路地裏の飴屋――鈴の音に導かれて――

霰零

第1話 路地裏の飴屋

(効果音:遠くでかすかな鈴の音)

(効果音:箒で地面を履く音)

(しっとり、やさしい声で)


「……あら? 迷い込んできたのかしら。

こんな路地裏に人が来るなんて……ふふ。珍しいお客さんですね。


ねぇ、そこの扉を見て。

木の看板が……少し古びてますけど『飴屋』って書いてあるでしょう?


もしよかったら……ちょっとだけ立ち寄ってみませんか?

ほらあなた、すこし疲れた顔してますし……。

甘いもの、少し分けてあげたいの」


(効果音:扉がきぃ、と開く)


「いらっしゃいませ。

ようこそ、路地裏の小さな飴屋へ。


見てくださいな、この棚いっぱいのガラス瓶。

瓶を傾けると、ほら……ころん、ころんって中で飴が転がるの。

この音だけでも、癒されません?」


(効果音:瓶をひとつ取り、ゆっくり傾け飴玉を転がす)


「……うん、この音だけでも癒されますよね。


今日は特別に、私がひとつひとつ、あなたの耳元で説明してあげますね。

声で甘さを届けるのも……飴屋の大事な仕事なんですよ」


(少し間をおいて、囁き気味に)


「さぁ、座って。

ここからは、私の声と飴の音に、ゆっくり浸ってくださいね」


(効果音:木の椅子を、きぃ、と引く)

(効果音:ガラス瓶をそっと持ち上げる、ころん……ころん……)


「まずは定番の苺の飴から。

瓶を傾けると、ほら……赤い小さな宝石が、ころんころんって転がるの。

ひとつ、取ってみますね」


(効果音:瓶の蓋を開ける)

(効果音:瓶を傾け、木の器にふたつ転がり出す)


「透き通る赤が、光を受けてとてもきれいでしょ?

苺の飴はね……甘酸っぱくて、ちょっとだけ初恋の味なの。


(効果音:器からひとつ手に取る)


「試食は二つまで。

まずは、私のおすすめをどうぞ」


(効果音:口の中に飴を入れられる)

(効果音:飴が歯にあたる。から……ころ……)


「……ね? 最初は、きゅっと甘酸っぱさが広がるでしょう?

そのあとに来る甘さは、まるで……照れくさそうに笑う初恋みたいじゃない?」


(少し笑みを含んで)


「ふふ……頬が赤くなってますよ。

この飴と同じ……とてもかわいらしいです」


(効果音:木の器に残っているもうひとつの飴を手に取り、自分の口に入れる)

(効果音:口の中で飴を転がす。右に……左に……)


「ん……ふふ。

ほら、耳を澄ませて。

ころん……ころん……って、転がる音、聞こえますか?


……甘酸っぱさに、思わずほほ笑んでしまいます。

ね? 音まで甘いでしょ?」


(効果音:歯で飴を止め、かりっ、と小さく響く)


「……あ。今の音、聞こえました?

ちょっと噛んじゃうと、きゅん……って胸に響くの。

私、この瞬間が大好きなんです」


(囁くように)


「さぁ……次はどの飴にしましょうか。

甘くとろける蜂蜜?

それとも、爽やかな檸檬?

あなたの気分に合わせて、選んでくださいね」


(少しあいだをあけて、驚いたように)


「……あら、ミントを選ぶの?

ふふ……ちょっと意外。

でも、そんなあなたも素敵ですよ」


(効果音:瓶を持ち上げる、包み紙が擦れる音)


「ほら、透きとおる緑の小さな粒……見えますか?

手に取ると、ひんやりしてきそうでしょう?」


(効果音:木の器にふたつ転がり出す)

(効果音:包み紙を解く、ぱり……ぱり……)


「はい、どうぞ。

小さい飴だから、舌の上で転がしてくださいね」


(効果音:口の中で飴がころん……ころん……と転がる、苺の飴より少し高い音)


「……ね、すぅ……っと息まで透きとおるでしょう?

