朝からぱっつん

翌朝―――。




「……だきます……」


「ぁい……」


二人して朝が弱い為、ボソボソっとそんなやり取りから、一日の初めである行為……朝食が始まった。


「…………」


「…………」



決して華やかでも騒々しいわけでもない。俺と爺さんの朝食風景は無そのものだ。

寝起きから喋る気力はなく半分まだ寝ているわけでもあり、二人とも無言で焼いた食パンをかじるのみ。


「……ぅゆとっで……」


「ぁい……」


口を開いてもこれだけ。

目玉焼きにかけるんだろうから、目の前にあったしょうゆを渡してやって会話は終わりだ。

後は無言で食パンをかじり……。




“今日は今流行の女の子の髪形についてお伝えしますっ”




適当に点けて、適当にチャンネルを回して放置したテレビをぼーっと眺め、覚醒を待つ。




“あ、あの子もそうですね。あ、あの隣の子も”




なんだか女性レポーターが街頭に出て、流行の髪型をしている子をリサーチしている様子が映っている。


「…………」



正直、トレンドなんてもんは追ったらきりがねえし、回り回って古いが新しくなるように、真新しいようで結局は決まったデザインに追加するか排除するかのリサイクルだと思い、そこまで興味が無くなっちまった。それに、流行っていようが、これはねえわと思うものも見ていたら結構あったりするわけで、似合わないものを流行りだからと着たり変えたりするのは返ってダサいと俺は思う。


「あむ……もしゃもしゃ……」


自分が好きな物を着たり好きなスタイルに髪型を変えることこそがファッションを楽しむ、お洒落を楽しむということなんではないだろうか……? と、こういった都市部でやってる朝の番組に声を大にして言ってやりたいくらいだ。




“やっぱり~皆やってるじゃないですか?可愛いからやってみようかなって~”




インタビュー受けて勘違いしてるブス。てめえにもだ。オリジナリティーというか、お前なんか違うんだよ、根本からして。




“そうですよね。皆やってますもんね。最近では女優の―――”




つうか、そもそも、流行りの髪形が似合ってない奴にインタビューしてるレポーターの人はその流行の髪型とかしていなくても可愛かったりするのは、やはり、嫌味なんだろうか? ……とも思ったりする。




「ぉれも……してみようかな……」




ぼーっとしながら、ぼそっと呟く爺は半分寝てるのではなく最早少し逝っていたようだ。




「じぃさん……髪の毛ないだろ……」



今から伸ばしても、その頃には違うのが流行ってること間違いなしだ。



「ヅラとか……被ってさ……」



寝ぼけてる割に本気度が少し垣間見えるその発言は何故なんだ……?


「爺さん……あれは女がする髪型だよ。野郎がするとよくてヒッピーに見えるだけ……」


まあ、自由さで言うと爺さんはヒッピーに十分なり得る予備軍的存在かもしれないけどな……。




「でも……いいじゃん……黒髪ぱっつんって……」


「いや、見るのはだろ……てめえがやってどうす―――」


ん……? 黒髪ぱっつん?


「おいおいおいおいっ! ちょっとまてっ。黒髪ぱっつんが流行ってるって、何故っ? どうして!?」


ほぼ鉄板的であって、流行なんか何度もあったし、今取り上げることかっ!?


「可愛いからだよ……やる人によってはだけど……」


「いや、そうだろうけどっ。なんか、なんかおかしくないか?」


何がかはわからない。けど、なんか、なんか違和感がある。


「今更感がありすぎるし、昨日、爺が見たという黒髪ぱっつんの混姫らしき人物と何かしら繋がりがあるような感じがするっ」


根拠はないが勘が伝えてきやがるんだ。


「混ちゃん……?」


そう問うてくる、爺の目にようやく色が戻り始めてきたので



「ああ! 混姫ならTVすら操ることとかできるんじゃないのかっ!?」


朝っぱらだが関係なく、立ち上がり声を大にしてテレビを指差しそう言ってやる。


「う~~ん……じゃあ、何かい? 混ちゃんはこの世の女性の大半を黒髪ぱっつんにしようとしてる、と?」


「ああ!」


この世の女性の大半ってのは大げさだが、少なくとも黒髪ぱっつんを増産したい思惑はありそうだと思うので力強く頷く。


「黒髪ロングの子もショートの子も関係なく?」


「あったりまえだ!」


長さは関係なく、むしろ色だって関係ないのかもしれない。黒に戻せば済むことだしな。髪にも環境にも優しい。


「なにがいけないの? いいじゃない」


「いいじゃないだと!? お前、周りが黒髪ぱっつんだらけになったらっ―――」


何がいけないんだろう……?


「いや、ごめん。わかんねえや」


むしろ、俺が知ってる女子たちの黒髪ぱっつん見てみたい気持ちのほうが強いかもしれない。


「面白みはないけど見てみたいわ……やっぱり」


勢いはどこへやらで、胡坐を掻いて座る。


「まあ、仮に混ちゃんがやったことだとしてもさ……」


言いながら、爺は煙草に火を点ける。そして……。


「面白いからいいじゃないの」


と、ニヤリと笑って見せたのだった。




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学園奉仕活動―序― k.Dmen @Kdameo

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