赤の力
「スペル発動、ジャッジメントソード。さぁ、見せてください、貴女の可能性と力を……!」
エルクリッドの持つものを見極める為にアヤセが切ったカードはジャッジメントソード。いくつもの光の剣が天井近くに現れ始めた時に、エルクリッドもまた赤い光を帯びるそのカードへ思いと魔力を込めて発動する。
「
赤き閃光がカードから放たれヒレイへと向かい、その光を食らうように受け取ったヒレイの目が光り刹那にスザクの蝋を弾き飛ばす。
すぐに再結集するスザクだがヒレイの身体から放たれた熱波に吹き飛ばされてしまい、入れ違うように切っ先を向けたジャッジメントソードの剣雨が降り注ぐ。
瞬間、赤い光を引きながらヒレイが爪を振り下ろすと一瞬で全ての剣が砕け散り、魔力の欠片が眩い星のように煌めいた。
(一撃であのスペルを……強化スペルのようですが、拘束できないとなれば真っ向勝負で倒すしかありませんね……!)
ヒレイから離れた位置で身体を元に戻すスザクがアヤセの意思を受け熱量を高め、身体を気化させながら白い炎を雷電と共に纏い攻撃態勢へ。ヒレイもまた漲る力とエルクリッドの思いとの繋がりを感じながらスザクを捉え、爆竜爪をつけた両手に炎を纏い身体から溢れる熱が外骨格を伝い炎となり現れる。
そして次の瞬間に両アセスが口内に炎を蓄え一気に吐き出すも、ヒレイが吐き出すのは炎を纏う赤い光線であり速度もあってスザクの雷電纏う白い炎に押し勝ち、そのまま押し切ろうとするのをアヤセがすかさず阻止しにかかった。
「スペルブレイク、フレアフォース!」
赤き光を帯びたスザクの炎が勢いを増し光線を押し留め、そこから少しずつ巻き返し始めると同時にスザクは尾羽根を帯電させ、羽毛を逆立てると青白い雷撃を放ってヒレイを別方向から攻めにかかる。
だがヒレイも同様に両手を振り抜き炎で作られた魔力の刃を無数に放ち、咄嗟にスザクは雷撃をそちらにぶつけて相殺させ防ぎ切った。
刹那、僅かに注意が逸れた事で力が抜けたのをヒレイは逃さず全身の熱量を高め光線をより太くし、一気に押し切りスザクを光線に包み込む。
赤い光の洪水のような光線から脱しようとしても勢いが強く叶わず、凄まじい熱量は気化する事すら許さず文字通り焼き尽くすもの。真化したものを含む三体のアセスの融合とあってスザクも一瞬で消え去りはしないが、抵抗する事は許されず消滅させられアヤセの全身を炎が包み込むような激痛と衝撃が襲いその場に膝をつかせる。
「これが、貴女の……」
倒れ伏すアヤセが刹那に見たのは凛と佇むエルクリッドの姿が、自分の事を案じすぐに駆け出す様だった。
身体を抱えられたのを感じ目を開けると臨戦態勢を解いて心配そうに見つめるエルクリッドの顔が見え、すぐに良かったと言って安堵の笑みを浮かべる。
「お見事ですエルクリッド。貴女の力と、可能性、秘めたものの真意……見定めさせて貰いました」
「ありがとうございますアヤセ様。あたしも、自分の事を……火の夢の力と、アスタルテの事を少しはわかった気がします」
エルクリッドの言葉に静かに頷きながらアヤセが指を鳴らし部屋の仕掛けを作動させ、治癒の魔法陣が床に広がるもすぐには動けず抱えられ続け、ある程度動けるようになってから座る形でエルクリッドと向かい合い、目を合わせ改めてゴーグルを頭に上げて外す彼女に優しく微笑む。
「マヤは本当に良い友人と会えたのだなと改めて思いました。貴女の中に宿る人格も、月影……影武者、守護者の名を持った事で貴女の為に尽くすというのがわかりました、そして貴女自身もそれを自覚し、己の力を正しく使えると……」
「守護者……アスタルテが……」
ふとエルクリッドはエルフの持つ言語存在復元というものを思い返す。旅を休んでる間にタラゼドから聞いた範囲では、繰り返し名を口にする事で蘇る事やその意思を伝播させ後継者とする等影響があり、それ故に
アスタルテの名前の意味が守護者の意味も持つ事をネビュラが知っていたのかはわからないが、結果的にその事が有益な方向へと向いたのは確かだろう。そしてエルクリッド自身も、再び心の奥底に隠れたアスタルテの存在を感じつつ、自分の持つ力を感覚的に理解し完全に使いこなせた事を噛み締める。
「もっと、あたし頑張らないとですね」
強くなりたいという思いに変わりはないが、その道がより広く見えるようになった気がした。エルクリッドはヒレイをカードへと戻してカード入れにしまって立とうとしたが、気を抜いたせいか一気に全身に痛みが走り苦悶の表情と共に座り込みアヤセも無理はなさらずと言って苦笑い。
「さてこれで貴女の星は……」
「六つです! これであと一つ……でもバエルに挑む前に、セレファルシアさんとカラードさんも倒しておきたいです」
ほうと感心の声を上げながらアヤセは眼鏡の位置を直し、少し何かを考えてからある事を話す。エルクリッドが挑もうと考えている、二人の十二星召についての情報を。
「セレファルシア様とノヴェルカ様については説明不要とは思いますが、あの二人はバエルですら倒し切れず魔力を切らせるしか勝ち筋のない者です。そしてカラードはさらなる修行を重ねアセスの真化を果たしたと聞きました」
「カラードさんのアセスって……」
「隠さなくていいと彼は言うでしょうから明かしますと、サラマンダーのマグナを真化させました。本来、元々が上位存在であるサラマンダーは真化させるのが難しいのですが……星彩の儀の話を聞いてからクロス殿と鍛錬を重ねたそうです」
カラードの話を聞いてエルクリッドは十二星召となっても研鑽を欠かさず高みを目指す者がいるのや、師であるクロスの名前を聞いて二人が切磋琢磨する姿が容易に想像できた。
これから挑む者達はいずれも強者ばかり、そしてバエルもまた以前よりも強くなってると思うと、負けられないという思いは強くなる。
そんなエルクリッドを察してかアヤセは焦らなくても大丈夫ですと声をかけ、肩の力を抜かせてから続けて微笑み言葉を紡ぐ。
「とりあえずは傷を癒やしてから退室なさってくださいませ。その間に、マヤの思い出話とかウチに聞かせて貰いたいです」
「いいですよ、えっとまずは……」
アヤセが一人称を変えた事から彼女の試練を終えた事を改めて実感したエルクリッドはすぐに切り替え、親友マヤについての話を始める。
そんなエルクリッドの明るさを心の奥底からアスタルテは感じ入りながら、静かに目を閉じ眠りにつくのだった。この先の試練の為に、また力を使うその時まで。
To the next story……
星彩の召喚札師ⅩⅠ くいんもわ @quin-mowa
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