あたしはぬいぐるみ

西しまこ

だって、あたしはぬいぐるみ

 あたしはぬいぐるみ。

 愛らしい瞳でいつも薄っすら笑っているの。

 うん、撫でてもらえるの、好き。かわいがってくれるのよね。

 そういうときは安心していられる。ふわふわな気持ち。


 でも油断しちゃいけないの。

 ぬいぐるみは、ごしゅじんさまのモノだから、ごしゅじんさまのご機嫌が悪いと何が起こるか分からない。


 あ。

 今日は駄目な日だ。

 毛がもがれる。痛いけれど、痛くない。だって、あたしはぬいぐるみ。

 暴言が突き刺さる。痛いけれど、痛くない。だって、あたしはぬいぐるみ。

 手がもげそうになる。痛いけれど、痛くない。だって、あたしはぬいぐるみ。


 ぬいぐるみだからいつも薄っすら笑っている。

 愛らしい瞳でしょう。ふわふわでしょう。何をしても大丈夫。

 だって、あたしはぬいぐるみ。

 

 心はどこかに置いてきた。

 ぱきんて音がして、粉々になったんだ。

 でもいいの。

 だって、あたしはぬいぐるみ。

 心なんて必要ないんだよ。


 あたしはぬいぐるみ。

 いいよ。何をしても。何をしても、いつもの笑顔でいてあげる。

 毛が抜けて言葉の銃撃が突き刺さって手足がもげたって。

 だってあたしはぬいぐるみ。


 ただのモノだから。


 身体の中身がどろどろと傷口からはみ出しても、粉々になった心が悲鳴を上げていても、気にしないで。


 だってあたしはぬいぐるみ。

 ただのモノなんでしょう?



 

 だから、みんな、あたしを傷つける。

 



 いいよ。

 何をしても。



 だって、あたしはぬいぐるみなんだから。

 いつも愛らしく笑っている。

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あたしはぬいぐるみ 西しまこ @nishi-shima

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