初手から既にズレていた

 異世界に転生して間もなく、この世界が直前まで読んでいた漫画の世界だと気付いた。


 両親の口から聞き覚えのある単語や国の名前が挙げられていたからだ。


 だからといってまともに動く事も出来ない赤ちゃんの時は何もする訳でもなく、ただただこの先どうするかを考えていた。


 俺の知らない世界なら神様から貰った能力を活用して、自分が好きなように生きた。


 人生の主人公は自分だ!って言葉があるように俺は俺が主人公になった気分で異世界を満喫するつもりだった。


 だが、この世界は違う。


 漫画の世界だ。創作の世界だ。物語を動かすキャラがいて、世界の中心となる主人公がいる。


 俺という異物が混じり、物語が大筋から外れてしまえばどうなるか俺には読めない。


 せっかく手にしている未来を知るというアドバンテージを手放す事になる。


 ただでさえ話としては読んでいた漫画はハードな物語なんだ。能力を持っているとはいえ、無事に生きていけるかも定かではない。


 なら、物語に干渉せず群衆モブの一人として生きていくか?


 途中まではその方針で固まっていた。主人公を中心に動いている世界で、俺が何もしなくても世界は救われる。


 俺が自分勝手に動く事で物語の大筋が外れて、本来進むはずだった未来から外れるのが一番怖い。この世界は魔王を倒してしっかりハッピーエンドを迎える。


 それなら動くのは世界が救われた後でもいいんじゃないか? ハッピーエンドを迎えて、脅威がなくなってから動いても遅くない。


 行動方針を赤ちゃんの時に定めた。


 原作の開始は今から20年後。


 それまで体を鍛え能力を使いこなして、物語が開始した時に死なないように努力しよう。


 その為の準備を始める予定だった。


 体が動かせるようになった頃、俺は彼女と出会ってしまった。



 この世界の主人公、シャーリー・リュミエールと。



 彼女は俺のお隣の家の娘さんだった。歳は俺の二つ下。俺の両親との仲も良好で、自然と交流を深める形になっていた。


 ───本来なら存在しない主人公の幼なじみ。


 俺の意思が介入しない、最初の時点から物語は既にズレていた。


 軌道を戻す為に関わらないという選択肢もあった。


 さりとて、彼女の半生を物語として知ってしまっている以上見過ごす事は出来なかった。


 辛く困難の続く勇者の旅。


 ただの群衆モブであったなら、読者のように彼女の戦いを風の噂として聞いて一喜一憂するだけだった。


 だが、今の俺は主人公の幼なじみというポジションにいる。これから先も彼女と交流する機会は増えていくだろう。


 彼女と親しくなればなるほど、原作の内容が脳裏を過ぎるに違いない。


 両親の腕に抱かれて天使のような笑みを浮かべる彼女が、辛い戦いで心が疲弊し、笑顔が曇ってしまう事を知っていた。


 ならばせめて、彼女の旅が少しでも楽になるように。彼女の笑みが曇らないように俺が彼女を支えよう。


 本来の物語にはいない脇役として、彼女の負担の一部を共に背負おうと決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脇役として原作主人公をサポートしていたら依存された。 かませ犬S @kamaseinux

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