10:シルシの事とそのころのコウベ
帰りは3台連結された椅子型のコミューターと
先頭に
次に
最後に
「この小型のバッテリーだと、遠出は出来ないので、今日の分の
「量子サーバー用の……バックアップ電源って、たしか……結構な金額しません……でしたかいな?」
「しますねぇーー。でも、こちらもソレなりに、突発的な事故に巻き込まれたのでぇー、ソコソコの補填が期待できますよぉーぅ?」
よいしょ!
ピ♪
側面の一部がスライドし、大小さまざまなスリットが出現した。
そして、その中の一つに、台形の厚紙を差し込む。
ピピュイ♪
操作音につられて、小鳥が鳴いている。
コウベは台形の厚紙の中に居るため、通訳できる者は居なかったが、少年が何となくその意志を代弁する。
「小鳥も、コウベたちと一緒の方がいいのか?」
首の下に出現している、抹茶色に向かって話す。
「そうですね、小鳥ちゃんも一緒に入れてあげましょう」
それを受け取った美女は、瓶から
カチリと音がして、
フタが閉まり、操作用の半透明のパネルが出現する。
カマキリのように、なにかを指先で摘んだ手の形で制止する
その一瞬の後、
時折、ゴツイ腕時計型デバイスの表示を参照し、コカカカコッカカカッと、リズミカルな
分量的には、A4で10数枚程度だろうか。
ちょっと長めの、20メートルほどの直線通路を通っている間に、そのパネルへの入力をすませ、腕時計型デバイスのデカいネジを押す。
「わっ! もう起動コマンド……打ち込んでますがな」
鈴の音のような美少女声。だがその声色はやや、あきれ気味だ。
次に
「やっぱり、先生のVR専門家としての実力ってすっごいなー! VR研初めて3日で、こんな凄いことになってるもんなー!」
通路を見回しながら話す
「なにいってんだぜ! 笹ちゃん先生―――
「そうよ! 姉さん、―――脱いだらもっとすっごいんだからねっ!?」
「もうっ、
照れたような、お怒りの声が、少年の背後から聞こえてくる。
だが最後尾からの考え込むような
「先生の事は、学園βのほかの先生に、……凄腕だって聞かされましたえ。でも、……あてえ的には、しいていうなら、……
「は?
「そうだゼ!?
「そうだ。俺はこの週末スターバラッドを始めたばっかりだ! こう、こういうややこしいのじゃなくて、普通の、お使いイベントしたり、町娘と戯れたりしたかったのに……」
パップルピップルピレレルリ♪
少年は愚痴りながら、データウォッチを操作する。
「ん? 兄貴から、メール?」
「えー? お兄さんなんだって?」
「んっと、……バラクーダの逃走経路を
「何かわかったのか?」
先頭をいく
「バラクーダの個人情報の一部が判明したってよ」
「ちいと、興味……有りますなあ」
「そぉうでぇすぅねえぇーー」
再び、ダイアログと格闘し始めた
「なんだこりゃ?」
メールを確認したシルシの眼が点になる。
「
完全に背後を向いて居る
「―――量子データセンターに勤務する女性~ぃ。生年月日、その他、現職種以外のすべての経歴が不明~だってよ~」
声が上ずっているのは、
「なによ、結局何もわかってないんじゃないの!」
少年の頭を、むっぎゅーーーっと押し下げる小柄な
トルクのない腕はさほど邪魔でもないようで、少年はされるがまま、メールチェックをしていく。
「いや、続きがある。―――ただし下記の一点のみ判明」
髪をひっつかまれながらも、少年は一拍の間を挟み、
「量子データセンターへはパズルゲームで一芸入社」
「「「「パズルゲーム!?」」」」
なんだゼ、それ?
へー、私も量子データセンター狙ってみようかしら。
あー、笹木は、パズルゲームとかクロスワードとか好きだもんな。
なんだよ、その”特殊VR能力”ってのは?
先生もぉーパズルゲームはぁ好きですよぉー?
あてぇも、嫌いじゃないどすえ?
VR
さっきまで居た戦闘フィールドが大深度地下であり、すでに
ふつうの直線に見える通路ごと慣性を感じさせずに上昇しているのだ。
そんな彼らの通過する通路の壁越しに、接近してくる1機の”自動機械”。
通路と通路の間の、何もない空間。
人知れず光る、通路裏側の小さな箱型の出っ張り。
(ドッガガッ―――ボムンッ!)
「何だゼ!? 今の!?」
「方角的には、戦闘フィールドの方か?」
通路上部に流れていた、特区運営管理者向けの各種の案内表示がノイズ混じりに消えた。
(ボムンボムン!)
チカチカッ―――フッ!
