死を受容するという過程を、見事に書き切った短編小説です

京野薫という作家は、演劇経験者だ。
故に小説を書く時には、主人公になり切って状況や心情を深く掘り下げる思考実験を重ねてから書き始める。

近況ノートにそう書いてあった。

そして最近、熱中症でリアルに死にかかり、同じタイミングで知り合いを亡くした。

近況ノートにそう書いてあった。

その経験が、死に対してリアルに向き合い、役に入り込んで、この濃厚な短編を書き切ったに違いないだろう。

どこまで深く入り込めば、こんな話が書けるのだろう。


精神科医のキューブラー=ロスは、死を受容するために五段階必要だと分析しました。

「否認」「怒り」「取り引き」「抑うつ」「受容」

この五段階を経て、やっと死を受け入れることができると分析しています。

果たして京野薫先生は、この事を知っていたのか。
おそらく、知っていても知らなくても、同じストーリーが書けるはず。

それは、人間を深く知ろうとし、どんな役になり切れる京野薫という、役者としての才能と、作家としての才能が、必ず正解を引き当てるから。

才能とは恐ろしい。そしてうらやましい。同じ物書きとして、嫉妬しか生まれない。


死に至るまでの少女の心情を、見事に書き上げた傑作です。