さっきの苺とは正反対。

甘さの奥に、きりりとした刺激……背筋が少し伸びる感覚がしませんか?」


(少し笑みを含んで)


「苺が初恋だとしたら、ミントは……秘密を知ったあとの恋。

刺激があるのに、ちゃんと甘さも残ってる……そんな味ですね」


(効果音:かりっ……と、小さな噛む音)


「……あ。今の聞こえましたよ?

噛んじゃいましたね?

中から、とろっ……と出てきませんでした?


……そう、それそれ。

冷たい甘さが広がって、胸の奥までひんやり染みていくみたいでしょう?


その刺激が、頭をすっきり澄ませる。

……ね?」


(飴を味わってる様子を見つめる)

(少し間をあけて)


「……あ、ちょっとだけ失礼しますね」


(効果音:店の奥へと足音が遠くなる)

(効果音:木のスイングドアを開ける)

(効果音:足音が消える)

(効果音:遠くから足音が戻ってくる)

(効果音:木のスイングドアを開ける)


「すみません。

さっき作った飴を冷ましていたのを忘れていて……。

もしよかったら―――……これもご縁。

味見……します?」


(効果音:クッキングシートから飴を引き剝がす)

(効果音:木の器にひとつ落とし入れる)


「これ、新作なんですよ。

柚子と蜂蜜の飴。

この前、常連さんに柚子をいただいたので、作ってみました。


……知ってますか?柚子と蜂蜜の飴の作り方」


(効果音;首を横に振る、衣擦れ音)

(残念そうに)


「そう……ですよね。

飴の作り方を知っている人って、あまりいないんですよ」


(少し明るめの声で)


「あっ……この機会に、『飴』ってなにか、ご説明させていただきますね」


(効果音:木の引き出しを開ける)

(効果音:紙を一枚取り出す)

(効果音:カウンターの上で紙を滑らせる)


「飴って……意外と歴史が古いんですよ?

西暦720年ごろに誕生したっていわれていて……1300年くらい歴史があるんです。

ほら、お祭りとかでよくみかける飴細工ってあるじゃないですか。

ハサミで、ぱちん……ぱちんっ、て切って作る飴。

あれ、発祥は江戸時代っていわれてるんですよ」


(効果音:指を紙の上で滑らせる)


「種類も結構あって、今、試食していただいた固い飴を『かたあめ』。

粘液状の飴を『水あめ』っていうんです。

べっ甲飴やりんご飴、綿あめなんかは有名だから……知ってますよね?」


(笑みをこぼしながら)

(効果音:紙を取り、机でとんとんしてから折る)


「よかったら、この紙に作り方も書いてあるので……お家で作ってみてくださいね」


(効果音:紙を受け取り、カバンにしまう)


「……じゃあ、お待ちかねの試食。

できたてほやほやの飴を……どうぞ」


(効果音:木の器から飴をひとつ手に取る)

(効果音:口に入れ、飴をゆっくりと転がす)


「あ、この飴は、噛んじゃだめですよ?

……隠し味に、柚子の皮をすりおろして入れてあるんです。

それと蜂蜜。

表面にまぶしてあるグラニュー糖の甘さを、舌で味わってほしいんです。


……ほら、甘味のなかに、すこしだけ苦味があるの……わかりません?」


(効果音:歯に当てながらころころと転がし、ぴたっととめる)


「……ふふ。気づきました?

そう……それ。

最初に広がるのは、蜂蜜のまろやかな甘さ。

でも、あとからくる柚子の皮のほろ苦さが……すぅっと舌の上に残りますよね。


この、甘さと苦さが一緒に混ざる感じ……

なんだか、大人の恋みたいじゃないですか?

