第93話【ファンギャラ編】誰だお前は!?

「え、英雄だと!? あの高校生が? それこそチート能力者と転移者が望みそうな展開ではないか。いやそれより、あの少年に感じたバリバリの違和感は何だ?」


「それにどうして"彼等"って複数形で呼んだんですか?」


『簡単なことだ。彼はあの喋る携帯端末で変身。その能力の源は彼のアバターだ』


『あの少年にはアバターが憑依してたんだよ』


「憑依ですって!? 憑りつかれてますの!?」


「なによそれお化けじゃないのよ!?」


「なにアバターってゴーストなの!? もうゴーストはこりごりよ!」


「ぴゃああああもういやだあああああああお化け怖いぃぃぃぃぃ!」


「えぇい皆落ち着け!! とにかく、今はあの少年とそのアバターと喋る携帯端末に協力すればいいのだな。それが今回の任務にも関るのならな!」


 全員掛け声を掛けてあのナミヲ掴と呼ばれた少年の追跡を始める。追っている間にもチェイサー姉弟が、彼らが変身するマルチフォーマーついて説明してくれるそうだ。このバイク姉弟は異世界の情報だけでなく地球の情報すら網羅しているようだ。便利と言えば便利だがどういう構造をしているのやら。


 あの携帯端末はオーバーテクノロジーで作られたインタフェイサーと呼ばれる変身用デバイスで、自分達と同じように高度なAI「スウェン」が組み込まれているらしい。彼の制御を受けて、掴と呼ばれる少年に彼のアバターであるナミヲが憑依して表人格を司り戦う。潜在意識内に引っ込んだ掴はイメージでプログラムを組みことが出来てサポートが出来る。憑依能力と言うのはアバターが持つ共通能力で、自分達の身体を量子化させて人間の脳に入り込んで意識を司る電気信号をハイジャックするそうだ。


「では、ナミヲと言うアバターは同胞と戦っていることになるではないか?」


『まあそういうことになるな』


「それって……とても辛い事じゃないですか? 同じ種族同士で争うなんて」


「同種族同士で戦うなど、いくら間に人間がいるとはいえ僕達では考え難いことですわ……」


『ネアちゃんコルラちゃん。それも彼等穏健派のアバターが選んだ道なんだ。だからこの争いは単純な人間対アバターの構図じゃないんだよ』


「な~んかこっちの争いってのもアタシらの世界と変わらず随分と複雑じゃない、ねえ旦那? てっきり立派な旦那の世界だから争いは無いものだと思ってたけど」


「結局何処の世界も同じってことなのぉ?」


「茶化すなピーコ、モコ! いやまあ、日本はかつて大きな大戦で負けたっきり戦争は無いからな。他の国では争いは絶えなかった。だが、ファンギャラが登場したことで世界は文化による発展こそが素晴らしき道なのだと気付いたんだ。現実の障害や壁を飛び越え、色んな人と繋がりその先へ向かう。ファンギャラを開発した御門みかど御守みかみさんが掲げたスローガンだったよ……」


「アンチさん……そこまで話してくれるということは自分の記憶、思い出したんですよね?」


 ネアが俺の顔を覗き込み、心配するような表情をしている。複雑な心境を読み取られたのだろうか。彼女を安心させるように頭に手を置いて撫でる。


「完全にすべてを思い出したわけではない。自分の出自は思い出せたが、それは今ここで話すべきことではない。彼らと合流してから話した方が良い……」


『警告。チート能力を感知。チート能力を感知。非常に危険。非常に危険』


 脳内にナビ音声が響く。視界に赤いフィルターが掛かるが、今回は異様に点滅している。


「このタイミングでチート能力者か!? しかも非常に危険だと!? 今までそんな警告は無かったではないか……余程強力な奴らなのか?」


「アンチさん、そう言えばあの時、変な機械さんが敵は複数と言っていました。しかも方角的に一致しますよ!」


 ネアの言葉を聞き、嫌な予感がした。最悪の事態になるのではないだろうか。


「まさか、アバターにチート能力が備わっているとでもいうのか!? そうだとしたらかなり不味い状況だ。もしも破壊力系か殺傷能力が高いチートだったら大変なことになるぞ。あの少年たちではチート能力に対処できない……間に合ってくれよ!」


 チェイサー姉弟を走らせ数分。遂に現場と言うの名の戦場にに辿り着いた。


「アンチさん! あの人達が!?」


 ネアの指差す方向に視線を向けると、マルチフォーマーである掴少年がいた。上空には複数の空飛ぶ人間がいるが、あれは人間ではないことは理解している。奴らは仮想世界ファンギャラから出て来たアバターだ


『チート能力兼アバターのデータを表示します』


 ▼ブラックチートウイルス

 アバター達の人格を狂暴化させ洗脳を促すブラックウイルスが、破棄されたチートアバターに感染したことでバグが生じて活性化。独自の自我を確立した。バグ技やチート能力で攻撃。殆ど狂気に飲まれているので言葉は通じるか不明。


「少し中途半端なデータじゃないか?」


『今この時、この時代、この世界で初めて出現した敵の為に情報が不足しています』


「そういうことか、だが仕方がない助けに行かねば。行くぞ皆!」


「「ラジャー!!」」


 すると、攻撃を受けていた掴少年がアバター達に向かい見栄を切って叫ぶ。彼はこの状況で一体何をしているのだろうか?


「もはや理性の欠片も、言葉を話す力すら失ったか! ならば、この私がせめて苦しまずに逝かせて進ぜよう!」


 彼は手に握ったインタフェイサーと呼ばれる携帯端末を取り付けると、緑色のスイッチを押す。


PosseポゼPosseポゼPossessionポゼーショ~ン!』


 突然変な電子音声の歌が聞こえて来た。何だこの歌は!?


