永遠の2番手、その先へ

マゼンタ_テキストハック

永遠の2番手、その先へ

 ツール・ド・フランス。ピレネーの厳しい山岳ステージは、40歳になったライアンに再び試練を与えた。かつてのエースも、今ではチームの若き天才レオのいわば咬ませ犬。全力で先頭を走りぬけ、フィニッシュ手前でエースに道を譲る。だが、総合優勝を目指す新星のレオも、この超級山岳モン・ヴァントゥの登りで完全に失速していた。


「レオ!諦めるな!まだ終わってない!」

 ライアンは必死に叫んだ。だが、レオの顔には絶望の色が濃く、ペダルを回す足は重い。ライアンの頭に、かつて自分が経験した絶望とあきらめがよぎった。あの時、あの少年との出会いがなければ、自分もあそこで立ち止まっていただろう。


『ライアンさん!僕、あなたのような何事も諦めない人になりたい』


 あの言葉が、今もライアンを支えている。プロとして、勝利こそが、優勝こそが義務だと感じていたあの頃。それ以上に、諦めない姿をみせることこそが、自分の使命だと悟った。


「行こう、レオ。私が、最後まで引っ張ってやる」

 ライアンはレオの隣に並び、自らのペースを落として寄り添った。自身のステージ優勝の可能性は完全に消え去った。だが、その選択に一片の後悔もなかった。


「ライアン……」

 レオは涙を滲ませながら、再びペダルに力を込める。ライアンは先頭を走り、風を切り裂き、レオに道を示した。沿道から「エターナルセカンド!」「行け! ライアン!」という声援が飛ぶ。観衆は、ライアンの諦めない精神に、その象徴ともいえる存在に思わず声をあげたに違いなかった。


 頂上は、もうすぐそこだ。

 ライアンは最後の力を振り絞り、レオと共にゴールラインを越えた。


 総合優勝争いでは……、残念ながら後退した。しかし、二人の姿は多くの人々の心に深く刻まれた。


 ライアンは一度も総合優勝を果たすことはなかった。だが、その背中は、数えきれないほどの若者たちに勇気を与え、彼らが困難に立ち向かうための希望の光となった。

「永遠の2番手」――その称号は、いつしか「決して諦めない男」の代名詞になっていた。 そして、優勝以上のものを手に入れたに違いなかった。

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