少し切なくて……でも甘いところもあって。

……忘れられない味」


(少し間をあけて、やわらかく笑う)


「……今日は、なんだかとってもいい日。

もしかすると……あなたに出会えたからかしら。


こんな日は、特別な飴を出したくなっちゃう。


よかったら……もう少し、お付き合いいただけません?

私の……『とっておき』なんです」


(効果音:足音が遠ざかる)

(効果音:木のスイングドアを開ける)

(効果音:棚を探すような、瓶や器がかすかに触れ合う音)

(効果音:木のスイングドアを開ける)

(効果音:足音が戻ってくる)


「お待たせしました。

これが、特別な飴、『板飴』です。

見てください、透きとおっていて……まるで水晶みたいでしょう?」


(効果音:板飴をそっと机に置く。硬質なガラスのような音)


「……ね? 板飴って、普通の飴玉とはちょっと違うんです。

見た目もそうですけど、こうして板状に広げて作るから……光に透かすと、まるでステンドグラスみたいにきらめくんですよ。


……ほら、指で触ってみてください。

つるん……としていて、すべすべしていて……ほんのり温かいでしょう?」


(効果音:指で板飴を軽くなぞる)


「これを……少しだけ割りますね。―――えいっ」


(効果音:板飴を手で割る。ぱきんっ、と小気味よい音)

(効果音:欠片が小皿に転がる。からん、からん……)


「……ほら、見てください。きれいな欠片になったでしょう?

宝石を砕いたみたいに、角度によってきらきら光るんです。


そして、お待ちかね。

板飴の楽しみ方は、こうして小さく割った飴を舌の上にのせて溶かすの。

舌の上で静かに……すぅっと消えていくのを味わうんです」


(効果音:口の中に飴を入れる)

(効果音:しゅん……と、溶けるイメージの静かな音。綿あめみたいな)


「……ね、ほら。音がほとんどしないでしょう?

さっきまでのころんころんと転がる音もなくて……ただ、静かに溶けていく。


まるで……大切な秘密みたい。

誰にも言えない気持ちが、心の奥で少しずつ溶けていく……そんな味です」


(囁くように、耳元で小さく)


「……あなたにだから、出したんですよ。

この板飴は、私の『とっておき』。

選ばれた人にしか、食べてもらわないんです」


(効果音:板飴をもう一度割る)


「ふふ、私もひとくち……いただきますね」


(効果音:軽く息を吸いながら板飴を口に入れる、ぱきん……しゅん……)


「……ふふ、二人だけで秘密を分け合ったみたいですね。

板飴はね、儚いけれど……記憶にはずっと残るんですよ」


(少し沈黙をおき、やわらかく)


「……あなたの胸にも、透明な甘さが……すぅっと、残りますように」


(帰るため、木の椅子を引く)

(効果音:きぃっと椅子を引く音)

(効果音:足音。遠ざかっていく)

(効果音:遠くで扉を開ける、きぃっという音)


(効果音:雨。ざぁぁ……)


「あら、雨が降ってきていたんですね。

これでは、しばらく帰れそうにありませんね……」


(効果音:扉を閉める。きぃ……がちゃん)


「……ふふ、これも何かのご縁。

せっかくですし、雨が上がるまで飴づくりの体験、してみませんか?」


(効果音:足音)

(効果音:引き出しを開ける)

(効果音:布を取り出す)


「はい、エプロンをどうぞ。

……よく似合ってますよ」


(効果音:3歩の足音)


「どうぞ、こちらです。

あ、通路は狭くなっているので、気をつけてくださいね」


(効果音:二人分の足音)

(効果音:木のスイングドアを開ける)

(効果音:広い部屋の残響)

(効果音:雨粒が屋根に数粒当たる)

(効果音:微かな雨の音)


「ここが……飴を作る工房なんです。

棚にあるのは、型やしゃくし、それから昔ながらの温度計も並んでいます。

……ほら、少し甘い匂いが残っているでしょう?」


(効果音:木の棚を開ける)

