ジンライム

茶村 鈴香

ジンライム

びっくりするよね

急に涼しくなって

箱買いの炭酸水も余りがち

先週まで一日中飲んでたのに


晩酌に缶ビールは飽きたから

夏中 私はジンソーダ

それじゃ苦いとあなたは

シロップ入れて ジンライム


「男女、味覚が逆じゃない?」

「いいんじゃない、好みで」

私は夕食と一緒には

甘いお酒は好まない


男女が逆か 微妙

約束はしてないけど

料理はあなたが作る

大体の掃除は私がする


持ち物の片付けと

洗濯はそれぞれ

柔軟剤の好みが違うから

干し方のルールが違うから


台所か洗面所で

誰もが忌み嫌うあの黒い奴が

出現した時 対処は私

あなたはムシ全般が怖いという


新聞紙に洗剤

叩いて 垂らして 水葬

おー、やっつけたね 拍手するあなた

入念に消毒して終わり


私は化粧が苦手

洗って潤して日焼け止めで終了

たまに薄い口紅つけると

あなたはわざわざ驚いてみせる


あなたはその辺 まめな方

シミだらけじゃ将来モテないと

私より質の良い日焼け止め

一日二回ヒゲを剃る


『ジンライムのお替わりは?』


夜の間だけ

私はゴムを解いて髪を下ろす

ウエストまである髪


これが一番楽

美容院は半年に一度

巻きもしないし染めもしない

黒ゴムでくくっておしまい


一番安いシャンプーとリンスで

洗ってるだけだけど

何故か素直に真っ直ぐな髪

さらさらと言えなくもない髪


夜の間だけ

あなたは人が変わったように

私を好きにする


儀式みたいに 口づけの前に

あなたは髪を撫でてくれる

あんまり長くて手が届かないって

毛先まで気遣うとは律儀ね


だんだんなんでも良くなる

昨日の傷も明日の怖さも

ただあなたの指先が

今 存在する私を形作る


「あ、ごめん

気持ち良くて眠っちゃった」

そう?ってあなたは笑う

かと思いきや押さえ込まれてる


『ジンライムのお替わりは?』


喉が渇くのは私の方

優しくて でもギリギリ

抵抗できない

あの黒い奴には勝てるのに


喉が渇いたまま夢を見て

コーヒーの香りで目を覚ます

「起きたか?」あなた余裕ね

連休明けの火曜日は辛い


洗顔、保湿、日焼け止め

髪をくくって 支度は早いから

在宅勤務のあなたに手を振って

一本早い快速に乗る


口紅もつけないでと

人に笑われてもかまわない

フルで勤めて帰ったら

ジンソーダとジンライムの食卓


約束した仲じゃないけど

きっとあなたは待っててくれる


秋らしく秋刀魚でも焼いて

きっとあなたは待っててくれる
















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