輝く粉をまき散らしながら言った。
「文学には喜びの歌が必要よ! あなたの心に響くメロディを見つけて! 私の歌を聞けば、どんな絶望も吹き飛ぶわ! さあ、私と一緒に踊りましょう!」
そう言って、耳をつんざくような高音で自作の歌を披露し始めた。
「ルララ~♪ 悲しみのブロッコリーを乗り越え、チーズの彼方へ~! ルララ~♪」
彼女の歌が響き渡ると、五十嵐の体が勝手に動き出し、奇妙な盆踊りを踊り始めた。
「うわあああ!体が勝手に動き出す!モン!助けてくれ!」
モンは呆れた顔でしっぽを振るだけだった。
「ワン!ノリノリだワン、五十嵐!」
「ノリノリじゃねえ!これは強制労働だろ!」
次に遭遇したのは、哲学的なゴブリンの「グロッグ」。彼は深いブロッコリーの森の奥で、腕を組みながら五十嵐に問いかけた。
「深遠なる哲学的考察が不可欠! 人間よ、存在意義とは何か、虚無とは何か、そして今日の夕食は何なのか、それが我々の胃袋に与える影響とは?」と力説し、難解な議論を延々と続けた。
「うむ、それはまた別の問題だな。だが、考えることをやめてはならぬぞ!特に夕食はな! なぜ我々はブロッコリーを食すのか、その問いこそが真理だ!」
グロッグが哲学的な思考を深めるたび、周囲に巨大な疑問符や感嘆符の形をした岩石が飛び交い始めた。
「危ねえ!哲学が物理攻撃になってるぞ!やめろ、グロッグ!」
「ワン!五十嵐、頭に疑問符が刺さってるワン!」
「痛いんだよ!」
五十嵐は眠気と空腹と飛んでくる岩石と戦いながらも、「ええと、その…今日はレタスサラダとか…あっ、危ない!」と的外れな返事をするしかなかった。「ワン!ゴブリンさん、夕食はワンコの餌でいいワンか?」とモンが言うと、グロッグは真顔で「犬の餌を考察するにはまだ浅いな…いや、待て、その肉の起源を遡れば…」と呟き、さらに疑問符を飛ばし始めた。
そして、最後に現れたのは、おしゃれにうるさい雲の精霊「クラウディア」。彼女は五十嵐の服装を見るなり、ふわりと舞い降りて言った。
「あなたのその服装、文学に対する冒涜よ! そのよれよれのジャージ、一体いつの時代のものかしら? 20世紀初頭かしら? もっと洗練された美意識が作品には必要なの! さあ、私のセンスでコーディネートしてあげるわ!」
クラウディアが指を鳴らすと、五十嵐の服が瞬時にブロッコリーの葉でできたフリル付きのスーツと、チーズで作られた巨大なシルクハットに変わった。
「ええっ!?何これ!歩きにくいし、チーズ溶けそうなんですけど!」
クラウディアは満足げに微笑んだ。
「フフフ…これであなたの文学も、きっともっと輝くわ! あら、そこの犬もその帽子、少し古いわね!」
五十嵐は自分のダサいジャージが恋しくなりながら、「すみません…もっとファッション誌読みます…いや、異世界にファッション誌あるのか!?」とひたすら謝るのだった。「ワン!これはクラシックなのだワン! 古き良きスタイルだワン!」とモンは必死に反論していた。しかも、この着替えはクラウディアの魔法で、脱ぐと途端に猛烈な鼻炎に襲われるという呪いがかかっていた。
それぞれの強烈な個性に翻弄されながら、五十嵐は「本当に、これが偉大な文学につながるのか…? 俺のコメディじゃなくて、俺自身がコメディにされそうなんだが…この状況、誰か動画撮ってないよな?」と疑念を抱き始めるのだった。「ワンワン…なかなか一筋縄ではいかないワンね。五十嵐、もう少し耐えるワン! 耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶワン!」とモンも呆れ顔で五十嵐の肩をポンと叩いた。
第4章 創造の産みの苦しみと、突然のひらめき(と頭痛と鼻炎)
数々の出会いを経て、五十嵐はついに巻物の置かれたチーズの岩山にたどり着いた。しかし、巻物に手を伸ばした瞬間、突然、巻物が眩い光を放ち、これまで出会ったティンクル、グロッグ、クラウディア、そしてモンまでもが、まるで騒音のように五十嵐の頭の中で同時に叫び始めた。
「喜びの歌を!ルララ~♪ 歌詞は適当でいいのよ! 音程も適当で大丈夫よ!」
「深遠なる哲学的考察を!今日の夕食が味噌ラーメンであるべきか否か、そのラーメンに刻まれた人生の塩味とは何か!」
「もっとおしゃれに!その筆記具、センス悪すぎよ! 次は全身をブロッコリー柄のストッキングで覆いましょう!」