(効果音:小鍋を取り出す。木の棚板と鍋が少し擦れる音)

(効果音:コンロに置く、ことん)


「飴の基本材料は、お砂糖と水。

今回は……フルーツ飴を作ってみましょうか。

ちょうど『ぶどう』があるので、ぶどう飴にしましょう。

ぶどう飴……ふふ、おいしそう」


(効果音:冷蔵庫を開ける)

(効果音:ビニールに包まれたぶどうを取り出す)

(効果音:テーブルにぶどうを置く)


「このぶどう、房からつぶを取っていきましょう。

全部で……10つぶにしましょうか」


(効果音:ビニールからぶどうを取り出す)

(効果音:房からぶどうを取る、ぷちっ……ぷちっ……)


「次は、このぶどうをきれいに洗います。

やさしく……やさしく……」


(効果音:蛇口をひねる、きゅっ)

(効果音:水、シンクに軽く弾く音)

(効果音:ぶどうを洗う)


「……ふふ、見てください。

水と光に反射して、まるで宝石みたい……」


(効果音:蛇口をひねる)

(効果音:水が止まる)


「あ、そこのキッチンペーパーを取ってもらえますか?

このぶどうたちを、きれいに拭いてあげないと……」


(効果音:数歩の足音)

(効果音:ロール状のキッチンペーパーを回す)

(効果音:キッチンペーパーを切り取る)

(効果音:数歩の足音)


「ふふ、ありがとうございます」


(効果音:数敵の水がシンクに落ちる)

(効果音:キッチンペーパーにぶどうを乗せる)


「……水分が残っていると、飴が絡みにくくなっちゃうんです。

実を傷つけないように、そっと……そっと……」


(効果音:キッチンペーパーでぶどうを拭く)

(効果音:ぶどうを小皿に乗せる)


「次は……はかりですね。

材料は、きっちりと計らなくてはならないんです。

ほんの少しの誤差で、飴は硬くなったり水っぽくなったりする……

すごく繊細なものなんですよ」


(効果音:しゃがむ、布のこすれる音)

(効果音:木の棚を開ける、重ため)

(効果音:大きなはかりを取り出す、木の棚板が擦れる、重ため)


「よいしょ……っと……。

ふふ。このはかり、古いものなんですけど、まだまだ現役で働いてくれてるんです。

……大切に扱うと、物たちも応えてくれる。

ここの道具たちは、大切な……なかまみたいな感じです」


(効果音:はかりをテーブルに置く)

(効果音:ボウルをはかりに置く、針が揺れる)


「お砂糖は……あ、そこの茶色い紙の袋を取ってもらえますか?

お砂糖が入っているので、少し重たいですよ」


(効果音:紙の袋を折ってる部分を持つ)

(効果音:テーブルの上に紙袋を置く、少し重たげに、どさ……)


「ありがとうございます。このお砂糖をスコップですくっていきますね。

量は……100グラム」


(効果音:紙の袋を開ける)

(効果音:小さなスコップを砂糖に突っ込む、さくっ……)

(効果音:袋からスコップを取り出す)

(効果音:ボウルに砂糖を入れる、さらさら……ボウルの金属にあたる音と、ボウルに入る砂糖の量が増えるにつれて音を重たくする)

(効果音:入れる砂糖をぴたりと止める)


「……ぴったり、100グラム。

量を測るときの、この『針が止まる瞬間』……私、けっこう好きなんです」


(効果音:ボウルを持ち上げて鍋にあける、さらさらさら……)


「このお砂糖を小鍋に入れて、水は大さじ2。

そっと回しかけて……」


(効果音:ぽたぽたと水をいれる)

(効果音:鍋を軽く揺らす)


「飴を作るとき、鍋を揺らして全体を湿らせるのがコツなんです。

木べらでぐるぐるかき混ぜてしまうと、砂糖が結晶化してザラつきやすいんですよ」


(効果音:コンロに火をつける、かちっ……)

