エピローグ トロイヤーフント・リリト
パンケーキにバニラアイスを乗せて、そこにたっぷりと蜂蜜をかけるリリト。
にんまり笑うとそれにナイフを入れる。
「へぇ、日本のハイスクールってそんなに楽しかったんだ?」
軍の食堂でリリトは自分のバディであるアメリカ人のアネットに短期留学中の話をしていた。
クラスのみんなでキャンプに行った事、ピアノが上手な友達とはヴァイオリンで一緒にセッションした事、最終日は陸緒にべったりくっついてデートをした事。
「うん、私の忘れられない想い出さ。それに妹の事もな」
リリトは後から聞いていた事だったが、ワーゲンは自分自身にもゴーレムシステムを用いていた。
野心の強かったブリュンヒルデにいつか命を奪われるという事を予め予想していたのだろう。
そして某国に亡命したワーゲンは自身のゴーレムの研究資料をワーゲンレポートとして提出し、ゴーレムの試作機の制作に取りかかっていた。
それがガルム。
「意味を持たずに生み出されたガルムはリリトの妹になれて嬉しかったと思うよ? まぁ済んだ事を悔やんでもしかたがない」
そう言ってカプチーノを飲むアネットにリリトは頬を膨らませた。
「もうアネットは適当だなぁ」
「まぁ私はアメリカ人だからね。前を見て歩くのさ。あぁそれにしてもリリトを独り占めにした日本の学生達羨ましいな。ねぇ今度私とも一緒に旅行とか行こうよぉー」
リリトを欲情した目で見るアネット、はぁはぁとその息は荒い。
「いいかげんアネット彼氏作ったら?」
「いやよ! 私にはリリト姫がいるので十分なのさ」
白い目でリリトがアネットを見ていると館内放送が流れる。
『リリト曹長、ゼッハ・ガブリエラ・イマリ・デーラ先生が来られています。至急客室へ。繰り返します……』
リリトのリボンがぴくんと動く。それを見たアネットは笑いそうになる。
(あぁもうリリト可愛いな。実家のワンコを思い出すんだよな)
「ナナだぁ、アネットちょっと行ってくるね!」
「あぁ、はいはい。アタシあの先生苦手だからここにいるよ」
ゼッハに止められていた力の解放をしたリリトの身体を検査する為に、ここ最近ゼッハは軍に入り浸っている。
リリトにとっては毎日ゼッハに会える日々は嬉しくてしかたがなかった。
自動扉が開く時間ですら待ちきれずにリリトは無理矢理そこを開ける。
「ナナぁ!」
ゼッハの姿を見つけるとリリトは飛びつく。
「こらこら、勤務中ならもう少ししゃっきっとしろ! しゃきっとな」
そう良いながらもゼッハはリリトの頭を撫でる。
それに気持ちよさそうに目を細めるリリト。
「えへへ、ナナ」
ゼッハの所にリリトが来ると他の人は皆席を外す。
「お前がさ、あんまり長くないって噂がたってるみたいだな?」
「らしいね」
そんな事はどうでもいいといった具合にリリトはゼッハの香りと温度を楽しむ。
「その、ガルムだっけ? お前が取り込んだ人造人間のおかげでお前の体組織の崩壊は一応止まってるんだけどな」
「そうなんだ」
それもリリトにはあまりどうでもいい事だった。
「しっかしお前ヤーパンから帰ってきてから前にも増して甘えん坊になったな?」
「私は私だけじゃなくてガルムと昔のリリトの分も甘えなくちゃダメなの! だからこれでもまだ甘え足りないの!」
「はいはいそうかよ。今日はよく晴れてるから夕焼けが綺麗だろうな? 散歩でもして何か美味いもんでも食って行くか?」
「私はナナがいればどこにでも」
昔のように抱き上げる事は出来ないが、ゼッハは椅子に座るとそのままリリトを自分の膝に座らせる。
亜麻色の髪に黒い毛がいくつか見れる。
日本から帰ってきてからリリトにいくらか変化が見られた。
止まっていた成長が進んでいたり、身体能力が過去のリリトと変わらないくらいの数値が出るようになっていたり、それは日本でガルムを吸収したからなんだろうと確信していたが、自分もリリトも近い未来避けられない滅びが突如やってくるんだろうなと、他人事のようにゼッハ思っていた。
正直死という運命を無理やり回避してしまったんだからそのくらいは当たり前だろうと思っていた。
「なぁリリト」
「なぁに?」
「お前は生まれてきて良かったと思うか?」
リリトはゼッハの目を見て言った。
「私の一生は幸せばかりだったよ」
(嗚呼私はこれが聞きたかったんだな)
不意にゼッハの瞳から涙が零れる。
ペロッ。
それをリリトは舐めとる。
「ナナどうしたの?」
「こいつ生意気言いやがって」
ぎゅっと抱きしめられるリリトはそれに身を委ねて自分の抱きしめる力を少し強めた。ずっとこのままだったらいいのになっと思って笑った。
「私はナナのリリトだからな?」
トロイヤーフント、リリト 御堂はなび @minawa
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