「ワンワン!もっと冒険を!尻尾を振るようなクライマックスをだワン! ドッグランのような疾走感をだワン!」
頭痛と鼻炎に耐えかねた五十嵐は、両手で耳を塞ぎ叫んだ。「もう、勘弁してくれー!静かにしてくれーっ!俺の脳みそがブロッコリーになる!ていうか、鼻が止まらねぇ!」その叫びは、まるで異世界の混沌そのものだった。
その時、五十嵐はハッとした。彼らが主張する「文学」とは、それぞれの世界の価値観や信念の表れなのだ。そして、彼らとの出会いは、五十嵐自身の「面白い文学」という固定観念を打ち破るための試練だったのだ。
「そうか…!俺は、彼らのめちゃくちゃな主張を、全部ぶち込んでしまえばいいのか!ギャグとして! これぞカオス文学だ!」
五十嵐は持っていたメモ帳とペンを取り出した。頭の中で渦巻く様々な要素を、一つ一つ丁寧に書き出していく。妖精の歌に合わせた支離滅裂な展開、ゴブリンの哲学的な問いかけに対する馬鹿げた答え、雲の精霊がコーディネートした奇妙すぎるファッションに身を包んだ主人公、そして愛犬モンとの心温まる(?)触れ合い。それらが渾然一体となり、前代未聞のコメディストーリーが生まれようとしていた。そう、五十嵐は異世界の騒がしさの中で、「次の偉大な文学」の種を見つけたのだ。
その間も、巻物は文字を光らせたり、ブロッコリーが描かれた絵文字を飛ばしたりと、空腹をアピールし続けた。五十嵐は必死でチーズの切れ端を巻物に与えながら書き続けた。モンも静かに彼の横に座り、しっぽを振りながら見守っていた。
「ワン…頑張るワンよ、五十嵐!ワンダフルな文学を期待しているワン! ワンマンショーだワン!」
第5章 文学の誕生、そして現実もギャグだった(まさかの続編決定)
無数の言葉が紡ぎ出され、ついに物語は完成した。五十嵐は疲労困憊ながらも、かつてないほどの充実感に満ち溢れていた。完成した「次の偉大な文学」は、異世界の奇妙な住人たちとの騒々しい交流を描いた、ジャンルを超えた型破りなコメディだった。
「ワン!これはきっと偉大な文学になるワン! 私の活躍ぶりが最高だワン! 犬だけに、名犬だワン!」
モンは尻尾を激しく振りながら吠えた。すると、完成した原稿から温かい光が溢れ出し、五十嵐とモンは気が付くと元の部屋に戻っていた。
見慣れたアパートの一室。散らかった机の上には、書き終えたばかりの原稿用紙の束。そして、足元にはいつものモンが、「クーン」と安心したようにスヤスヤと眠っている。
「夢…だったのか?」
五十嵐は原稿を手に取り、読み返してみた。異世界での出来事はまるで嘘のようだったが、確かにそこに、彼の生み出した型破りな物語が存在していた。
「うおっ!この主人公、俺が着てたダサいジャージに巨大なリボンつけてる上に、ブロッコリーの葉っぱのフリルついてるぞ!しかも、なぜか巻物が『お腹すいた』って文字で光ってる…」
数日後、「次の偉大な文学」は出版社に持ち込まれ、編集者たちはその型破りな内容に驚愕しつつも、その可能性を見抜いた。
「これはまさしく、新しいギャグ文学の幕開けだ!」
「すぐにでも出版しましょう!このブロッコリーとチーズの描写、最高です!特に、登場人物全員が同時に喋るシーンは画期的だ!」
そして、その文学は出版されるや否や、前代未聞の大ヒットとなった。五十嵐三郎は、予期せずも「天才作家」として認められることになったのだ。
しかし、彼の日常はまた新たな問題に直面していた。大ヒット作の作者として、数多くの取材依頼と、次の作品への大きな期待が押し寄せたのだ。
「五十嵐先生、次の構想は?今度はどんなブロッコリー星人が登場しますか?」
「読者も心待ちにしていますよ!巻物先生にもお目にかかりたいです!」
今日も五十嵐は、愛犬モンに見守られながら、頭を抱えて次のなる型破りな物語を考えている。モンは五十嵐の膝の上で、「ワン!まだまだネタは尽きないワンよ、五十嵐!次の冒険はもっとドタバタだワン! 犬か猫かと言われたら、犬だワン!」と得意げに吠えている。
彼の文学的な冒険は、まだ始まったばかりなのである。しかも、彼の自宅の冷蔵庫には、なぜか巨大なブロッコリーとチーズが定期的に届くようになり、巻物も時々「おやつ」と光るようになっていた。五十嵐のコメディは、現実でも続いていたのだった…
SCENE#120 次の偉大なる文学は、これだ! 魚住 陸 @mako1122
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