(効果音:弱火からじわじわ、ふつふつ……)


「ほら、聞こえますか? お砂糖が息をしているみたい。

最初は、にごった色ですが……ゆっくり加熱すると透明に変わっていくんです。

……この瞬間も……たまりませんね」


(効果音:木べらでゆっくり底をなぞる、とろ……とろ……)


「よかったら、この木べらを持って……。

そう、ゆっくり底をなぞるように……焦がさないように……。

上手ですよ」


(効果音:飴液が糸を引く、とろぉ……)


「……うん、いい感じになってきました。

それではぶどうを串に刺して―――」


(効果音:小皿にあるぶどうを取る、爪が若干小皿にあたる)


「……まずはひとつぶ。

串はこちらにありますので……そう、突き出ないように、慎重に……」


(効果音:竹ぐしを取る、たくさんある竹串の入れ物に手をいれる、からっ……からから……)

(効果音:竹ぐしを刺す音、ぷすっ……)


「……ぶどうって、いろんな形の子がいますよね。

まぁるい子もいれば、少しとんがった子も……。

みんな同じ、『飴』っていう衣を着て、同じように並ぶ―――。

想像するだけでも、かわいいですよね。ふふ」


(効果音:鍋をコンロから浮かせ、傾ける)


「じゃあ、このぶどうに熱い飴を絡めて……

そう、ゆっくり回してあげてください」


(効果音:飴液をまとわせる、とろぉ……)

(効果音:余分な飴液が落ちる、ぽたっ……ぽたっ……)


「こうすると、飴が薄い膜を作るんです。

冷たい空気に触れると、すぐにぱりっと固まるんですよ。

……あっ、クッキングシートの準備を忘れていました。

ちょっと待っていてくださいね」


(効果音:急ぎ気味に布が擦れる音)

(効果音:棚からクッキングシートを取り出す)

(効果音:ロール状のシートを引き出し、びりっと破る)


「……お待たせしました。ここにそっと置いてあげてください。

……あ、まだ固まり切っていない飴は下に集まって、薄い板になるんです。

横に置くか、縦に置くかは……あなた次第。

かわいくしてあげてくださいね」


(効果音:クッキングシートの上にぶどうを置く、かさっ……)


「……横……ですか。

……あ、いえ。変……ではなく、固まったらきっと……かわいいなって思って。

ふふ、まるで帽子をかぶっているみたい」


(効果音:鍋をコンロの上で揺する)


「さぁ、次のぶどうも絡めちゃってください。

はやくしないと、固まっちゃいますよ」


(効果音:二粒目のぶどうを串に刺す、ぷすっ……)

(効果音:鍋を傾ける、とろぉ……ぽたっ……)

(効果音:クッキングシートにぶどうを置く、かさっ……)


「……はい、いいですね。

ふたつ並ぶと……なんだか姉妹みたい。

同じ飴の衣をまとって、肩を並べて……」


(効果音:鍋をゆする)

(効果音:ぶどうを串に刺す、二連。ぷすっ、ぷすっ……)

(効果音:飴をすくう、ぽたぽた……)


「……こうやって、ふたつぶを一気に刺すのも、いいですよ?

くるんと回すたびに光が交互にきらめいて……見ているだけで楽しい。

……ふふ、まるで双子みたい」


(効果音:クッキングシートの上に置く、かさっ……ころん……)


「ひとつぶずつ並んでいるのもかわいいけど、こうしてふたつぶが寄り添っているのもいいですね。

光の反射もそれぞれ違っていて……本当にきれい……」


(効果音:飴が冷えていく、しゃり……しゃり……)


「あっ……聞こえました?

今、飴が冷えて固まった音がしましたよ?