「ちょっと!? なんか変な歌が聞こえてきたんだけど旦那!?」


「あの機械、スウェンとやらが歌っているのか……? 何のために?」


『いや主よ』


「なんだ?」


『あれはいわゆる変身待機音声。作者の趣味だそうだ。主のドライバーとネアのガンナーでも流れてるだろう?』


「いや俺の方がカッコイイ」


「私のもカッコイイです!」


 視線を戻すと、彼は両腕を交差させた後に前に思い切り突き出す。あの動作に意味はあるのか?


「変身!!」


「「え?」」


 思わず全員で声を出してしまった。この状況でそんなベタな言葉を言うのか!?


「それはいくらなんでもベタ過ぎるだろう!?」


「アンチさん!?」


「今は昭和じゃなくて平成だぞ!?」


「いやどうしたのよ旦那!?」


 ツッコミどころ満載過ぎて思わず叫んでしまったが、変身と叫んだ彼の身体がおびただしい量の黄緑色の粒子に包まれていく。そして粒子が晴れると。彼の身体は驚くべき変化を遂げていた。


『電装・ハルモニアフォーム! 繰り出す双剣は・永遠の調和!!』


「しかも意味の分からない口上付きか!!」


 思わず叫んでしまったが一旦落ち着き冷静に見よう。

 一見すると鎧を装備した姿にも見えた。しかし、それは鉄でできた鎧と言うよりは有機物で構成されてい様にも見えた。実に生物的特徴が目立つのだ。まるで生きた生体装甲とでも表現すればよいのだろうか。


「それでは、いざ参る! いざいざいざぁ!!」


 マルチフォーマーはアバター達に向かって駆け出し、足元に落ちていた木の枝を掴みあげる。木の枝は0と1と六角形の粒子を放出するとあっと言う間に剣へと変化してしまった。さらに逆の手にはもう一本の剣が出現。二刀流のようだ。


「アンチさん、あの変身はアンチートマンとネアンチートゥマンのように装甲に身を包むものではないです。私達が人間対に変身する場合に近いような気がします」


「そうか。ではあれは肉体自体が別の物へと変化する系統の変身と言うわけか……おそらくあの未知の粒子反応の効果か」


『英雄のデータ表示します』


▼電装態10号マルチフォーマー

 この世界の代表英雄。夢緒ゆめおつかむに彼のパートナーアバターであるナミヲ、デューク、紅蓮クレン、スコピーが憑依。インタフェイサー10号機を使用することで各フォームに変身可能。システムの管理は搭載されたAI「スウェン」が行う。FG粒子により強化皮膚と生体装甲に変化した肉体を持ち、フォームにより形状・強度・能力が異なる。手にした物体をアバター達が所持していた武器に変化させるモーフィング機能を持つ。潜在意識に引っ込んだ掴が内側からプログラムを組むことで防壁や捕縛等のサポート攻撃が可能となっている。


「何とも難解なものだな。少し理解に時間が掛かりそうだな。まあいい。行くぞネア!」


「はい。アンチさん!」


 アンチートベルトを取り出し身体に装着。ネアもアンチートガンナーに掌を当てる。


AntiアンチFighterファイター!》


AntiアンチUpアップ!》


 明るい口調の電子音声と声が曇ったような低い電子音声が響き、同時に暗い口調の音楽と明るい音楽が同時に始まる。


「少し対抗心が芽生えてしまった。俺達も言うか……」


「何をですか?」


「変身!」


「へ!? あ、ああ変身!」


『戦え治安維持・守れ秩序調和・招け安置・ア・ン・チート・ファイター!』


『Hey・安置・因んだ治安維持・Yeah! 秩序・調和・アンチート!!』


 自分とネアの身体を赤紫色のエネルギー波が包み込み、装甲が次々と装着されていく。エネルギーが晴れると俺達の変身が完了した。

 すかざすネアがアンチートガンナーから光弾を撃ち込み、アバター2体を撃破。俺は手を翳してアンチートアックスを呼び出す。遠くから響く轟音と共に次元の壁を越えてアックスが飛んできた。しっかりと柄を握ると敵アバターの一人に斧の一撃を叩き込み撃破した。やはりこいつらもチート抗体で撃破できるようだ。


 すると、さすがにこちらの喧騒に気付いたアバター軍団とマルチフォーマーが驚いた様子でこちらに視線を移す。そして、意外にも口を開いたのはアバターの方だった。


「ダレダオマエハ!?」


 よろしい。聞かれたからには答えるのが流儀と言うもの。ネアの肩を叩き合図を送る。


「俺は異世界チート転生者を狩る番人にして執行者、死神アンチートマン!」


「私はパートナーのネアンチートゥマン!」


「そして我らが召喚獣達!」


 ネアと共にコルラ達を指差す。コルラ達は咄嗟のアドリブに一瞬慌てるが思い思いに勇ましいポーズを取った。そう、それでいい。


「俺達はわけあってこの世界に降り立った。この地球を守りし英雄マルチフォーマーよ。今からお前達に助太刀するぜ!」


「です!」


 決まった。名乗りも完璧。この格好良さに驚き、助太刀に感謝してくれ。


 しかし、こちらの予想に反しマルチフォーマーとアバターはこちらを向いて突っ立ったまま無反応。やがてお互いに顔を見合わせ「知り合い?」「いや違う」というような会話まで繰り広げている。俺達が額に汗を滲ませながら滑ったのかと焦り始めると、マルチフォーマーとアバター軍勢が一斉に言葉を投げた。


「「『――誰?――』」」


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アンチートマン~異世界チート転生者を狩る者~ 大福介山 @newdeno

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