通路を照らしていた天井面からの照明が消える。
「うをわっ!」
「きゃー!」
急停止したコミューターに驚く
通路ごと急上昇していた慣性を一気に受けた体が、わずかに軽くなる。
「なんだこれ?」「な、なんでっ……しゃろ?」
「どぉおうかぁーしぃまぁしたぁかぁー?」
腹のあたりを押さえる
初期起動のための操作に没頭中の
「あ、兄貴が
「まあ、締め切り前の、……デザイナーさんが缶詰……になってるのやから―――」
「―――仕方がないかもしれないわね」
「……ヒソヒソ……やっぱり、シラタキ、おっかねえゼ」
「……っと出来ましたぁー!」
ワオンの子供のような声による宣言。
構成パーツ原価5万円が、稼働し出す。
リュルルルルルルンッピピッ♪
「こんな、何もないところで、量子サーバーのセットアップとか、しかも、移動しながらなんて、―――あてえは、バラクーダよか、先生の方がおそろしいどすえ……ヒソヒソ」
―――パッ!
非常灯に切り替わる通路。
やや緑がかっているが、光量は申し分ない。
周囲から聞こえる、小さな爆発音に抵抗すべく、大声を出す
「ええーーーっ? 何かぁ、言いましたかぁーー!?」
「なんでも、ないどすえ―――あ、うごきはじめましたな」
ウリュリュリュリュリュッ。
おっと、あぶね!
刀風少年が、曲がり角へ突っ込みそうになっている。
「音声入力」「オートドライブ:ON」「目的地:Vステ
ピピッ、リュリュリュリュリュリュン。
彼は精悍な声で、自動運転モードを再作動させた。
「兄貴、大丈夫かな?」
周囲の爆発を、
「……まあ、大丈夫だろ。んなことより、早く帰って、ワルコフの野郎をとっ捕まえて、……時間が余ったら、コウベ達をねぎらってやってもいいかもな。先生―――」
◇◇◇
何もない空間で目覚める、パッと見は優等生の、清楚系美少女型NPC。
「んあっ!?」
その周囲には気配が3個。
と手元に1個。
「♪ピッピチュゥィッ?」
手元の気配から発せられた、疑問。
それに答えるように、清楚系美少女型NPCの両目が光を
その視線の先、上空には、
通路の壁向こうの何もない空間に、到達する箱のような形の”自動機械”。
美少女NPCは、立ち上がる。
手元の気配を頭の上にのせ、両手首をブラブラさせる。
スゥーーーーーーーッ。
勢いよく吸われる呼吸。
フゥーーーーーーーーーーッ。
そして、勢いよく吐き出される呼吸。
再び、今度は静かに入れられていく呼吸。
スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ―――
彼女の呼吸のたびに、明瞭になっていく、論理空間内部。
キキキキキチキキッ。
首を回す箱。
箱のような”自動機械”に付いている動作ランプ。
その反応が、最大限に顕著になる。
ここは、NPC
青白い平面上を、波のような形状の放電粒子が、絶えず流れている。
物理的には、大深度地下の量子データセンターと、
会話型アブダクションマシンという、会話特化型の自律進化型AIであるところの、スターバラッド公式NPC。
その自身をも会話によって改変していく語彙と想念のポテンシャルは、特選おやつを正当に不当にありとあらゆる手段で手に入れるために発揮されてきた。
その語彙と想念の総量が、一定数を超えることで、その性能は飛躍的に拡張される。
自我と、
自我を構成していた主観。
この二つは、本来別の物である。
強いて言うなら、ヨネザワコウベを内部から構成する物。
想念の中に棲まう者。
そして、ヨネザワコウベを外部から構成する物。
想念を定義し、指向性を獲得させようとする者。
彼女にとって、
”小鳥”は内部構成の最たる物であり、
”
「ちょっと、行ってくる」
ジジジジジジジジジジッ!
スターバラッドに出現するときのエフェクトが清楚系美少女を縁取る。
その四肢に、流れ込む蒼い
ヴァリッヴァヴァリッヴァリッヴァヴァリッッ!!
通路への攻撃をやめた箱形の”自動機械”。
まっすぐに、”清楚系”を見下ろしている。
清楚系美少女の”論理空間”は物理的には通路内部の
”論理空間”は、言ってみれば脳裏で再構成されているだけの、思考のための作業台みたいなものだ。
現在、
ソレを外部から参照する術など無い―――。
―――無いはずなのだが。
”箱型”は明らかに、ヨネザワコウベの現在位置を正確に把握している。
”箱型”が認識しているのは、
少なくとも、”箱形”には概念を理解できる超高度な
”箱形”は、通路と通路の間の、整備用ハッチや運搬用レールを伝って、物理的に
”箱形”には
”箱型”を拒むはずの
「ピピュイピピュイピピュイッ♪」
小鳥が
ワルコフに気をつけない スサノワ @susanowa
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