この、しゃり……しゃり……って音、ちょっとロマンチックじゃありませんか?」


(効果音:木の棚の引き出しをそっと開ける)

(効果音:ざらめの入った袋を取り出す)


「次は、飴が固まる前に、このザラメをまぶしてみましょう。

見た目も食感も、がらっと変わるんですよ」


(効果音:ぶどうを串に刺す、ぷすっ……)

(効果音:鍋を傾け、飴を絡める。とろぉ……ぽたっ……)


「……だいぶ動きが早くなりましたね。

慣れてきましたか?」


(効果音:ザラメを小皿に出す、ざらざら)


「飴が固まらないうちに、ザラメをまぶしてみてください。

指でザラメを摘まんでふりかけてもいいですし、えいっ……って、ザラメの中にいれちゃってもいいですよ。

……あなたが好きなのは……どっちかしら?」


(効果音:小皿から指でザラメを摘まむ)

(効果音:ぱらぱらとふりかけ、飴に乗らなかったザラメが小皿に落ちる)


「……あら、意外と……繊細なんですね。

指先でひとつぶずつ、落ちないように気を配って……。

そういうところ―――とても優しいと思います。


でも、ただ優しいっていうより、小心者……

ザラメにがさっとつけて、形が崩れるのを恐れているようにも見える……。

……ふふ。人柄って、こんな小さな仕草にもでるものなんですよ」


(効果音:飴が冷える、しゃり……しゃり……)


「……ほら、今の音。

あなたがまぶしたザラメと一緒に飴が冷えて、答えるように鳴りましたよ。

なんだか、飴にまで性格がうつっちゃったみたい」


(効果音:クッキングシートに飴を置く、かさっ……)


「さぁ、残りも同じように……そう。これで全部のぶどうに飴が絡まりましたよ。

見てください、一列に並んだかわいい子たち。

透明な衣をまとった子、双子みたいに寄り添う子、ザラメで華やかになった子……。

まるで性格の違う、ちいさな家族みたいでしょう?


(効果音:クッキングシートから飴を剥がす)


「……はい、もう食べごろです。

まずは、あなたが最初に作った、透明の衣をまとったぶどう飴」


(効果音:かじる、ぱりっ……じゅわ……)


「どうですか?

……ぱりっと衣が割れると、すぐにぶどうの果汁が『じゅわっ』と広がったでしょう?

飾り気がなくて、まっすぐな味。

まるで……さっき初めてお店に足を踏み入れたあなたみたい……ふふ」


(効果音:自分も飴を口に入れる、ぱりっ……じゅわ……)


「ん……やっぱりいいですね。

飾らないぶどう飴は、いちばん純粋に『作った人の手』を映すんです。

……あなたが触れた温度や息遣いまで、甘さに溶け込んでいる気がしますね」


(少し間をおいて、柔らかく)


「次は、双子みたいに寄り添った子を試してみましょうか。

ふたり同時にぱりっと割れる瞬間……きっとおもしろいですよ」


(効果音:クッキングシートから双子飴をそっと持ち上げる、クッキングシートから剥がれる音、少し長めに。二串ぶん)


「では、せーの、で。

……かじってみましょうか・

―――せーのっ……」


(効果音:同時にかじる、ぱりっ……ぱきんっ……じゅわ……)


「ふふ……聞こえました?

ふたり同時にぱりって割れたのに、音の高さが違う。

これは、絡めた飴の『厚さ』が違う証拠なんですよ?

私とあなたが違うみたいに、飴もひとつひとつ違う……。

世界でひとつしかない飴を味わえるのは―――ここ、『飴屋』だけ。

さぁ、次はザラメで華やかになった子を……どうぞ」


(効果音:クッキングシートからザラメの飴を剥がす。ザラメがクッキングシートにあたる、かさっ……すすっ……)

(効果音:数粒のザラメがはずれ、クッキングシートに落ちる、ぱさっ……ぱさぱさっ……)


「……ね、見てください。

まるで小さな星屑を散りばめたみたいでしょう?

