杉崎高校家庭科部

あやな紗結

SS①みちると美咲

「みーちるっ、おやつちょーだい」

「もー、部活用に持ってきてるんだよ?」

 昼休みまであと一時間。短い休み時間に隣のクラスから走ってやって来たのは北野美咲だった。すらりとした体躯の、長い四肢を華やかに動かして廊下と教室を遮る窓から身を乗り出す。

 みちると呼ばれた女子生徒は部活仲間に言い返しながら、小さな体格に似合わない大きな弁当バッグを机の脇から持ち上げた。

 体格に見合った弁当と、底の広いタッパーを取り出して、タッパーの蓋を開けて美咲に向けてやる。

「カップケーキ?」

「今日はたまご蒸しパン」

「わあ、今食べるのにちょうどいいね! いっただっきます!」

「どうせ節約とか言ってお昼ご飯持って来てないんでしょう」

 整然とタッパーの中に並んだ小さな紙の容器に入れられて作られた蒸しパンを、美咲は二つ取り出して早速丸い上面に齧り付く。

「立ったまま食べるのお行儀悪いよ」

「ん、教室戻る。ありがとねー、んじゃ部活でねー」

 両手に一つずつ蒸しパンを持って、去っていく美咲に手を振っていると、視界に掌が過ぎる。

「満里。私たちも」

「……部活用なんだってばぁ」

 みちること瀬田満里まりは、文句は言っても断らない。クラスの友人たちにもタッパーを差し出した。

 家庭科部部長の作る菓子は、部員以外が食べられる機会が少ないために、隙あらば狙われているのだった。

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杉崎高校家庭科部 あやな紗結 @ayana_sau

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