きらきら瞬いて……宝石のよう」


(効果音:口に近づける衣擦れ)


「それじゃあ……ひとくちどうぞ」


(効果音:かじる、口の中でザラメが砕ける。ぱりっ……がりっ……じゅわ……)


「どうですか?

大きなザラメのつぶが、がりっと歯にあたって……少しびっくりしちゃいました?

でも、そのあとで甘さが一気にほどけて……ぶどうの酸味と混ざり合う」


(効果音:がり……じゃりっ……)


「透明な子が素直な甘さ。

双子の子はそれぞれ違った音。

そしてザラメの子は、華やかで力強い甘さ……。

どの子も、ぶどうとの相性はばっちりなのが不思議ですよね」


(効果音:自分もかじるために口をあけ、息を吐く)


「あー……ん……」


(効果音:かじる、ぱりっ……じゃりっ……)


「……うん、いい甘み。

私が作るのより繊細で……やさしい。

……あなた、飴屋に向いてるかもしれませんね、ふふ」


(効果音:外の雨の音を強く、そして弱める)


「……あら、雨の音が少し静かになりましたね。

もうすぐ止むかもしれません」


(効果音:クッキングシートを触る)


「……残りの飴は4つ……。

この子たちは、紙に包んでお土産にしましょう。

今日の甘さを……あなたが連れて帰ってあげてください」


(効果音:薄めの棚を引いて開ける)

(効果音:包装用の和紙を取り出す)

(効果音:棚を閉める)


「まずは透明の子を……」


(効果音:クッキングシートから剥がし、和紙で包む。かさっ……くしゃっ……)


「双子の子も……」


(効果音:重たげにクッキングシートから剥がす、和紙で包む。かさ……くしゃっ……)


「最後に、きらきらのザラメの子……」


(効果音:クッキングシートから剥がす、ザラメが数粒落ちる、和紙で包む)


「……あら、透明の子が余ってしまいましたね。

これは……私が夜に、今日のことを思い出しながら……いただきますね」


(効果音:小皿に置く、からん……)


「はい、この3つの飴をどうぞ。

帰り道に食べてもいいし、誰かに分けてあげてもいいですよ。

でもきっと……この子たちは、あなたに食べてもらいたいと思っていることでしょう」


(効果音:和紙で包まれた飴を受け取る、くしゃっ……)

(効果音:外の雨の音が弱まる、しとしと……ぽつぽつ……)


「……雨が止みかけているようですね。

どうやら、帰るタイミングが来たようです」


(効果音:ふたりぶんの足音)

(効果音:木のスイングドアを開ける)

(効果音:ふたりぶんの足音)


「今日は、たくさんの飴に出会いましたね。

甘酸っぱい苺の飴、少し背筋が伸びそうなミントの飴、それに柚子と蜂蜜の飴……。

……あ、私のお気に入りの板飴も……ふふ」


(効果音:木の扉のドアノブに手をかける、がちゃ……)

(効果音:扉を開ける、きぃ……)


「雨を感じながら作ったぶどう飴は……あなたと私の思い出」


(効果音:外に出る足音)

(効果音:立ち止まる)


「……こうして振り返ると、たったひとときなのに……

まるで物語の一章みたいに感じませんか?」


(効果音:あなたが持っている和紙で包まれた飴をぎゅっと握る、かさっ……くしゃっ……)

(効果音:雨粒が水たまりに数滴落ちる)

(効果音:鳥のさえずり)


「この路地裏の飴屋は……鈴の音に導かれたときにだけ現れる小さなお店。

またあなたが迷い込んできたら……ふふ。

そのときは、新しい飴をお見せしますね」


(効果音:鈴の音が鳴る、ちりんちりん……ちりんちりん……)

(効果音:鈴の音が遠ざかっていく)


「それでは―――お気をつけて。

……また、甘い夢の続きを―――いつか……」


(効果音:木の扉がゆっくりと閉まる、きぃ……)

(効果音:ドアが閉まる、がちゃん……)




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